表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
37/48

第5奏パート6 前編:花火舞い散る夜に咲く、恋の騒ぎ。 When Fireworks Bloom, So Does Love

早速、夢日記を始めてみたけれど──どうやら今日は夢を覚えていない。


ノゾミに確認してみると、昨夜の睡眠は至って健康そのものらしい。


寝言もなく、脳波も安定。


レム睡眠とノンレム睡眠の山と谷を、きれいな波のように行ったり来たりしていた、と。


大きなあくびをひとつ。


上半身を起こして、これでもかってくらいに両手を伸ばす。指先のそのずっと向こうから、カーテンの隙間を抜けた朝日が差し込んでくる。


――今日はちゃんと、花火大会やります。


そんなふうに約束してくれているみたいな、眩しい光だった。


窓を開けて、朝の空気を胸いっぱいに吸い込む。


鼻から吸って、口からゆっくり吐き出すたびに、頭の中のエンジンがゆっくりと回転数を上げていく。ぼんやりしていた意識が、現実へとピントを合わせていく。


視線の先には、クローゼットに掛かった一着の浴衣。


――父さんの浴衣。


それを見た瞬間、今日の“ミッション”を思い出す。


陸、西園寺、笠原さん。それに――ノゾミを入れた5人で、花火大会に行く。


今さらになって、ようやく気づいてしまった。


これまでの人生で、女の子たちと花火大会に行ったことなんて一度もないってことに。


……あれ? これって、もしかしてWデートってやつじゃないか?


自分の鈍感さに、思わずため息がこぼれた。


そんな僕を見て、ノゾミがクスッと小さく笑う。


「実はさ、今さらなんだけど……デート? いや、その……花火大会って、何すれば良いのかな?」


口に出した瞬間、顔から火が出そうになる。


けれどノゾミは、いつも通りの柔らかな笑みで首を振った。


「大丈夫だよ。肩の力を抜いて、いつもの湊でいいんだよ♪ 私もね、花火大会は知識でしか知らないからさ。今日がすごく楽しみなんだ」


えへへ、と照れたように笑うノゾミを見ていると、自分が必要以上に気負っていたことが分かる。


やんわりと諭されたみたいで、僕もつられて照れ笑いを浮かべた。


そのときだった。部屋の扉が、


コン、コン、コン。


と、リズミカルに叩かれた。


「あら、今日は珍しく早起きしてたのね。ノゾミちゃんも、おはよう」


母さんが顔を出す。


きっちりメイクをして、きれい目のブラウスまで着ているところを見ると、これから出かける直前って感じだ。


「美波さん、おはようございます」


ノゾミは相変わらず丁寧に、軽くお辞儀をして挨拶を返した。


「もちろん起きてるけど……どうしたの? こんなに早く部屋に来て?」


問いかけると、母さんは少しだけ申し訳なさそうに笑った。


「母さんね、これから仙台のおばあちゃんのところに行くことになってさ。もしかしたら二、三日は帰って来られないかもしれないから、留守番お願いしようと思って」


なるほど、そういうことかと僕が納得しかけたとき、ノゾミが心配そうに眉を寄せる。


「美波さん、お祖母様に何かあったんですか?」


「全然、大したことじゃないのよ。母さん――あ、湊からしたらおばあちゃんね。ぎっくり腰になっちゃって、家のことがあまり出来ないみたいなの。だから、ちょっと顔を出して様子を見てこようかなって。遅めの帰省みたいなものよ」


母さんはそう言って、ノゾミに安心させるように微笑んだ。


「良かった……。大事じゃなくて、ほっとしました」


ノゾミの表情から、不安がすっと抜けていくのが分かる。


「なら、俺も行ったほうがいいんじゃない? 父さんも居ないし、男手があったほうがさ」


「大丈夫よ。重いものを運ぶわけじゃないし、向こうにもサポートAIがいるからね。男手は無くても何とかなるの。それより、今日は……花火大会なんでしょ? 若人は若人らしく、一度しかない青春を楽しんできなさい」


