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『完結』天使と悪魔の言う通りに…ね?〜力を貰えず異世界へ…だから2人とも、俺に力を貸してくれないと死んじゃうんだけどッッ!?〜  作者: お汁粉パンチ
港湾都市ダイコウ編

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第45話 強欲の魔女ヤオ前


「ヤオ、お前は何度言ったら分かるんだッッ!」


「ごめんっ、なさい…」


 陽の光が差し込むことの無い地下、ここでは松明の頼りない明かりだけ。

 燃焼した煙と埃っぽい空気が蔓延し、お世辞にもいい場所とは言えない。

 …いや、誰も言わないか。

 この劣悪な環境、常人が住んだら3日も持たずに発狂するだろうし。

 でもしょうがないんだ、


「銀貨1枚にもならないお前と、1秒でそれ以上稼ぐ俺。

こんなに教えてやってるのにっ!お前の覚えが悪いからっ!」


「ごめんなっさい…ごめんなさい…」


 私の命にはそれぐらいの価値しかないのだから。

 …いや、もはやそれより低いかもしれない。

 煤こけた頰と枝の様に細い手足、顔には何度も殴られた後が残っている。

 こんな酷い見た目をした奴隷が、買われるはずもないのだし。

 それが魔女………いや、人間になる前の私だった。


 

「コイツに値段を付けるのが間違いだった!

もういっその事、こっちが払って引き取ってもらうか?」


 バタンッ


「ヤオちゃん、大丈夫っ!?」


 何度も私を殴った奴隷商人は、怒りながら乱暴に扉を閉めて部屋を出ていく。

 冷たい石の床に顔を付けた私の元へ寄ってくるのは、同じ様な境遇の子達。

 ジャラジャラと両手足同士を繋ぐ鎖が音を鳴らす。


「水、持ってきて!」


「分かった!」


 遠くなる意識の中で、言葉を交わしバタバタと動き回っているのが分かる。

 硬い石の地面から抱き上げられ、柔らかい藁の寝床へ運ばれた

 それからしばらくして、


「ゆっくり飲んでね」


 トクトクと、口に液体が注がれていく。

 それは決して綺麗とは言えないもの。

 天井からポタポタと落ちてきた泥混じりの水、それを全員着ている粗末な服の切れ端で気持ちばかりの濾過を施した代物。

 

「ありが…とう」


 魔法薬ではないし、傷は癒えない。

 でもみんなの気持ちで、この瞬間だけは痛みを忘れられた。


「どういたしまして、困ったときはお互い様…でしょっ?」


 そう言いながら側でニカッと笑顔で笑うのは、ナナオ…ちゃん。

 明るくて頼り甲斐のある性格からみんなに慕われていて、奴隷商人の覚えも良い。

 そして私と同じく、数字に適当な言葉を繋げただけの名前を持つ…奴隷だった。



 魔王が討伐され、平和になったはずの世界。

 でも訪れたのは、人と人が覇権を求めて争う戦いの日々。

 軍事費のために平民へは重税が課せられ、田舎の村では到底暮らしていけない。

 だから、


「子ども7人、確かに」


 私たちは奴隷として売られた。

 男子は戦闘奴隷として、女子は愛玩用として。

 あれだけ野原を駆け回り遊んだ彼らと、その後会うことは無かった。

 産んで育ててくれた親の顔も、今は朧げだ。



 それから私は、この酷い地下室に押し込められ…あの教育と称した暴行を受ける毎日。

 一緒に同じ村から来た女子達は、従順だったからもう売れてしまい…消息不明だ。

 その点で言えば、私はラッキーだったかもしれない。

 売れ残りだと奴隷商人から何回も叩かれていながらも、ここで生きていられるのだから。


 …そんな訳ない。

 死ぬまでこんな生活?

