第50話 教皇はフランクに…
教会内に佇んでいたのは、黒髪の女性。
サラサラとした長い髪を後ろで一纏めにした髪型、まるで人形の様に作り物めいた顔は神秘的な雰囲気を醸し出す。
自然光しか明かりのない薄暗い教会内で、彼女の真っ赤な瞳はキラリと光り輝く。
そしてその瞳は、壁際の騎士達ではなく…こちらを捉えていた。
「こんにちは、教皇…様?」
「はい、そうですよ。
ちゃんと挨拶ができて偉いですね!」
…思ったよりも、フランクな語り口だ。
ものすごく子ども扱いされてる気がするけども。
ただこちらを見下し、嘲り笑う様な雰囲気は全くない。
例えるなら…そう、小学校の頃ぐらいの先生みたいな雰囲気。
そんな彼女は、重そうな純白の十二単の様な服の袖で口元を隠し、ふふふと笑っている。
…なんともやりにくい相手だ。
「…それで、私めになにか御用でしょうか?
ただの銀級冒険者が教皇様とお会いできる機会が頂けるとは、夢にも思っておりませんでしたゆえ…」
「いえいえ、そんな謙遜する必要はありませんよ〜?
竜王祭優勝者は、格としては十分ですから」
しっかりとバレてるじゃないか。
流石にかなり大きい規模の宗教団体、そのトップは騙せなかった。
きっと情報網も広く、これぐらいはお見通しなんだろう。
なら別に隠す必要もないか、
「…こんな遠くまで届いているとは、光栄でございます」
「試合は残念ながら見れませんでしたが、大量の能力を操り勝利を収めたと聞いてますよ〜。
それに…魔女ステラにも挑戦されたとか。
不敗の彼女と戦い今も五体満足、ということは圧勝したのでしょう?」
「…いえ、恥ずかしながら戦いからは逃げてしまい…」
「嘘ですね。
魔女ステラの消滅はこちらで確認されていますから」
…まじかよ。
本当に全て知っているみたいだ。
あえて真実の中に嘘を混ぜる、そんなことに挑戦したのにあっさりと見破られてしまった。
「慣れないことはするもんじゃないねぇ」
「今のは私でも見破れるよ」
…仲間じゃなかったのかよ!?
ルシェとヤオは、容赦なく後ろからチクチクと刺してくる。
そんな焦りを隠すことは出来ず、
「ふふっ、別にそんなに焦らなくてもいいですよ〜。
それを咎めるとは言っていませんから……ぁだ」
目の前の彼女にも伝わってしまい、笑われてしまう結果に。
ああ…頰が熱くなっているのを感じる。
「そして港湾都市ダイコウにて、行われたカルナーク商会を中心とした騒ぎ。
未だ会長のヤオさんが見つかっていないみたいですが…その少し前に、冒険者ダンと接触したという情報もあります」
「………」
もう、変には喋らない。
これだけ張り巡らされた情報網、逃れられてるなんて安易な考えは捨てた。
「魔女ステラ、魔女ヤオは相次いで消失しました。
そしてその地に貴方はたまたま…訪れている。
これは果たして、偶然なんでしょうか〜?」
「それに、貴方がこのルビー王国を訪れるまでの足跡は全くと言っていいほど残っていません。
消された?いえ、そんな事をするのであれば竜王祭には出場しないでしょう。
目立ってしまっては、何の意味もなくなってしまいますし」
「…何が、言いたいんですか?」
得意げに話す彼女に対して、つい言葉をかけてしまう。
何もない宙をぼんやりと見つめていた彼女は、その言葉でこちらへと再び視線を向けてくる。
真っ赤な瞳は…見間違い、なんかじゃない。
薄暗い教会内を照らす蝋燭の様に、薄く薄く発光していた。
「魔女を狩るためだけにこの世界へ送られてきた刺客。
それが君の正体、そう考えているけどあってますか〜?」
彼女はそう言いながら首を傾け、可愛らしく問いを投げかけてくる。
その瞳は全く笑っていない。
「…それと、貴方とどんな関係が?」
「そんな白々しくしないで下さいよぉ。
知っているんでしょう?」
彼女は喋りながら、ゆっくりとこちらへと歩を進めてくる。
さらり…さらり…と、彼女の身につけた何枚も重ねられた服が衣擦れ音を鳴らす。
そして、そんな服がこちらの身体と触れ合うほどに詰められた距離。
耳元に感じる彼女の吐息…
「私が傲慢の魔女…ハイネルだってこと」




