第43話 新たな力
こうして戦闘の意思を示した彼女…強欲の魔女ヤオ。
その瞬間、こちらの体を光の柱が包み込んだ。
別にこれは攻撃ではなく何度目かの、
「へえ、キミの本気がこれって訳かい」
天魔融合状態、こちらの本気の姿だ。
全身を覆う灰色のローブに背中から生えるのは大きな一対の翼、腰には1本の剣が携えられている。
「じゃあ、私も」
その瞬間、彼女の魔力が一気に膨れ上がった。
バサバサと音を立てて棚から本がこぼれ落ち、パリンパリンと机の上の食器が床へ落ち…割れていく。
それも全て、彼女が魔力を解放しただけで。
そう今まで、彼女の魔力は隠されていた。
強欲の魔女とわかっていても分からないぐらい巧妙に。
だからこれだけ慎重に…事に当たっていたのだ。
「これだけの魔力、よく隠していましたね」
その行動は、結果的には良かったのかな?
セフィが言うほどだし、よっぽどすごい事なんだろう。
実際感じる魔力の量的には…ステラの魔女化した時ぐらいだろうか。
「新しい能力、宿してあるから上手く使ってよ?」
それはもちろん。
セフィの剣と違ってルシェの力は…権能、それも初めて見るもの。
でも名前を聞けばすぐに分かる。
取り敢えず、
「移動しましょうか。
ここで戦うと他の人にも影響が出そうですし」
「ああ、それは願ってもない提案だ。
私もこれ以上屋敷を壊したくないのでね」
そんな提案を持ちかけると快諾された。
もう彼女の変身時に壁紙が破れたり、窓ガラスが割れたり、カーテンがボロボロになったりと損傷が激しい。
それに戦ったこんなものじゃ済まないだろう。
そうしてゆっくりと持ち上げた手を彼女へ向け、頭の中で移動先を思い浮かべる。
後は念じるだけで…
「なっ!?」
瞬間移動出来てしまう。
ここは港湾都市ダイコウから徒歩で1日分ほど離れた場所。
だだっ広い荒野が広がり、人が隠れられる様な木一本すらもない。
俺たちがダイコウへ向かう際に踏破したルートだった。
「ははっ、それはもう人智を超えた力だ。
だがそう易々と、降参する気は…ないっっさぁ!!」
彼女の叫ぶと同時に顕現したのは剣や槍、弓といった武器たち。
それがまるで『魔法礼賛』の様に、彼女を中心として周回軌道をしている。
そしてそのどれもが、
「どうだい?これが、私の愛しいコレクション達さ」
業物、竜王祭本戦トーナメント出場者達が命を預けるレベル。
そんな代物が数えきれないほど空中を浮遊している。
もはや武器屋にでも来たんじゃないかと錯覚するほど。
ビュービューと吹き荒ぶ風、それがヤオの青白く長い髪を弄ぶかの様にメチャクチャにする。
そんな荒れる前髪を、彼女はうざったそうにしながら掻き上げるのだ。
すると必然的に現れるのはあの碧眼。
人や物を値踏みし…獲物を捉えて離さない目だ。
夕暮れにその目がキランと光る。
ジャリッ…
踏みしめた地面が、微かな音をかき鳴らす。
それが…開戦の合図となった。
『…転移』
ガキンッッ!!
初手から遠慮なく、彼女の背後へ転移。
振り向く隙すら与えず、完璧に捉えたと思ったのに。
結果は…鍔迫り合い、それも持ち主のいない剣と。
「容赦ないねぇ、キミ。
非戦闘員の私には到底反応できないよ」
「どの口がっ」
そう言いながらヤオは悠々と、後ろへ振り向く。
ニヤリと吊り上げられた彼女の口角、それはきっと…上手くいったから。
ビュンッ
そう聞こえた瞬間、短距離転移を行う。
すると先ほどまでいた場所には…幾本もの槍が突き刺さっていた。
「素晴らしい反応速度だ。
拍手を送ろう」
そうしてパチパチパチと、乾いた手を叩く音が鳴り響く。
「それは、ど〜…もッ」
もう一度転移を行う。
すると先ほどまでいた場所に、今度は何本もの矢が。
飛来してきた方向へ目をやると、もう次の矢が構えられている。
全く…油断も隙もない。
いや隙自体はあるのだ、最初の奇襲は完璧に捉えた…はずなんだけど返された。
だからそれが見えても、突っ込むのがリスク。
ただただ彼女がこちらに、そこが隙だと思わせてきているだけの可能性が高いのだから。
闇雲には、どうしても突撃できない。
「おやおや?足が止まっている様だけど?