 そんなの…到底認められない。


 ジャリッ……


 石畳に積もった僅かの砂、それが手に握りしめられ音を鳴らす。

 怒りをぶつける様にしたものだけど…サラサラと手から零れ落ちていく。

 …奴隷が何を考えているんだろう。

 逃げる場所なんてどこにもないのに。

 逃亡奴隷は見つかり次第処刑…それぐらい軽い命だ。

 


「今日、お祭りだっけ?」


「いや?ドーレンさんは何も言ってなかったと思うけど…」


 こんな娯楽のない場所。

 耳を立て、盗み聞きをするのが唯一と言ってもいい楽しみだ。

 ちなみにドーレンは、私を痛ぶっている奴隷商人の名前だ。

 …考えてたら、腹が立ってきた。

 

 それはともかく、確かに彼女らが喋ってる通り、地上が賑やかだ。

 ドタドタ何かが行き交う音がするし、その衝撃で天井からパラパラと砂が落ちてくるし…。

 ただお祭りにしては…笛の音なんかの演奏は全く聞こえないけど。


「ちょっと…アタシ、見てこようかな?」


「それは不味いよ、ニオ。

ドーレンだったり、衛兵に見つかったら何をされるか…」


「大丈夫、大丈夫!

怒られるのは私だけだし」


 そうして赤髪で快活なニオは扉を開け、階段を登っていく。

 脱走防止…なんて全くされていない。

 だって幾らでも仕入れられるんだし、どうせすぐ捕まるし。

 そんな事を思いながら、薄暗い部屋の角で膝を抱えて座っていると…


 ドタドタッ


 ニオが出ていった方向から激しい足音が。

 まさか、もう捕まった?

 肩を丸め静かにその時を待つ。

 バタンと開けられた扉、そこから顔を出したのは、

 

「…ニオっ?」


 先ほど出ていったばかりの彼女。

 全員が疑問を持っているからか、彼女へ目線を向ける。

 そして彼女は…傷はないものの、汗を浮かべていた。

 ゆっくりと口を開いて出てきた言葉は、


「街が…燃えてる」


 この場にいる誰も、予想していないものだった。

 


 

「…街が燃えてるって、どれぐらい?」


 呆然とした私達、その中で一番早く立ち直ったのはナナオちゃん。

 冷静に事態を把握しようとする。


「えっと…街中から何本も煙が立ってて、女性の悲鳴も聞こえて…怖くなって…」


 少しずつ言葉尻が小さくなっていくニオ、そんな彼女を優しくナナオちゃんは抱きしめた。

 

「安心して。

まずは深呼吸しよう、吸って…吐いて〜」


 彼女の体に包まれたニオが深呼吸する音が隙間から聞こえてくる。


「落ち着いた?」


「うん、ありがとうナナオちゃん」


「どういたしまして、それにしても…」


 それを見届けたナナオちゃんは、少し厳しい目に変わる。


「これは…攻められているのかもね。

この街が」


「どうしようっ、ナナオちゃんっ!?」


 そうしてニオはナナオちゃんの服の襟を掴んで何度も揺らす。

 そんな手に上から優しく手を被せ、


「大丈夫だから………逃げましょうか、みんな」


『えっ…』


 彼女が示した案、それについこの場にいる全員が声を揃って漏らしてしまう。

 だって彼女は、一番従順で…可愛がられていて、


「私ももう、この生活うんざりなんだ。

みんなはどう?逃げたく…ない?」


 でも一番と言っていいぐらいに不満を溜めていた。

 それが今爆発した様に、全員へ声を張って演説する。

 そうして、その言葉に呼応する様に1人…また1人と立ち上がっていく。


 最後まで地面に座り込んでいたのは、


「ヤオちゃん、一緒に逃げない?」


 私。

 ナナオちゃんはそんな私に、手を伸ばす。

 そうして僅かな逡巡の末に…私はその手を取ったのだ。


 


 でも…それで上手くいくほど、この世界は甘くない。

 それは今までの…10年にも満たない人生の中で知っていたはずなのに。


「その手と足の枷、逃亡奴隷か?

