王都パリシィ
「レイラ!?ねぇ、レイラ!」
私、セリエは必死にレイラに手渡されたボールペンに呼びかけていた。
「あぁ、もうどうなっているのよ!」
しかし、ボールペンから聞こえるのは砂嵐の音だけ。
本来そこからやり取りできたはずのレイラの声が聞こえない。
「ねぇ、そんなおもちゃいつまで持ってるわけ?」
そうララが嘲笑う声が聞こえるが今は無視しておく。
こうしてはいられない……。
そう思った。ババロン村の渓谷。
レイラとイリスのいたところに、あの黒鳥が現れた。
そんな、話が聞こえてきた。
それが事実なら、非常にまずい事態だ。
魔女になったばかりのイリスとただの人間であるレイラに敵うはずがない。
だって相手は先代の魔女エルザを殺した化け物だ。
魔女を殺せるなんてただものじゃない。
だって、魔女を殺せるのは同じ魔女だけだ。
エルザを殺した時点で、黒鳥が魔女と同等の力を持っていることは明らかだ。
それにそもそもなぜあんな化け物が急に出てきたのかさえ、分っていない。
リーシアがあんなに焦っていたのは、黒鳥がなぜ突然現れたのかまだ明らかになっていなかったからだ。まだ魔法研究省が研究途中だったはず。
とにかくこのままではまずい。
二人を保護するためにも今すぐ向かわないと。
ガタッ!
私は椅子から立ち上がり、扉へ向かおうとする
しかし。
「縛鎖青蔓!」
唱えられた詠唱。
すると、ドアに突如として蔓性植物が絡みつく。
「セイヨウキズタ……別名、リエールとも言う」
双子の姉であるララはそう言う。
リエール……とかいう植物がドアにはびっしり絡みついている。
とてもじゃないが、ドアを開けることはできないだろう。
「ドアからはそんなに簡単には出してあげない。どうしても出たいってんなら、まずはこの契約書にサインすることね」
そう言い、机の上にある契約書を指さした。
「ぐっ……」
思わず、声が漏れる。
今度は後ろから足音が聞こえる。
振り向くと、ルルが後ろに立っており、退路を塞いでいた。
「私は今すぐ向かわないといけないところがあるの。だからそこを通して」
私がそういうとララは鼻で笑う。
「ヘっ。そんなの認めると思う?話聞いてなかったの?契約書にサインしろって言ってんの」
あからさまに態度を変えるララ。
「強気だね」
「そりゃあ強気にもなるでしょう。こっちにはリーシア様を含めた政治に多大な影響を与える人たちがついてるの。」
「それに……」
ララに続き、後ろに立つルルも言う
「いざという時は魔法を扱ってもいいと言われている。」
そう、魔法杖を持ちルルは淡々と告げる。
「あ。もちろん、あんたは魔法を使っちゃだめよ。もし使えば即座に異常事態を検知し、近衛兵が入ってくる。言っとくけど、あんたの魔法にしか作動しないようになっているから」
そう楽しげにララは告げる。
(それって私だけ詰んでる事じゃない!)
「ほら、早くサインしなさい」
「ちょっと待って」
私がそう言うとララは不思議そうに首をかしげる。
「前から聞きたかったのよ。私を引き抜いてまで魔法研究省は何をしたいの?」
「リーシア様も言ってたでしょ。あんたの魔法は役に立つのよ」
違う。それ以外の目的があるはずだ。
「私が魔法研究省に対する解像度が低いことは分かっている。だから教えてくれたっていいじゃない。」
「いいよ。教えても。ただし、教えるのはサインしたあとよ」
サイン、サイン。サインばっかり!
何を隠してる。
「私は正直、魔法研究省はただ権力が欲しいだけの腐敗した連中だと持っていた。けど、きっとそれ以外の裏がある。いったい何。魔法研究省が騎士団を抑え込み、発言権をより増やしたいの分かっている。」
「へぇ、騎士団は脳筋バカしかいないと思ってたけど、ちょっとは頭が回るみたいじゃない。けど、やっぱり詰めが甘い。私たちの高度な理論を理解するだなんて百年早いのよ。発言権を増やしたいという部分だけ見るなら、それは騎士団だって同様じゃない。じゃなきゃ、自ら率先してイリス捕獲作戦なんて行わない。それに相手が腐敗してるからって、自分は腐敗してないっていう保証はどこにあるの。そんな理由じゃ不十分。魔法研究省のみがそんな理由で動いてるだなんて説明するには因果関係が薄いわよ。」
ララはそう言う。
思ったより、いろいろ喋ってくれた。
まぁ、魔法研究省は長年、魔法に関する研究を行ってきた組織。
騎士団と違い、国の大学や魔法学校と多く繋がっている。
頭を使う部分や論理的に考える部分なら、間違いなく魔法研究省の方が上だ。
「だったら……」
だったら、理由はなんだ?
魔法の研究。
きっと魔法研究省は私を使って何らかの研究を行うのだろう。
それにそれだけではない、イリスやレイラにも手を出した時点で、イリス……まだ誕生したばかり魔女の研究も行う気だ。
でもそれだけでない気はする。
魔法……魔法研究……
研究はまだ見ぬ発見をすること。
魔法研究省の目的は新たな魔法技術の開発。
そして魔法研究省のもう一つの目的は、権力や地位の掌握。
そのために政治中枢へ今より入り込み、発言力確保する気でいる。
いや、待て。
政治中枢に入るだけが目的なのか。
もっと広く物事を考えた方がいいんじゃないか。
他の可能性。
現在、フランシィ王国の状況。
国内だけでなく、世界全体で……
それを踏まえて考えると……
まさか……。
「イギリシニア連合王国……」
私がふと思いついた言葉がポロリと口から出る。
その言葉を聞いたララが見て分かるほど、顔色が変わるのが見て取れた。
「ちょっと喋りすぎですね……」
そう、背後からルルの言葉が聞こえた。
「痺毒針」
ルルの手が背中に当たったのが分かった。
すると、体が急にだるくなり、体が痺れてくる。
やられた。
おそらくなんらかの魔法を打たれた。
「手の感覚や意識まで奪ってない。その痺れ、サインをしたら取ってあげる」
そうルルの声が聞こえる。
早く……レイラのとこに向かわないといけないのに……私は……!
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