教師の鏡みたいな台詞をさらりと言ってのけるあたり、さすがは僕の母さんだと思う。


「……ありがとう。でも、無理しないようにね」


嬉しさと気恥ずかしさをごまかすように、視線をそらして俯いた。


「美波さん、家のことや湊のことは、私に任せてください。それに、何かあったらすぐ連絡ください。遠隔でサポートAIの操作や、緊急時の対応も出来ますので」


ノゾミがえへっと笑いながら、敬礼ポーズまでしてみせる。


母さんはそれにすっかり感激したらしく、


「さすがノゾミちゃん♡ いつでも湊のお嫁さんになって良いんだからね♡」


と、余計なひと言を添えてくる。


ノゾミも真に受けてしまったのか、頬を朱に染めて、2人の女子トークに一気に花が咲きそうな雰囲気になる。


キャッキャと盛り上がる気配を察知して、僕は慌てて割って入った。


「あーーー、そういうのはいいから。ほら、さっさと仙台行った行った。おばあちゃんによろしくね。新幹線、行っちゃうよ。ほら、しっしっ」


手を振って追い出すような仕草をすると、母さんは呆れたように笑いながらも、玄関へと向かっていく。


「相変わらずノリが悪いんだから……。あ、そうそう、これ!」


何かを思い出したように踵を返し、母さんは小さな包みを僕に差し出した。


「お祭りには必要だから、これ持って行きなさい。きっと役に立つから。悠真さん――あなたのお父さんも最初は気づかなかったけど、あとから『あって良かった』って言ってたわ。あなただって、優しいだけじゃなくて“気の使える”男の子になりなさい」