いけないなあ、この街は今からルイス帝国の支配領域になるんだから…よっ!」


「ぐっ…」


「ナナオちゃんッッ!」


 奴隷商人のドーレンが持っていたはずの馬車、それにナナオちゃんは乗る事を提案したけどももう無かった。

 そうして彼女が走って逃げる事を提案した瞬間…敵の騎士に見つかってしまったのだ。

 

 私は地に伏せた彼女の元へ走って向かう。

 ざっくりとその背中をは斬られ、ダラダラと流れる血は止まる事がない。

 その肌へ触れると体は冷たくなり始めていた。

 

 こんな傷は魔法の薬か回復魔法でしか治らない。

 …そんな高価なもの、奴隷に使える訳がなかった。

 だからこんなに近くにいるのに、見ているだけしかできない。


「おい、奴隷を無闇に斬るな。勿体無いだろ?」


「ああ、ごめんごめん。

でも、大体綺麗どころは金持ち様に連れられて逃げてるだろ?」


「それは…そうだろうな」


 そう言いながら集まった騎士達は、私たちへ値踏みする様な視線を送ってくる。

 …今までに感じたことのない悪寒。


「というか、トニー。

お前が斬った奴が一番綺麗じゃねえか?」


「おいおい、マジかよ。やっちまったわ…」


「じゃあ、最後死ぬ前に味見だけ…」


 そうして会話を交わす彼ら、その中の1人が倒れ伏したナナオちゃんへと手を伸ばす。

 その手を私は…


ペシンッッ


 不思議と叩いてしまった。

 私も、騎士達の間でも…沈黙の時間が流れる。

 それを破ったのは、


「ははっ、あんな子にやられてやんの」


 そんな騎士の1人が出した煽る様な声。

 それに乗せられ、


「何すんだクソガキがッッッ!!」


「がはっっっ」


 激昂した騎士が放った蹴り。

 鉄に覆われた靴でのそれは、体の芯まで響き…ミシミシッと体が嫌な音を立てる。

 そうして勢いよく私の体は吹き飛ばされ、石畳の上を体が転がっていく。


「あ………ぁ」


 痛い、その言葉さえも口から出ない。

 擦りむいた肌、骨まで響く痛み、内臓もどこかやられてしまっていると思う。

 口から、ありえない量の血を吐き出してしまう。

 

 そんな中、不思議と睡魔に襲われた。

 痛いはずなのに心地良くて、身を委ねてしまいたくなる。

 遠くで叫び声が聞こえるけども、それは言葉として脳が理解してくれない。

 

 力がゆっくりと抜けていく。

 そうして瞼をゆっくりと閉じてしまった私……


ジャリッ…


 力が完全に抜けたはずの手には、不思議と砂が握られていた。

 なんで?

 もうこんな苦しいことから逃げられるのに。




 ………悔しい。

 力が無くて、奪われ続けるだけの人生が。

 私の人生が終わっても、あの騎士達が…奴隷商人が、のうのうと明日も生きるのが。


 私からは奪っておいて、なんの罰も受けないなんて。

 それはあまりにも………不公平じゃないか。


 

 心の奥底の、深く…深くに押し込めていたドロっと感情。

 膨らみ始めたそれを抑える気力はもう残っていない。

 もしこれを色に例えるなら、何もかもを飲み込みそうな黒に鮮血のような赤を混ぜた…そんな色。


『力が欲しいか?』


 そうして、心の悪底から誰かが問いかけてくる。

 どこまでも冷え切った温度の言葉、でも今の私にとっては暖かく感じられた。

 そんな内容、このタイミングで持ちかけてくるなんて…きっと悪魔だ。

 でもいい。



 はやく、よこせ

 このきしたちが、にげるまえに



 その瞬間、地面に倒れ伏していた体に不思議な力が回っていくのを感じた。

 ズキズキとした痛みも消え、きっと今日…いや、今までで一番体の調子が良い。

 石畳に片手をつき、ゆっくりと立ち上がる。


 そうすると、よく目の前の光景が目に入る。

 騎士が抵抗する奴隷の子達へ手を伸ばすのを、横たわったナナオ…さんの前で騎士がズボンを下ろしているのを。

 

「おい、あのガキ立ち上がってるぞ?」


「手加減したつもりは無かったんだが」


「酒飲みすぎて、筋肉なくなっちまったんじゃねえか?

