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『完結』天使と悪魔の言う通りに…ね?〜力を貰えず異世界へ…だから2人とも、俺に力を貸してくれないと死んじゃうんだけどッッ!?〜  作者: お汁粉パンチ
港湾都市ダイコウ編

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第46話 強欲の魔女ヤオ後

 力を得た私は、間も無く街を襲う騎士達を一掃した。

 戦意を見せて立ち向かってくるもの、背を向けて逃走を図るもの…それらを例外なく、剣の海へ飲み込ませたのだ。

 残ったのは、荒れ果てた街だけ。

 

 …いい気味だと思った。

 私たちの様な奴隷を使役し、発展してきた街だ。

 でも地面に転がってる人間の多くには枷がまとわりつき、ヨロヨロと立ち上がっている人間には枷がついていなかった。


「何も変わらない……か」


 そうして、私はその街を去った。

 私の指示で隠れた奴隷の子達、彼女達がその後どうなったかは知らない。

 



 

「ヤオ様、こちらが今月のカルナーク商会の売り上げ報告書となります」


「ご苦労様」


 私はフカフカの椅子に座った私は、秘書の彼女が差し出してきた書類を受け取る。

 そして湯気の立つティーカップを手に取り、口へと運ぶ。

 

 あの街を抜けた私は、騎士達から奪った財産を元手に遠くの街で商人を始めた。

 幸か不幸か時は戦乱の世、物の需要は止まることを知らない。

 必然的にその規模を拡大していく。

 そうして…今や数十万人の雇用を要する、大陸一を争う規模にまで成長した。


 

 でもどれだけ成功したとしても、コンプレックスが消える事はない。

   

 銀貨1枚にも満たない値段をつけられ、大勢の前で晒し者にされるあの苦しみも。 

 何度も何度も、無能と蔑まされ痛めつけられた過去も。

 匂いが感じられるほど鮮明に…100年超えた時を経ても夢に見る。



 だから私は、希少な宝石を身につけ…高価なドレスを着る。

 こうすれば…身につけている自分の価値さえも上がっていると思えるから。

 そうして相手に問いかけるのだ、


「もし私の体に値段をつけるとしたら幾ら出す?」


 と。

 自分の今の価値を確かめる為に。


 でも…全員同じ答えだった。

 貴方の体に値段なんてつけれない、というそんなもの。


 

 彼らはきっと、それをいい意味で言っている…ちゃんと理解はしている。

 でも心の奥底に刻まれた、


「値段を付けるのが間違いだった」


 その奴隷商人の言葉は消えてくれない。

 だから私は、更に…更にと自分の価値を高める為に希少なものを集め続けた。

 …いや、違うか。

 これは、


 無価値な自分自身を覆い隠すためだった。


 

 そしてその為にはお金が必要、必然的に商会の規模も膨れ上がっていく。

 

 今まではやっていなかった、非合法なものにも手を出した。

 高利貸しで、数えきれないほどの人間の人生を狂わしてきた。


 そうして目の前の牢屋には…非合法の奴隷がいた。


 私よりも遥かに高い値段で買われ、ここに拘束されている。

 鉄格子を挟んだ向こう側、粗末な服を着た彼女らは、豪華なものを身に纏った私へ向かって怯えた様な表情を浮かべていた。


 きっとそれは…私が浮かべていたものと同じだ。

 いつの間にか私は、自分の価値を確かめるために下の存在を求めた。

 その行為は…ドーレンと何も変わらないだろう。


『どうだ、欲は満たされたか?』


「…全然、まだまだ足りないッッ」


『フハハッ、流石俺が見込んだ人間だ』


 頭に響き渡る不快な笑い声。

 でも、脳内を埋め尽くすのは…


 次は何を買えば…纏えばいい?