そう言って僕にそれを手渡すと、壁のデジタル時計を見上げ、


「やばっ、もうこんな時間! タクシー呼んであるから、行ってくるわね!」


バタバタと音を立てながら、家を飛び出して行った。


手の中の包みを見つめても、正直“今”の僕には、そのありがたみがぴんと来ない。


とりあえずノゾミにも見せてみると、さっきとは打って変わって、先生みたいな顔つきで説明してくれた。


なるほど……確かに、話を聞けば聞くほど「必要になりそう」だ。


僕は頷きながら、机の上に置いてあった巾着袋を手に取る。


その中に“コレ”を入れてから、朝のシャワーを浴びに一階へ降りていった。






♦ ♦ ♦






夏至を過ぎても、新都心の夏は容赦ない。


日差しはまだ眩しくて、空には沈む気配のない太陽が居座っている。


待ち合わせの十八時になろうとしているのに、まるで最後の悪あがきみたいに、ギラギラと地上を照らし続けていた。


アスファルトの照り返しは凶悪で、コンクリートジャングルという言葉が大げさに思えないほどだ。


腰に挿しておいたうちわをパタパタと扇ぐ。


ほんの少しだけれど、顔に当たる風が心地良い。


今ごろ母さんは、無事に仙台に着いたころだろうか。


そんなことをぼんやり考えていると、背後から賑やかな声が飛んできた。


「おーーい! 湊くーーーん!! こっち、こっち!!」


雪崩のように押し寄せる人波の向こう側で、大きく手を振る影が見える。西園寺だ。


駅の出口を振り向けば、今日の花火大会を楽しみにしている家族連れやカップルで、ごった返している。人の波をかき分けて、二人の女子が僕のほうへ小走りで向かってくる。


カラン、コロン。


下駄の音が近づくたびに大きくなり、やがて僕の目の前でぴたりと止まった。


「ごめんね! 急に二駅前から混みだしちゃって、改札出るまで時間かかっちゃったの。待たせちゃったかな……?」


両手で“ごめん”のポーズを作ってから、西園寺は手をパタパタさせて、顔に風を送る。暑さのせいか、頬がいつもよりピンク色に染まって見えた。


その表情に、いつもよりずっと“女の子”を感じて、つい見入ってしまう。


「湊くん? 何か付いてる? それとも……今日の私、変……かな?」


不安そうに首を傾げる西園寺の言葉で、ようやく我に返る。


「う、ううん! そんなことないよ。僕も今来たばっかりだし!」


咄嗟に返した声は、きっと情けないくらい裏返っていたと思う。


無理もない。


正直に言えば――今日の西園寺は、反則なくらい可愛かった。


いつものツインテールはほどかれていて、浴衣に合わせた編み込みのアップスタイル。


大きな花の髪飾りと、同じ色味の柄が控えめに散った黒の浴衣。


歌舞伎町で見かけた露出の多い服装とも、学校の制服とも違う。


彼女本来の良さをそっと引き立てるような、落ち着いた黒だった。


少し上目遣いになった西園寺と目が合う。


途端に、僕は慌てて視線をそらし、彼女も同じようにそっぽを向く。言葉を失った沈黙が、ふたりの間にふわりと落ちた。


その空気を破ったのは、もうひとりの彼女だった。


笠原 透花さん。


同じクラスだが、正直あまり話したことはない。けれど、“深窓の令嬢”といっても大袈裟じゃないくらい、男子人気の高い美少女だ。


西園寺とはまた違う意味で、彼女もよく名前が挙がる。


「佐倉くん、今日は……無理言ってごめんね」


頬を少し赤くしながら、笠原さんが申し訳なさそうに笑う。


その姿に、通り過ぎていく男たちが一瞬だけ足を止め、思わず目を奪われていた。


いや、無理もない。


こんなふうに並ばれたら、誰だって見とれてしまうだろう。


太めの黒いカチューシャから伸びる黒髪は、きれいに三つ編みにまとめられていて、耳元には白い花の髪飾り。


蒼みがかった淡い青の浴衣には、落ち着いた花柄が描かれている。


西園寺の黒×赤の“熱”に対して、透花さんは青×白の“涼”。


二人が並ぶと、まるで「動と静」「熱と冷」が目の前に立っているみたいだった。


「全然、気にしなくていいよ。あ、そうだ。陸なんだけど――練習試合が長引いてて、少し遅れるって。花火大会開始の十九時には間に合うから、先に指定席で見ててほしいって」


