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悪夢の再来

 イリスは右の手のひらを下に向け、左の手のひらを上へと向ける。

 両手のひらを合わせることをせず、空白が空いたままとなっている。

 イリスはまるでそこに球体があるかのように、両手をぐるぐるとゆっくり動かす。


 両手の間には何もない……はずだった。


 素人目の私が見ても分かるように、そこに風がどんどん収集されていき、光を放つ球体のようになっていった。


圧縮旋風(エール・コンプリメ)


 イリスはそういうと、左手を黒鳥(シュヴァルツヘルシャフト)の方へと差し向ける。


 まるでそこにあったかのように、いや違う、そこに存在した球が黒鳥(シュヴァルツヘルシャフト)の喉元を貫いたのだ。


「ゴキュッ!?」


 と黒鳥(シュヴァルツヘルシャフト)の声なのか、それとも何かが詰まったような音が鳴る。

 だがそれもそうだ。黒鳥(シュヴァルツヘルシャフト)はのどを貫かれ、血が噴き出している。

 口から血が漏れ、息苦しそうだ。


(……勝った)


 私はそう思った。

 亡き先代を殺した黒鳥(シュヴァルツヘルシャフト)をついにイリスが殺ったんだ。

 そう思った。

 しかし。


「ごふっ……?」


 地面に突如として血がしたたり落ちる。


「……え?」


 思わず、私は声を漏らす。

 だって、血を吐き出したのは黒鳥(シュヴァルツヘルシャフト)ではなく、イリスだったからだ。


(え。)


 イリスはそう言いたげだったが、声が聞こえない。

 そしてイリスの姿が一瞬歪んだように思えた。

 口からは血が溢れ、一滴一滴滴り落ちる。

 そしてその滴り落ちた血が、地面に真っ赤な水玉模様を作っていく。

 イリスは困惑し、何が起きたのか理解できないまま、ただ滴り落ちる血を眺めることしかできない。


 黒鳥(シュヴァルツヘルシャフト)がやったことはそう難しいことではない、ただイリスの周囲の気圧を急激に引き下げたのだ。

 気圧が引き下げられたことで、体内の肺や血管が破れ、血が溢れだした。


 イリスは急な気圧の変化で、脳に酸素が行き届かなくなる。意識は朦朧とし、視界はぼやけ、焦点が合わなくなる。

 鼓膜は破け、キーンとした音しか聞こえなくなる。


「!イリス!!!」


 私はイリスに呼びかけるが、おそらく聞こえていないだろう。

 イリスはふらついた後、膝をついて崩れ落ちてしまう。

 地面に膝をついたイリスは、もう私のことを見ていなかった。

 その目は傍から見ても焦点が合っておらず、虚ろだ。

 動けなくなったイリスを黒鳥(シュヴァルツヘルシャフト)が見逃すはずがない。

 黒鳥(シュヴァルツヘルシャフト)は翼を振りかざし、イリスを振り払ってしまう。


「っ!!!」


 振り払われたイリスは抵抗する力もないまま、そのまま飛ばされ、壁に激突してしまう。

 轟音が鳴り響く。すごい勢いで投げ飛ばされたからか、イリスがぶつかった岩壁は崩れ落ち、巨大なクレーターができる。

 イリスは気を失い、倒れ込んでしまう。

 外傷がないとはいえ、これはまずい。


(どうにかしないと……!)


 私はイリスの元に駆け付けようとする。

 しかし、それを黒鳥(シュヴァルツヘルシャフト)は許してはくれなかった。

 まばゆい光が見えた。そう思った。


 コオオオオオオオオオッ!!!!


 黒鳥(シュヴァルツヘルシャフト)はくちばしからの光線を吐き出したのだ。

 私の視界が白くまぶしい光でおおわれる。


「ぐっ!」


 あまりの光量に思わず、手で光を遮るように、顔を覆う。

 光線を吐き出した?

 まずい。その先にはイリスがいる。


「い、イリス!」


 光線が止んだのか音が聞こえなくなった。

 私はイリスのいた方向を見つめる。

 熱で歪む視界の先、舞い上がる土煙がゆっくりと晴れていく。

 しかし、そこにイリスはいなかった。

 光線による焼け焦げた跡と、崩れ落ちた瓦礫だけがただそこにあった。


「嘘……イリスは?そ、そんな!」


 イリスはどこに消えた。

 いなくなった?まさか……そんな最悪の可能性が頭をよぎる。


「あ……あぁ……!」


 自然に私に沸いてきたのは悲しみなどではなく、怒りだった。


「許さない……」


 私はおろした両手を握りしめ、うつむいたまま、歯を食いしばっていた。

 汗が顔を流れていく感覚が伝わってくる。

 黒鳥(シュヴァルツヘルシャフト)をにらみつける。

 黒鳥(シュヴァルツヘルシャフト)は依然、悠々と浮いており、イリスがいた方から、私の方へと向き直す。

「あぁ、いたのか」とでも言いたげな様子だった。

 ただ、それが頭にきた。


「許さない!」


 私は残っていたカードを取り出す。

 もう片方の手で、カードをかざすように唱える。


錬成(トランスミテーション)!」


 そう唱えると、カードから剣が錬成される。


 剣を握る手は、情けないほど震えていた。それでも私は、それを顔の前に掲げたまま、悠然と浮く怪物を睨みつける。

 勝てるかなんてわからない。

 いや、私一人で勝つだなんて到底無理だろう。

 それでもやらなくはなければならない。


「ああああああああああ!!」


 剣一本をただ持っただけのまま、震える足で地面を蹴る。

 喉が焼けるように熱いが、構わず叫びながら、私は悠然と佇む怪物の方へと駆け出していた。





 一方、その頃。


「あぁ!もうどうなっているのよ!」


 王都パリシィにて。

 セリエは必死にレイラから貰ったボールペンに語りかけていた。

 このボールペンを介して、遠くにいるレイラとイリスとも会話できる……はずだった。

 しかし、ボールペンからはザアァ……と雑音しか聞こえてこない。


「まさか……」


 考えたくもない事態を想像し、セリエは足を震わすことしかできずにいた。

 窓の外では平和な街の音が響いている。それなのに、手元のボールペンからは、ただ不吉な砂嵐の音だけが流れ続けていた。


こんばんは!お久しぶりです!

相変わらず更新が遅い!

GWも明け、忙しい時期が終わったので、ゆっくりと続きを書いていこうと思います!

引き続き読んでいただけると助かります!

リアクション、評価やブックマークをして頂けるとすごく嬉しいです!

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