FIEL1 アクアリウムの密室 解明編
【真相】
犯人(X)は盗んだ特級のノコギリガザミを自分の飼育下で脱皮するまで待ち、脱皮直後で体が非常に柔らかくなったソフトシェル状態の時に柵の隙間を通してアクアリウム倉庫の中に入れた。
ノコギリガザミなどの甲殻類は、脱皮直後は体が非常に柔らかくなり、その後、時間の経過とともに再び硬化する。また、脱皮前は食欲が顕著に低下する。Xは養殖作業員としての知識から、この特性に目を付け、特級のノコギリガザミの食欲が低下したタイミングで脱皮時期が近いことを見越して水産養殖場から盗み出した。
そして、脱皮を促すよう餌や環境を整えて飼育しながら待ち、脱皮直後で柔らかくなったノコギリガザミをアクアリウム倉庫へ運んで、室内の窓の近くの大きめの水槽の中に入れた(元々、水槽にいた小魚は捕食された)。
この時、Xは窓の柵の隙間から水槽にかけて楕円形の薄いプラスチックの筒のようなものを渡し、ノコギリガザミの自重を利用して緩い滑り台のように人工海水とともにそっと流し込むことで、ノコギリガザミに不自然な傷や怪我を与えないようにしつつ、胴体の厚みが7cmのノコギリガザミを5cmの柵の隙間から室内へ通した。
その後、数時間以上かけてノコギリガザミの殻が硬化したのを確認してから、Xは警察に養殖技術者のAが犯人だと偽証することで事件を発覚させ、このアクアリウム倉庫の鍵を、唯一、管理しているAに罪をなすりつけた。
密室トリック・脱皮軟殻
【着想のタネ】
大半のミステリーでは被害者やトリックが行われる対象は人間ではあるが、まずそこの固定観念や王道の展開に囚われていては新しい密室トリックのアイディアは生まれにくいと考えた。
そこで人間以外の生物の特性や能力などでトリックとして利用できるものはないかと模索し、その中でカニの脱皮による一時的な体の軟化が、何かトリックに使えるのではないかと思い当たった。
そこから、もしカニが脱皮直後に捕食者から身を隠すために狭い岩の隙間に無理やり入り込んだ場合、そのあと岩の隙間から出ようとしても硬化した体が岩に引っかかって、次の脱皮まで待たなければ出られないのではないかという素朴な疑問が浮かんだ。
そして、この展開を密室トリックに応用することを考え、設定や条件を練ることで『脱皮軟殻』のトリックが出来上がった。




