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『完結』天使と悪魔の言う通りに…ね?〜力を貰えず異世界へ…だから2人とも、俺に力を貸してくれないと死んじゃうんだけどッッ!?〜  作者: お汁粉パンチ
港湾都市ダイコウ編

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第47話 未来の話

 こちらへ彼女の体は、もたれかかってくる様に…。

 大鎌に斬られた彼女は、徐々に光の粒子となっていく。

 言葉を交わすこともなく、ただ抱擁を続ける。

 

 そして…感触も、温もりさえも感じられなくなってしまった。


「おっと…」


 解除された天魔融合状態。

 強化された状態から元に戻され、その感覚の違いからよろけ…地面に跪いてしまう。

 

「大丈夫ですか?」


「大丈夫、ありがとうセフィ」


 真っ先に近くに寄ってきたのはセフィ。

 彼女が差し出す薬を受け取り、飲んでいく。

 …相変わらず、クソ不味い。

 でも効き目は抜群で、疲労の溜まった体や魔力が回復していく。


「俺の技、ちゃっかり盗んでるじゃねえか!」


「それは、ごめん」


「いやいや、褒めてんだよ!」


 後ろから悪友の様に絡んできたのは、ステラ。

 確かに彼女の技は強力で、それがヤオの本気の姿を早めに引っ張り出せた要因でもある。

 

「前よりは、楽に勝てたかなぁ?」


「それは…どうだろう?」


 今回も決して楽な戦いでは無かった。

 剣爛装甲は最後まで機能し続けたし。


 でもステラの時と違って、魔女に対して効き目の悪い魔月吸命を使わず、有効な能力をルシェから借りれたのが良かったんだろう。

 技もステラから勝手にだけど、もらったから戦いやすくもあったし。

 だから一概にどちらが強いかなんて、今この場では決められない。

 そんな事よりも、


「まだ…終わってない、よね」


「そうですね、では行きましょうか」


 動かないといけない。

 ステラと違って、ヤオはかなり広く…深く根を広げている。

 

「俺、ぼっち呼ばわりされてる!?」


 …今、現在進行形で奴隷として捕まったままの人もいるのだ。

 もしヤオがいなくなったら、彼女に与えられた権益を失うことを嫌がった連中は奴隷を口封じに処理してくるかもしれない。

 だから助けるなら、まだ彼らが知ることのない今夜が勝負時。


 地面から立ち上がった俺の背には、再び翼が授けられた。





 



 港湾都市ダイコウ、その地平線の先から登り始めた太陽が街中を照らす。

 商人や漁師の朝は早い。

 でもいつもなら…ここまでの喧騒は、少なくともこの滞在した一週間では見られなかった。

 それはそうだ。

 数百年続いたカルナーク商会、そこへ一斉捜査が入ったのだから。


 俺たちは、ひっそりと奴隷達を解放し…衛兵の詰所付近まで送り届けた。

 そして宵闇に紛れ、商会幹部達の財産を道具で暴き出し、全て没収させてもらったのだ。


 ここまでやれば、これだけ大きな騒ぎにもなる。

 隠し通す…のも無理だろう。


 圧倒的なカリスマを誇ったヤオはもういない。

 賄賂で止めようにも、その資金を奪ったのだし不可能だ。

 

 ちなみに奪った財産は全て近くの海へ沈めた。

 何百年後かなんかには、トレジャーハンター達の聖地にでもなってるかもしれない。

 それぐらいの量はあった。


 それはともかく、他の商会もここぞとばかりに動いている。

 口止めされていた情報を吐き出したり、衛兵の捜査に協力したり。

 圧倒的なシェアをほぼ全ての業種で独占していたカルナーク商会は目の上のたんこぶ、隙を見せたらこんな風にもなってしまう。

 


 ダイコウは、3方を山々に…海が1方にと囲まれた場所。

 俺はその山の一つに腰を下ろし、強化された視力で街を見下ろしていた。

 

「長年築き上げたものでも、崩壊は一瞬なんだね」


「……ヤオ」


 地面にあぐらをかいて座る俺の方へ、彼女は腰を下ろしてくる。

 そう、彼女も他の3人同様フィギュアぐらいまで小さくなっていた。

 首元には白い首筋を隠すほどの、ゴツい首輪を巻きつかせている。

 それは、俺達の旅についてくるという事の証明でもある。


 でもヤオが漏らした言葉に対して、こちらが返せる様な言葉は持ち合わせていなかった。

 …築き上げた全てを破壊してしまった、そんな負い目は感じざるを得ない。

 例え悪事を犯していたとしても、真っ当な商売で稼いだ分も関係なく消してしまったのだから。


「別に気に病む事はないよ。

いずれこういう結末を迎える事ぐらい、分かっていたさ」


 さらっと心を読まれたのか、表情に出てしまっていたのか、彼女に寧ろフォローされてしまう。

 そんな彼女を見ると、ある場所へ視線を向けていた。

 山から見下ろす景色、俺が見ていたのと同じで…そこにはダイコウの街が広がっている。

 