 

 騎士達は、そう言ってこちらを指さしてガハハと笑う。

 何も気づかれていない。

 さっきまでとは全く違う…存在になったのに。


 新しく得た能力、まるで生まれた時からあった手足の様に使い方が分かる。

 命令を下すと…私の体から、彼女達の体から枷が外れていく。

 周りの民家から、鋭利な包丁が…短刀が集まってくる。

 それらは私を中心として浮遊して周回していた。


「なんだあれはっっ!?」


「早く援軍呼んで来い!!」


 それらは数えきれないほどの数をなし、次なる命令を待っている。

 ようやく彼らも、事の重大さに気付いた様だけどもう遅かった。


「やれ」


 命令を下すと、彼らの体を幾多もの刃物が貫いていく。

 

「やっ……め」


「たすっ………けっ」


「ぁああああああ」


 それを静かに私は見守った。

 少しの時が経ち、


「やめ」


 再度命令を下し…武器達を私の元へと戻す。

 その隙間から見えるのは、もう人間としての形を成していない肉塊。

 未だに滴るのは、赤い鮮血。

 こんなの、犬の餌と見分けはつかない。


 そんな光景を前にして、私は何も思わない。

 強いて今の気持ちを言葉にするなら、初めて感じる……自由だ。


 そして服は騎士達に破られてしまったものの、今も生きている奴隷の子達。

 彼女達はこちらへ、呆然とした視線を向けてくる。


『………おえっ』


 少し正気に戻ってしまったらしい。

 この生臭い匂いと光景、それでか彼女達は嘔吐してしまう。

 そんな彼女らに向かって、私は静かに一歩一歩踏み出していく。


「ひぃっっ」


 今まで優しかった彼女達。

 でも怖がられてしまった。

 いやいい、ラインを超えてしまったんだから。

 きっと彼女達は…正常だ。


 そうして私は、1人の女性の前で地面にしゃがみ込む。

 そこには、


「ヤオ……ちゃ…n」


「ごめんね、傷は治せないんだ」


 もう意識を朦朧とさせたナナオさんがいた。

 これだけの能力、幾人もの命は奪えるだろう。

 でも目の前の1人を…ただの奴隷の彼女を…救うことはできない。


「いい…よ、しあわせに……ね?」


 そうして彼女の伸ばした手が、私の頰へ。

 指先に付着していた血が、私の頰を濡らす。

 最後には、バタリとその腕から力が抜け…路面へ叩きつけられた。


 悲しい。

 でも涙は流れない。

 最後に…彼女の心残りだけ、解消しよう。

 これをナナオさんへの、恩返しとして。


 そうして私は後ろへ振り向き、


「みんな、あの部屋に戻ってくれるかな?」


「ヤオ…ちゃんは?」


 みんながこちらを、バケモノを見るかの様な視線を向けてくる。

 そんな中、果敢に問いかけを投げてくるのは…ニオだ。

 彼女ももれなく服を破かれ、傷がついた褐色の肌を惜しげもなく晒していた。


「私は、この騎士達を…全員殺す」


「そんなことっ…できない」


「大丈夫、私は強くなったから」


「…なんでここまでして?」


「だって、困ったときはお互い様…でしょ?」


 ナナオちゃんの様に、上手く笑えただろうか。

 鏡なんてもの、ここにはない。

 

 でも良い、もう自由を縛る鎖は無くなった。

 

「ありがとう、ヤオちゃん…」



 なんで、今もあの部屋に帰りたいと少し思ってしまうんだろう。

 あそこには、何も…最悪な思い出しか無いはずなのに。

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