 

 自分の価値を高めるための、全ての脳みそを支配してしまうほどの、物欲だけだった。


 

 


 それから何十年、何百年も経った。

 でも欲に際限はなく…今日も手に入れるために、人間を招き入れる。

 そして話の流れで、いつも通りの質問をついしてしまった。


「あ〜…金貨1000枚ぐらいですかね?」


 ショックを受けたらさらに悪化して……そんな心配は杞憂だった。

 彼の提示した数字…それは、私が知っている奴隷の中でも一番高い。

 亡国の王女が奴隷として出品された際にも、精々金貨400枚だったから。


 だから私は彼の持つ希少なシャツよりも、彼自身に興味を持った。

 そして……彼自身を手に入れたいと思った、どんな手を使ったとしても。

 人間は誰一人として同じ者はいない、世界で一番希少なものなのだ。


 それから私は、彼を屋敷に囲った。

 そして毎日の様に届く異国の品々を身につけ、彼に見せていく。

 その度に彼から贈られる賛辞は、どんな詩人の言葉よりも身に沁みる。

 終わらないはずの物欲も、徐々におさまりを見せていきていた。


 こんな生活が続いたらどれだけ幸せか。

 でも、それが続かないのが世の常で…私の人生だ。


 彼の指摘するそれは、私が今まで…そして現在進行形でやっている事。

 それが今、返ってきているだけだ。

 もうそんな違法行為は数百年続けた、心にはもう痛みさえ感じない。

 でも彼に裁かれるならそれでも…



『また、奪われる側で良いのか?』


 奪われる?


『あの地獄の様な奴隷から這い上がった。

そうして築き上げた城を、こんなぽっと出の男に奪われて…本当に良いのか?』


 …それ、でもっ


『本当に?』


 ………良くない。

 なんで奪われなきゃ、いけない?

 何故それを受け入れなければ、いけない?

 彼に、最後に持ちかけた交渉なんて口だけ。

 実際にそうなるなんて思わない。



「今までもそうだ。

私は、私の障害となるものは全て排除してきた」



「それが強引だと憎まれ、蔑まされようとも」



「キミと過ごした時間はとても心地の良いものだった」



「だから…とても残念だよ。

キミが私からモノを奪うなら…もう私の敵だ」



 私は強欲の魔女。

 奪われる前に奪う。

 ああ…どうせなら、彼を奪ってしまえばいいんだ。

 そして私の物に…









 剣爛装甲、かつてあの憎い街を滅ぼした騎士たちを跡形もなく消し去った技。

 それを今回久しぶりに使った。

 使われた武器達は長年かけて集めてきた、自慢の品々だ。

 なのにっ!


「がはッッ…」


 私の胸を、彼が握った剣が貫いた。

 

 魔女としての姿、全てを使っても…彼には勝てなかった。

 どくどくと流れ出る生命力、冷たくなっていく体温。

 この傷は…治せない。

 最後の抵抗として放った攻撃、それも彼に全て裁かれた。

 

「は…ははっ、化けっ…ものだ…な」


 静かに首へ添えられる刃、文句の一つも言いたくなる。

 これはもう…手はないな。


『おいっ!まだ、足掻けよッッッ!!』


 うるさいなぁ…。

 武器もなく、胸を貫かれてどう戦えばいいのさ。


「キミもっ…わたしっから全てをッッ…奪うのだな…」


「…ああ」


 血反吐で彼の顔を汚しながら、最後に叫ぶ。

 でも彼は文句の一つも溢さない。

 

 私の人生は一体何だったんだろう。

 残せなかった、何も。

 

 自分より下の存在を作り、優越感に浸っていたとしても空虚なだけだった。

 あの欲が少しずつ抜けていって分かる。

 本当に私が求めていたものと違ったのだと。

 

「…もういい、やってくれ」


「…分かった」


 彼の肩へ顎を乗せる、最期の顔を見て欲しくないから。

 汗で…血で汚れた、そんな汚いものを見せたくないから。

 目から流れる雫を…見て欲しくないから。


「…じゃあ」

 

「ああ…」


 最後に交わしたのは、素っ気ない返事。

 彼が…引き摺らない様に。


 私の首があった場所を、大鎌が通り抜けた。

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