葦沢と城戸、勉強会。Ⅱ
一部性的な描写があります。
直接的表現がほとんど無いので、今のところはセルフレイティングはかけずに行くつもりですが、読者の皆様からの反応によっては、今後R15指定をさせて頂く可能性もございます。
ご了承ください。
二十五分勉強して、五分間イチャつく。二十五分勉強して、五分間イチャつく。
このサイクルが案外上手くいった。
五分間の休憩のお陰で、勉強する時に驚くほど頭が冴える。
かなり集中できて、普段よりも遥かに速く問題を解き進めることができた。
このサイクルを五回――即ち、二時間半ほど繰り返したあたりで、私は数学の試験範囲を完璧に勉強し終えてしまった。
時刻は六時二十分。日はほとんど暮れていた。
「はぁ〜、全部解き終わった……」
「ぇ、早くない?ちょ、私もすぐ終わらすからちょっと待ってて」
綴ちゃんは焦ったようにペンを動かし始めた。
しばらくそれを眺めていると
「あんま見ないでよ……恥ずいから」
と小言を言われた。私は「えー」と不満の声を漏らす。
「もうすぐ終わるから、ちょっと待って」
「はーい」
私はさっき解いた問題集の解説を見直しながら、綴ちゃんが解き終わるのを素直に待つことにした。
待っていると尿意を催してきたので、お手洗いを借りる事にした。
「あ、ちょっとお手洗借りてもいい?」
「いいよ」
そうして、リビングから廊下に出ると、廊下のどのドアがお手洗いなのか分からなかった。ので、綴ちゃんに聞こうと思い、引き返す事にした。
すると、綴ちゃんが何やら私の鞄を物色しているような後ろ姿見えた。
何をしているんだろう、と思いながら、こっそり気配を消しながら近付く。
綴ちゃんは私の鞄から、今日の体育で使っていたジャージを引っ張り出し、そのままそこに顔を埋めた。
黙っているのも逆に気まずいと感じ、私は声をかけた。
「……何してるの?」
「えっ、ちょっ……!えっ!なんで……」
綴ちゃんが椅子から転げ落ちそうになる。
「お手洗いの場所分かんなくて、戻ってきたんだけど……」
「いや、これは違くて……!」
「何がどう違うの?」
「……何も違いません」
お互いテンパってしまい、ほとんど会話として成立していないような会話を交わす。
「流石にジャージの匂い嗅がれるのは……ちょっと恥ずかしいんだけど……」
「本当にごめん、出来事だったの……許して」
「そんなに、私の匂い好き?」
「……超好き」
「……じゃあ、そのジャージ貸そっか?」
「へ?」
確かに恥ずかしかったし、犯行現場を見た瞬間は流石にちょっと引いた。
しかし、綴ちゃんが私の事を好きすぎて奇行に及ぶなんて、今に始まったことでは無いので、少し頭を冷やせばすぐに許せた。
なんなら、自分が求められているような気がして嬉しいとさえ思えてきた。
そこで、私はある一つの案を思いついた。
そんなに私のジャージが欲しいなら本当に貸してしまおう、と。
奇行には奇行で返すのだ。
綴ちゃんは私が帰った後も私の匂いを嗅げてハッピー、私は帰った後も綴ちゃんに思い出して貰えてハッピーだ。
「次の体育の授業までに洗って返してくれるならいいよ?」
「……ありがとう!!」
綴ちゃんが珍しくちょっと大きい声を出した。
今の私たちは、客観的に見たらだいぶ気持ち悪いだろうなあ、と思ってしまった。
さて、ジャージの一件が終わったあと、綴ちゃんはすぐに意気揚々と勉強に戻った。
私はそれを隣で待った。
そうして待つことだいたい十五分、綴ちゃんが大きくため息をつき「終わった〜」と言いながら机に突っ伏した。
「お疲れ様〜」
「はぁ……数学終わったし、もう今日は休もう」
「そうしようそうしよう!」
私が椅子から降りて駆け寄ると、綴ちゃんも立ち上がり、腕を広げて迎え入れてくれた。
「お母さんが帰ってくるのが七時半前くらいって言ってたから、それまで遊ぼ」
「はーい」
家に誘ってくれるとは言っても、まだ流石に親に紹介するのは恥ずかしいらしかった。
不満ではあったが、まああと一時間も一緒にいられるなら十分だろうということで妥協した。
「じゃ、ここ狭いし、私の部屋行こ」
「えっ、いいの?」
「んー……誰も入れた事ないけど、千歳なら良いかなーって」
ついつい「千歳なら」と言われると口角が上がってしまう。
綴ちゃんに心をここまで許されているのが私だけ。嬉しいという気持ちがふつふつと湧き上がるような感じがして、ついついそのまま表情も緩んでしまうのだ。