 ……そっか。

 もしこの旅が終わっても、もうこの街に彼女は帰れない。

 村から奴隷として売られた彼女にとってはきっと、此処こそが故郷。

 それを…奪ってしまったんだ。


 このルビー王国の玄関口とも言える大きな港、そこには多くの人間や荷物が行き交っている。

 街では朝早くから市場が開き、朝食を求める人達で賑わう。

 銀色の甲冑で誰かを追いかけ回しているのは衛兵だろうか。

 きっと彼らが追っているのは、ヤオの持っていたカルナーク紹介の人間だろう。


 そんないつもより少し騒がしくもある街。

 でも変わらず家々の白い壁は、太陽をギラギラと反射して光り輝く。

 きっとこの光景は数百年間変わっていない。

 

「キミは…もし、この旅が終わったとして何をするんだい?」


「…それは、考えた事無かったかも」


 運悪く死んでしまい、死後に魂の漂白とかいう怖いワードから逃げるようにこの世界へ来た。

 利害の一致からセフィ、ルシェと協力し、魔女2人と戦った。

 

 そんな生活の終着点、何が待っているんだろう。

 終わってから考えようと思って、永遠に先送りにし続け…最近は考えていなかった。


「う〜ん…また、こういう感じの旅に出る感じ?」


「へぇ、それはまた何でだい?

正義感?それとも他の何か…なのかな?」


「理由か…それはもちろん」


「もちろん?」


「怖いからでしょ…死が」


 そう言いながら首を横に向ける。

 そこには、こちらの肩に乗りポカンと口を開けたヤオの姿が。

 

 …そこまで変じゃなくない?

 死ぬの怖いでしょ?

 まだ平均寿命の半分もいってないのに、ひっどい死に方で終わりなんて嫌すぎる。

 

 だったら創造神様に直訴してでも、またこういう旅に出させてほしい。

 そこで死ぬまでなら…まあ、最悪ではあるけど納得は…出来る……はず。

 それに地球では海外なんて行った事ないし、こういう異国を回る旅は結構新鮮で楽しいのだ。


「そうか、キミは未来の見通しがしっかりあるんだね」


 見合わせた顔、再び会ってから初めて彼女の顔が笑みで綻ぶ。

 でも何処か寂しそうにも見えてしまう。


 見通し…そんな大層なものではない気もするけど。

 正直、一回死を味わってしまった。

 だから、もう生きているだけでラッキー!の精神でやっていってるだけ、なんだけどね。


 とはいえ、この旅が終わった彼女がどうなるか…今は全く見えない。

 もしかしたらフラッとどこかへ消え、人知れず死んでしまうかも知れない。


「…今の私、そんな風に見えているのかい?」


「……あんまり、否定はしないけど」


 そうして再び流れる沈黙の時間。

 いい案なんて、思いついてはくれない。

 そうだな…


「じゃあ、この旅が終わった後も一緒に行く?

創造神様に直訴して…さ」


「…えっ」


「一応この旅の報酬とかで、お願いできないかな?

…え〜と、嫌だったら断ってくれていいんだけど…」


 こちらの話す言葉の語気は少しずつ弱まっていく。

 そう、ポカンと口を開けてこちらを見るヤオの顔が目に入ったからだ。

 …ちょっと調子に乗りすぎたかもしれない。

 さっき戦って、彼女から全て奪ったのに。


「……ちょっと、さっきのは忘れ…」


「本当に…良いのかい?」


「えっ? …あっ、うん。

そっちが嫌じゃないなら」


「私はワガママだ、あんまり野宿が多いと発狂しちゃうかもしれないよ」


「それは、俺も一緒…かも」


「…美味しい食事じゃないと受け付けないよ」


「…料理は得意じゃないけど、出来る限り善処します…はい」


 彼女が次々上げていく条件に、俺は許可する言葉を繰り返す。

 …大丈夫かな?ノリで変な契約にサインしちゃってる感があるけども。


「……最後に、キミは私の体に幾ら出してくれるんだい?」


 そうして繰り出されたのは、彼女の屋敷でされた質問。

 それが求める本当の意味は、大鎌で斬った際に見てしまった。

 とはいえ、銀貨1枚を超えるぐらいの値段ではダメだろう。


 …それにあの時は金貨1000枚と言ったけど、今は持ち合わせていない。

 だってすごい派手に、ズィッペリンでばら撒いてしまったし。

 だから、俺が今出せる資産はこれだけだ。

 

 肩に背負っていた鞄を下ろし、手で探る。

 着替えや、旅用品を押し除け…厳重に包まれたものを取り出す。

 そうして何個もあるそれを、彼女に向かって差し出した。


「これ全部で、足りるかな?」


 彼女が手をかけ、開いていく。

 中身は…この度で集めてきた宝飾品達。

 カラゴで貰ったものや、ズィッペリンで貰ったものだ。

 こういうものの価値は俺よりも……目の前で瞳を輝かせている彼女の方が詳しいだろう。


「分かった、これで…契約成立だ」


 そうして彼女は、こちらが差し出した指をその小さな両手で覆う。

 それが契約完了の握手の様だった。


 でも浮遊する彼女は、そのままこちらへと近づいてくる。

 そして顔の前を通り、こちらの耳元までやってきた。

 微かな吐息が耳に当たってくすぐったく感じられるほどの距離だ。


「これで…私はキミの奴隷だ。

ずっと隣で、キミを見させて貰うから…ね?」


 背筋をゾクゾクっとしたものが駆け抜けていく。

 そうして再び正面に出てきた彼女は、フワフワと宙に舞いながら…出会ってから一番の笑みを浮かべていた。

 まるで、全てのしがらみから解放された様に……。

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