青空の向こう(2024年編集)
~ 十二月二十七日、愛知県豊田市大樹寺 ~
柴田智大、芝﨑直人の告別式が、しめやかに執り行われた。
葬儀には、九条大河ゆかりの者、柴田智大の親族、そして、芝﨑直人の関係者、報道機関も参列した。
警視庁捜査一課が、報道機関を、捜査関係者として呼んだのである。
告別式の後に、佐久間は、報道機関の全員に対して、謝辞と事件の結末を、隠さず伝えた。全員が、冷静に、これを聞いたうえで、真意を尋ねる。
「山本は、実のところ、事件の立役者だったのですね?」
「ええ、終盤まで、正体が分かりませんでした。余罪が色々と分かったのですが、若い頃から、刑務所を何度も行き来していて、麻薬の密売人だったんです。芝﨑は、正義感が強い、有能な検察官だったのですが、妻の利恵子が、山本の麻薬によって、自殺しました。悪いのは、山本だけではなく、妻の利恵子を薬漬けにしようと企んだ者なのですが、この者は、実は、芝﨑の出世を妬む、同僚の検察官だった事が、明らかになりました」
「本当ですか?なら、検察庁は、またしても、大騒ぎでは?」
「それなのですが、三年前の逮捕劇の際、この者は、交通事故でこの世を去っていたのです」
「交通事故?起こした方ですか?起こされた方ですか?」
「起こした方です。当時の捜査記録では、自殺目的で、事故を起こしたと結論付けでいます」
「では、あやふやのままですか?検察庁は、何と言っているのですか?」
「検察庁は、この事実を知りません。おそらく、芝﨑の妻が、自殺した経緯も、同僚が妬んでいた事も、知らない。……いや、知っていたとしても、知らぬ存ぜぬでしょう。それは、個人情報に関わる部分であって、事件として、公になっていないので、今となっては、どうする事も出来ません」
「闇は深いと言う事ですね。ところで、唯一、生存した鹿井健一は、どうなりましたか?」
「鹿井は、警視庁捜査一課の保護下で、助かりました。元気にやってますよ」
「芝﨑は、途中で計画を、取りやめました。これは、何故だと、お考えですか?」
「鹿井は、実のところ、人数合わせの為に、対象者となった、最後の一人です。六年前、江戸川区幼女誘拐事件で逮捕されたが、不起訴処分となりました。当時の裁判記録と、捜査記録を調べたのですが、私の見立て通り、江戸川区の土手で、親と離れてしまった子供を、鹿井が保護したんです。その場で、警察に通報しておけば、大事にならないのに、お腹がすいたと、泣き叫ぶ子供に、ホトホト困ってしまった鹿井は、自宅に連れて行き、ご飯をご馳走しました。そんな折り、子供がいない事に気が付いた両親が、交番に駆け込んでしまい、そんな事を、露とも知らず、鹿井が、その子供を交番に届け、現行犯逮捕されてしまった。運が悪い事に、検察に送検された鹿井は、はじめは、起訴相当になりそうでした」
「起訴相当が、一転、不起訴相当になった。それは何故です?」
「当時の担当検察官は、勝ち星が少なく、功を焦っていた。だから、供述調書をねじ曲げて、起訴しようと企んだのですが、他の検察官が未然に気が付いて、その暴走を止めた。これが、事実の様です。ちなみに、その検察官というのが……」
「もしかして?」
「ええ、芝﨑に嫉妬した検察官、つまり、この不祥事の三年後、交通事故で、この世を去った者です」
「ひええ、因果なものですね」
「全くです。芝﨑は、当時、東京高等検察庁にはいませんでしたから、この辺の経緯は知りません。もし、芝﨑が、当時の検察官で、鹿井と接していれば、即釈放していただろうし、この検察官は解雇されていたかもしれない。そして、芝﨑の妻、利恵子も生存していて、今回の事件も発生しなかったでしょう」
「因果応報とは、よく言ったもんです。では、鹿井健一は、もう晴れて、自由ですか?」
「ええ、勿論です。若いのに、気が利く良い青年です。彼には、これから、幸せになって貰いたい」
「佐久間警部。事の顛末は、分かりました。最後に、芝﨑について伺います。何故、自殺を止めなかったのですか?」
(………)
「寿命が、正に尽きようとしている者が、最期に、自分の死に場所と死に方を、決めたんです。刑事失格かも知れませんが、芝﨑直人の最期は、あれで良かったと、思っています。三年前には、果たせなかった、妻の仇である、山本への粛清が済み、九条大河の真相を知り、自分の事に対しても、何とか折り合いをつけ、納得して旅立ったのですから」
「誰も、佐久間警部を非難しませんよ。『佐久間警部は、最善を尽くした』と、報道機関は思っています」
「ありがとうございます。実は、皆さんを本日お呼びしたのは、他にも理由があるんです」
「理由ですか?」
佐久間は、喪主の川上真澄を呼ぶと、川上真澄は、一冊の小説原稿を、開示した。
「これは?」
「皆さんは、『未完』と解釈している、『紅の挽歌』です」
(------!)
(------!)
(------!)
「これが幻の作品、『紅の挽歌』!?」
「何故、大樹寺に?」
「詳しくは話せませんが、このミステリー作品が発端で、第二の悲劇を生んでしまった以上、この世から、失くそうと考えました。この作品の最期を、この場にいる皆さんと、見届けたいと思います」
(………)
(………)
(………)
関係者一同が見守るなか、川上真澄が、作品に火を点ける。
(…さあ、紅の挽歌よ。天に帰りなさい。……柴田智大をお願いね。…お疲れさま)
『紅の挽歌』は、激しい炎と共に、芝﨑直人の想い、柴田智大のしがらみ、そして、作品に関わる、生きとし生けるものの気持ちを、包み込みながら、天に帰っていく。
「これで、本当に終わりました」
佐久間と川上真澄は、涙を流しながら、その場から離れることが出来ない。
(……二度と。……二度と、同じ悲劇を生まない様に)
二人は、関係者が去った後も、灰となって昇っていく『紅の挽歌』を、祈りながら見送った。
悲しい男たちの想いは、青空の極みを越え、どこまでも高く昇るだろう。
新しい年が、始まろうとしていた。
二回目をご覧になった、皆さま。本当にありがとうございます。
この作品は、当時、描き切れなかった部分を補足したものに、なっています。
鹿井健一の事や、芝﨑直人の気持ち、それに纏わるエピソードなど、
このエピローグに、盛り込めたと思います。
三年前の芝﨑が関与する事件ですが、この作品を修正し終えたので、
明日から開始しようと、思っています。各タイトルの後ろに、
(2024年編集)をつけていきますので、良かったら、読んでください。




