第49話 芸術都市サイデル
「確認致しました、ダン様。
それでは…ようこそ!芸術都市サイデルへ!」
「…ありがとうございます」
そうして俺たちは、門を潜り抜けた。
先ほどまでのお気楽気分はもう消えている。
現れた景色、出迎えてくれたのは大きな噴水。
といっても、他の都市とは造形が違い…水が噴き出る部分には女性の彫像が置かれている。
そうして彼女が持つ水瓶から、噴き出ているようなデザイン。
やっぱり芸術都市の名は伊達ではない、もう手が凝っている。
ただ今はそれよりも、他の方へと目がいってしまう。
「ダンさん、あんまり視線を向けない方がいいかもしれません」
「変に警戒されてもあれだしね〜」
そんなセフィとルシェの忠告に静かに頷き、視線を近くの屋台へと持っていく。
活気があるこの街、路上を歩いている人間はかなり多い。
でもそんな中でも目立つのは甲冑を着た人間達。
物々しい雰囲気で、辺りを警戒している。
この感じだと噂は…本物みたいだ。
「まいどありっっ」
そうして俺は、屋台で購入した焼き鳥を片手に通りを歩く。
これだけ屋台が立ち並ぶ中何も買わないのは、目立つかと思っての行動。
…断じてお腹が減ったからではない。
「本当ですか?」
……ちょっとはあるかもしれない。
口元へ一本持っていくタイミングで、もう片方にステラとルシェが喰らいつく。
「キミ達…いつもこんな感じなのかい?」
新しく加わったヤオは、その光景を見て若干引き気味だった。
実際、いつも通りではある。
彼女の住んでいた港湾都市ダイコウでもこんな感じだったし。
とまあ、そんな感じでいつも通り観光していた…表向きは。
他人から見えない4人は、周りの群衆からしっかりと情報を得ていた。
「彼ら…ダイヤモンド教聖会騎士団が訪れたのは、一週間前ですか」
「中々早いペースだね〜。
ステラ、ヤオなんかと同格の魔女を人間が倒せるかというと…難しそうだし」
それは、そうだ
あれだけの力を持っていたのに苦労した。
竜王祭では天魔融合を使わなくても勝てるレベルだったのを考えると、ただの人間には勝てないだろう。
他にいるなら、お伽話の中の勇者や魔王…そして、
「ここで、傲慢の魔女が出てくるんだな?」
「傲慢の魔女ハイネル…ダイヤモンド教教皇ハイネル、まさか同一人物の可能性が高いとはね」
4人残された魔女、その中の最後の1人が傲慢の魔女ハイネルだ。
でも彼女が魔女であるなら、同じ魔女に勝ったのは理解できる。
力的には同格だろうし。
ただ彼女が今までにこれだけ動いているなら、カルナーク商会に情報があっても?
「…それは取れていなかった。
ノーマークというのもあるけれど、ダイヤモンド教の情報は固く閉ざされてたんだ。
だからこれだけ大規模な軍を動かしたのは、今までで初めて見たさ」
そっか。
…なんかこちらが嫌味を吐いて言わせてしまったみたいで、少しバツが悪いけども。
でもこれも貴重な情報だ、ありがたく受け取らせてもらおう。
それにしても、このタイミングで教団の軍が動くのか。
偶然?………考えすぎか。
「失礼、貴方が冒険者ダン様であられますか?」
「はい、そうですけ……ど」
後ろから話しかけてきたのは…騎士。
白銀の甲冑に…胸元でキラリと光る十字架には、ダイヤモンドが散りばめられているみたいだ。
そう、彼らは俺たちが警戒していたダイヤモンド教の騎士…聖会騎士団の一員だった。
「教皇様がお会いしたいとの事ですので、お連れさせていただくお声掛けをさせて頂きました」
ヘルムで顔は見えないが、聞こえるのは低く若い男性の声。
彼は2人組で、後ろにはもう1人顔の見えない騎士がいた。
そして2人とも勿論…腰に剣を携えている。
「……はい、行きます」
これは、覚悟を決めないといけないらしい。
そうして俺は彼らに連れられ、教皇の元へと歩き始めたのだった。
連れられた先、そこは…教会。
街の中心という好立地に構えるそれは、屋根が見えないほど高く…荘厳な雰囲気を醸し出す圧倒的な大きさ。
見るもの全てを圧倒するだろう。
例に漏れず、俺もつい見上げてしまった。
「今のダン、すごい田舎者みたいだね」
…うるさいぞ、ルシェ。
一応都会育ちだし、これより大きいビルなんて無数に見てきたから。
でも、これだけ大きな教会は見た事ない。
あるとすれば、テレビ番組の海外ロケぐらいだ。
しかも一番恐ろしいのは、これがただの支部である事。
彼らダイヤモンド教の本拠地は別にあるらしいし。
どれだけ…お金持ちなんだろうか。
いや、この話は無粋すぎるのでやめとこう。
「教皇様はこの中でお待ちです」
そう促され、俺は教会内へと足を踏み入れる。
ちなみに騎士達は、俺が教会を眺めている間無言で待ってくれていた。
ありがたい。
人間の何倍もの高さの扉を潜り抜けた先は、少し暗い室内。
照らすのは、ステンドグラスを通った虹色の光のみ。
先ほどまでの街の中と繋がっているはずなのに、澄み切った清浄な空気が広がっているような気もする。
そうして静寂な空間には、案内役の騎士の鎧が立てる音とこちらの足音だけが響き渡る。
場違いな感覚を覚えながら、目の前の彼について行っていた。
「では、私はこれで失礼致します」
あるところで、彼はこちらへ一礼すると離れて行った。
そして壁際にいる、騎士達の列へと紛れていく。
どうやら彼はもう、役割を果たしたみたいだ。
ならこちらを呼んだ教皇はどこに…
「こんにちは、冒険者ダンさん」
静かな空間に、鈴が鳴ったような音色の言葉が響いた。
そこは…先ほどまで視線を向けていたはずだ。
なのに、何故か気づけなかった。
教会内にある女性を模った彫刻、その前に神の教えを書いた本を置く台がある。
そこで彼女は静かに、微笑みを浮かべながら佇んでいた。