「私だけ、かぁ……そっかぁ……」
「なんか恥ずかしいなぁ……ほら、こっちこっち」
片腕を抱きながら綴ちゃんに付いていく。
「わぁ……綴ちゃんの部屋だ」
「狭いし、大したものも無いけど……まあゆっくりしてって」
綴ちゃんが木のドアを開くと、そこにはこじんまりとした、綴ちゃんらしい空間があった。
まず目に入ってくるのは大きな本棚。
ある棚には少年漫画がずらりと並んでいて、ある棚には文学作品、また別の棚にはいくつかCDが飾られていたり。
とにかく趣味の多い綴ちゃんらしい、雑多な感じの本棚だ。
また、床には読みかけと思しき本がいくつか積まれている。
本棚にしまうのが面倒だったのだろう。
そして机。
真ん中にはびっしりステッカーの貼られたノートPCが置いてあり、その周りには教科書やらプリントやら読みかけの本やらが散らばっていて、ほどほどに汚かった。
私と綴ちゃんで撮った写真が一枚額に入れて飾ってあり、その周りだけは綺麗に整頓されていた。
恋人である私を招くのにも関わらず、ほとんど部屋は掃除されていなかった。
しかし、ゴミが散らかっているとかそういう事は無くて、変な清潔感のようなものがあったから、むしろ好感が持てた。
綴ちゃんの内面を表したかのようにさえ思える、良くいえばエネルギッシュな部屋だ。
「あんまジロジロ見ないでよー」
「ごめんごめん、ここで普段生活してるんだなーと思ったら楽しくなってきちゃって」
「やめてよ恥ずかしい……千歳、おいで」
綴ちゃんはモジモジと恥ずかしそうに俯きながらベッドに座ると、小さく腕を広げてこちらに目をやった。
私はそこにほとんど倒れ込むようにして突っ込み、そのまま綴ちゃんごとベッドに倒れた。
いつも綴ちゃんが寝てるベッドで、綴ちゃんに抱きしめられている。なんて幸せなのだろうか。
「うぁ……千歳……好きだよ」
「えへへ……私も」
綴ちゃんは普段人前では絶対に出さないような、蕩けた甘い声で言い、私を抱き枕のように抱きしめた。
私はぎゅう、と身体を縮め、抱きやすいような体制になった。
幸せをただ噛み締めていると、頭上から、すぅ、と寝息が聞こえてきた。
「えっ、綴ちゃん寝ちゃった?」
「ん……ぁ……いや、寝てない寝てない。寝てない!」
「疲れてるなら寝てもいいよ?」
「嫌。せっかく千歳と一緒にいられるのに寝るとかありえないから……」
綴ちゃんは眠たげに目を擦りながら起き上がった。このまま抱き枕にされていたかったのに、残念だ。
私も綴ちゃんに合わせて起き上がり、ベッドに腰掛ける。
すると、ちょうど本棚に入っていた一冊の漫画と目が合った。
背表紙には綺麗なフォントで、恋愛ものらしきタイトルが書かれていた。
綴ちゃんが恋愛ものの漫画を読んでいるなんて話をあまり聞いた事が無かったので、私はそれに興味を持った。
「綴ちゃん、あの漫画なに?」
「ん?どれ?」
「……これ」
本棚の方へ駆け寄り、その漫画を取り出す。
「ちょ、それは……!」
綴ちゃんは慌てたように立ち上がる。
綴ちゃんの制止はお構いなしに本を手に取って表紙を見てみる。そこには、抱き合う二人の女の子。
「ふーん……こういうの読むんだ」
「……はい」
ベッドに戻って腰掛け、ぱらぱらとその漫画のページを捲っていく。
キュンとしてしまうような歯の浮くようなセリフ、ヒロインの赤面、キスシーン――そんなものばかりがぎっしりと並んでいた。
私がぱらぱらとページを捲る度、綴ちゃんは気まずそうに視線を泳がせる。
なんだか綴ちゃんがしおらしくなっているのも珍しいな、と思いながら読み進めていくと、膝枕をしているシーンが出てきた。
綴ちゃんに似たウルフカットの髪型をした端正な顔立ちの女の子が、前髪の長い――ほんの少し、ほんの少しだけ私に似た女の子を膝枕していた。
「ねぇ綴ちゃん」
「はい何でしょう千歳さん……」
「綴ちゃん、こういう事したいの?」
「えっ……ぁ……うん、したい……です」
私の口角はニマァ、と上がった。
綴ちゃんを手玉にとっている感じがして、ついつい笑みを浮かべてしまう。
「する?」
「……いいの?」
「うん」
「じゃあお言葉に甘えて……」
綴ちゃんがしたがっているなら、膝枕されてやろうじゃないか。そう思い、隣に座る綴ちゃんの膝に寝転ぼうとしたその瞬間。
「えっ」
綴ちゃんが私の膝に飛び込んできた。
てっきり、私が膝枕される側だと思っていたのだが、綴ちゃんと少し認識が違ったようだ。