あっ、転移するから問題ないか!」
覗き込む様な仕草と、こちらを馬鹿にする様なトーンの挑発。
…ほんっとに人の心を手玉に取るのが上手い、商人の鑑みたいな人間だ。
無意識のうちに口角がビクンと引き攣る。
「冷静さを失うなよ、戦場じゃ感情的になった奴から死ぬ…そういう風に出来てんだ。
俺を倒したんだ、そんなつまらない死に方するなよ」
俺は冷静だと叫びたい…でも、今の俺を他人から見たらそうなのか?
「一旦深呼吸しな」
……ふぅ。
ゆっくりと時間をかけた一呼吸、全身に新鮮な酸素が行き渡る。
無意識に強張っていた表情も柔らかくなり、肩の力もいい具合に抜けてくれた。
多少は冷静になった頭で、ヤオへ…周りの武器へと視線を送る。
あれは、もしかして自動で迎撃するシステムが搭載されているのか?
演技かと思ってたけど、彼女の全てを手に入れたい性格をもとに考えると、危険な橋を渡るのを嫌うだろう。
一歩間違えば、開始から10秒も経たずに首へ刃が突き刺さっていたんだし。
とはいえ、彼女がその防衛システムに全幅の信頼を置いているのは間違いない。
こういった感じの戦いでなくても、目立つ彼女は暗殺なんかに襲われることもあるだろう。
その数々を生き抜いてきただけ優秀な物だろうから。
「とは言っても…大きくしすぎるのも良くないか」
「ん?何か言ったかい?」
「いやあ?ただの…独り言ッッ!!」
彼女の背後へ再び転移を行い、剣を思い切り突き出す。
だが…それは不発、綺麗に彼女の盾によって受け止められてしまった。
キリキリと不快な金属音と火花が激しく飛び散る。
「もう分かっただろう?この剣爛装甲は破れ…」
拮抗する力比べ。
そこで俺は、敢えて少し力を弱める。
僅かに盾が空振った様な動き、その隙を…
「がはッッッ!?!?」
縫う膝蹴り。
間に入る剣や盾をも砕いていく一撃、それは彼女の胴体を捉え、クリティカルヒットだ。
そう、これは…
「俺の技、盗んだのか?…やるじゃねえか」
ステラの磨き上げた技。
彼女は力を貸せない。
でも彼女の記憶を覗き見た際に、その鍛錬の成果が流れ込んできたのだ。
だから自然と技を繰り出せた。
そうしてよろけた彼女の首へ容赦なく振り下ろす…
ブシャッッ
噴き出る鮮血。
決して浅くない傷、生死に関わる傷をその体に刻み込む。
そしてトドメを…と振り下ろした剣は飛来した矢によって弾かれた。
その隙をつく様に彼女は大きくバックステップで距離を取る。
「おどっ…ろいたさ、キミ本当に強いんだね」
「………」
首を抑える彼女。
その呼吸は荒く、言葉には深い吐息が入り混じっている。
口の端からはその身に受けた深刻なダメージを表す様に、タラリと真っ赤な血が流れ落ちていく。
「でもっさあ…これでっ、終わりじゃない」
剣を握る手に、静かに力を込め直す。
「この傷の代償…払って貰おうか、キミが破産するまで」
そうして彼女の弱々しくふらついていた体。
そこからドス黒い光の柱が立ち昇るのだった。