「ぁー……千歳……」
綴ちゃんは私のお腹に後頭部を押し付けながら腑抜けた声を出し、私の太腿を堪能している。
思っていたのとは違う状況になってしまったが、これはこれで可愛いからいいや、と思い、私は綴ちゃんの頭の重みを享受することにした。
ついでに頭を撫でながら甘やかす。
「綴ちゃん、お勉強お疲れ様……」
「はぁ……これヤバい、寝る、マジで寝そう……」
「寝ていいよ」
「あー、そんな事言われたらほんとに寝ちゃうって……」
「ふふ、おやすみ」
「三十分くらいしたら起こしてね……」
綴ちゃんは言い終えてからほんの二十秒後には、すぅすぅ寝息を立てて眠ってしまった。
現在時刻は七時。
綴ちゃんが寝ている間、私は退屈だったので、部屋にある漫画を色々読んでみる事にした。
とは言っても、綴ちゃんを膝に乗せていると、本棚までは手が届かない。
なので、床に積まれている本を読んでみることにした。
とりあえず手の届く位置にあるものを拾ってみる。
これまた女の子同士の恋愛ものらしかった。
しかし、先程の一冊とは表紙の雰囲気がかなり違った。
ポップで可愛らしい先程のものとは異なり、なんだかこの表紙は綺麗な、優美な雰囲気があった。
読んでみる事にした。
初めの方は、先程のあまり変わらない、普通の恋愛ものという感じの筋書き。
ただ、主人公とヒロインが惹かれあい、仲良くなっていくうちに恋心が芽生え……という感じ。
しかし、途中から雲行きが怪しくなってきた。
やたらと性描写が増えてきた。
なんなら、裸体がそのまま描写されていたりもした。
なんだかいけないような物を見たような気になったが、ついつい読み進めてしまう。
一冊目を読み終えた勢いで、そのまま下に置かれていた二巻目も読み始めてしまった。
綴ちゃん、こういうのも好きなんだ。
そう思うとなんだか少しドキドキしてきた。
そして読み進めていると、綴ちゃんが突然目を覚ました。
「ん……寝心地めっちゃ良かったなぁ……結構寝ちゃっ……って!ちょ!何読んでんの千歳!」
「ひゃっ!いや、これは、そこに積んであって……!」
綴ちゃんはゆっくり目を開き、私の読んでいた漫画を認識すると、勢いよく飛び起きた。
私はそっと漫画を元々置かれていた位置に置く。
「あの、それは、そういう目的で買ったんじゃなくて……本当に、たまたま。偶然、普通のラブコメだと思って買って……」
「じゃあなんで二巻も買ったの?」
「読んでるうちに興味出ちゃって……」
「……へぇ。綴ちゃんのえっちー」
「そっ、それを言うなら千歳だって二巻まで読むくらいハマってるじゃん!」
「えっ……ああ……ほんとだ」
私は何も言い返せず、黙った。
ちょっと気まずい感じになった。
綴ちゃんは何か言おうとしているが言葉が詰まっているというような雰囲気。
「……ねぇ千歳?」
やっとの事で絞り出したような声量で、綴ちゃんは言う。
「……なに?」
そう私は問うたが、綴ちゃんはそれに答えず、代わりに私に突然キスをして、そのまま身体を倒してきた。
「良い……よね?」
「……うん」
あまり驚いたりはしなかった。
こうやって、衝動的に押し倒されるのは今回が初めてでもないし、そもそも綴ちゃんの家に来た時点で、私の方も少し期待していた。
私が返事をすると、綴ちゃんは再び私と唇を触れ合わせ、そのまま舌をねじ込んできた。
舌同士が触れ合う度に多幸感が脳に押し寄せてくる。
「千歳……」
綴ちゃんが私の腰のあたりに手をやったところで、突然綴ちゃんの動きが止まった。
「綴ちゃん?」
「……あのー、ごめん。今何時?」
「七時くらい?」
「やばいそろそろお母さん帰ってくるわ」
「えぇ……?!」
綴ちゃんが乱れた制服を直しながら立ち上がる。
あまりにも拍子抜けだった。
「ほんとにごめん……失念してた」
「もー……綴ちゃんのバカ……」
「マジでごめん……また今度ね……」
「んー」
不満ながらも、まあ仕方がないし受け入れる事にした。
「じゃ、また明日ねー」
「ん、また明日ー」
結局、不完全燃焼なまま私は帰宅することになってしまった。
家の外に出ると、強い風が吹いてきて、寒かった。
寒さと同時に、寂しさが押し寄せてきた。
綴ちゃんと会ったあとは毎回これだ。綴ちゃんの声が聞こえなくなるだけで寂しくなってしまう。
せっかくなら私も綴ちゃんのジャージ貸して貰えばよかったな、と思いながら、私は帰路についた。
次回以降更新日未定です。