『指定席??』


十代女子特有の少し高い声が、二つ同時に重なった。


「それについては、私から説明致しますね。こんばんは、結菜ちゃん。それに、初めまして。笠原さん」


取り出しやすいように、スマホを浴衣の帯に挟んでいた。


そのあたりから、突然ノゾミの声が聞こえてきたものだから、三人そろってビクリと体を跳ねさせる。


帯からスマホを取り出すと、そこから小さなホログラムの光が立ち上がり、ノゾミが投影される。


二人はさらに目を丸くして飛び上がった。


最初に口を開いたのは、西園寺だ。


「……こんばんは、ノゾミちゃん。ちょっとビックリしたけど、第3世代AIってそこまで進化してるの!? すごい……普通の可愛い子にしか見えないよ! ねえ、透花!?」


西園寺の背中に隠れるようにしていた透花さんも、一歩身を乗り出し、まじまじとノゾミを見つめている。


無理もない。


僕だって、先日スマホがアップグレードされたときに改めて説明を受けなければ、きっと同じように驚いていただろう。


そんなことを考えていると、ふと、周囲から刺さるような視線を感じた。道行く人々の視線は、


僕ではなく――浴衣姿の二人と、ノゾミに釘付けになっていた。


「佐倉くん、本当にありがとうね。それから、お母様にもお礼を……」


考え込んでいた僕に、透花さんがやわらかく微笑む。


気づけば3人は、すっかり打ち解けて女子高生のようなテンポで会話をしていた。


最近のノゾミの感情表現や、コミュ力お化けみたいなところには目を見張るものがあるけれど、初めて西園寺にノゾミを紹介したときのようなギクシャクもない。


僕は胸をなで下ろしながら、すこしだけ遠巻きにその様子を眺めた。


気づけば空は、オレンジ色から群青へと、じわじわ色を変えていた。


沈んでいく夕日を追いかけるように、街のあちこちで灯りがともり始める。


花火大会の会場へ向かう道には、ずらりと屋台が並んでいた。


電球が1つ、また1つと点き始め、その通りはまるで、磨き直した真鍮みたいに輝きを取り戻していく。


「わあーーー、これが出店なんだね、湊!!」


子供みたいに目を輝かせるノゾミに、思わず笑いがこみ上げる。


「そうだよ。あれが射的で、その隣がお面屋。綿あめに、焼きそば……あそこから“ジュウジュウ”って聞こえるだろ?」


屋台説明をしていると、香ばしい匂いが次々と鼻をくすぐってくる。


ソース、油、甘いシロップ……いろんな匂いが混ざって、胃袋を直撃した。


ぐぅ~~。


間の抜けたお腹の音に、一番に反応したのは透花さんだった。


「もう、結菜ちゃんったら。はしたないんだから」


クスクス笑いながらつつくと、西園寺もすかさず反撃してくる。


「わ、私じゃないんだからね!? た、確かにお腹がきつくて、浴衣が苦しくないようにお昼ご飯は抜いてきたけどさ……って、何言わせるのよ、透花!!」


慌てて弁明する西園寺の顔は、さっきまでとは比べものにならないくらい真っ赤で、今にも沸騰しそうだった。


その様子がおかしくて、僕たち四人のあいだに笑い声が弾ける。


「ごめん、ごめん。それ、僕なんだ。久しぶりに屋台の匂いを嗅いだら、お腹空いてきちゃってさ」


僕が頭をかきながら白状すると、西園寺は半分涙目で睨みつけてくる。


「あとで何か奢るから、そんなに怒らないでって。西園寺は、何が好き?」


両手を合わせて謝る僕を見て、一瞬だけ彼女の視線が泳ぐ。


俯いて、少し考えるような間を置いてから――静かに小さくつぶやいた。


「……りんご飴が、食べたい」


そのときの西園寺の横顔を、僕は今でもはっきり覚えている。



♦ ♦ ♦



18時50分。


『まもなく第18回・新江戸川区花火大会を開始致します。会場にお越しの皆様は、今しばらくお待ちください』


アナウンスが流れ、それとほぼ同時に、


「おーーーい、湊!! わりぃ、わりぃ、遅れた!」


やっと陸が合流してきた。


「試合どうだった?」と尋ねると、


「ラスト5分前に、俺のシュートで同点からの逆転勝利だよ」


と、いつもの爽やかな笑顔で親指を立てる。


「調子、戻ってきたんだな」


そう言いかけたとき、西園寺が待ってましたと言わんばかりに口を挟んだ。


「陸くんが遅すぎて、透花がお腹空いたってさっきまで怒ってたんだからねー。罰として……透花と2人で、5人分の飲み物と、なんかご飯買ってきてよねーー!」


どこか既視感のある悪戯っぽい笑顔。


笠原さんは、あたふたしながら慌てて陸のほうを見る。


陸もすぐに西園寺に両手を合わせて謝ると、透花さんと二人で人混みの中へと消えていった。


きっと、西園寺なりのやり方で、透花さんの背中を押してあげたんだろう。


今日のミッションのひとつは、これでひとまず成功したのかもしれない。


そんなことを考えながら左隣を見ると、西園寺はさっき買ったりんご飴を、ゆっくりと大事そうに口へ運んでいた。


「笠原さん、陸と一緒にお祭り回れて良かったね」


「はへぇ!?」


きっと違うことを考えていたんだろう。


西園寺の肩がビクンッと大きく跳ねた。


こほん、と咳払いをひとつ。


呼吸を整えてから、西園寺はゆっくりと口を開く。


「透花ね、実はずっと陸くんのこと好きみたいでさ。実は湊くんや陸くんと同中なんだって。知ってた? 今でこそ、ああやって私とふざけたりする仲になったけど、最初は物静かな子だから、結構勘違いされて大変だったらしいよ? でもね……さっきの顔、見た? すっごく幸せそうでさ。私、自分のことみたいに嬉しくなっちゃったな♡」


そう言って見せた西園寺の笑顔は、本当に満ち足りていて。


ノゾミとはまた違う種類の、年相応の可愛らしさがそこにはあった。


その笑顔に、僕の胸がドクンと跳ねる。


――その瞬間だった。


ドスン、と背中に強い衝撃が走った。


僕は前のめりに押し出されるようにして、左側へと大きくよろめく。


「湊!!」


ノゾミの叫び声。


咄嗟に伸ばされた彼女の手は、空を掠めるだけで僕の身体を捕まえることは出来ない。


後ろから来た誰かが、上段の通路を急いで通ろうとして足を滑らせ、そのまま僕にぶつかってしまったようだった。


「す、すみません!」


慌てた声と足音が遠ざかっていく。


僕は受け身も取れずに、このまま顔から地面に落ちるんだ、と思った。


思わず、ぎゅっと目を瞑る。


冷たい地面が容赦なく顔面を打つ衝撃を覚悟していたのに――いつまで待っても、その痛みはやってこなかった。


代わりに、ふわりと温かいものに包まれるような感覚があった。


そう。


西園寺が僕を庇うように抱きとめ、そのまま二人で一緒に倒れ込んでいたのだ。


最初に彼女だと気づいたのは、あの香りだった。


夜の雨に溶けたシトラスと、柔らかなムスクの甘さ。


胸の奥に残っていた記憶と同じ匂いが、顔のすぐ近くを満たしていく。


浴衣越しに伝わる体温と、かすかな柔らかさ。


うまく体を起こせずにもがいていると、西園寺の身体がびくんと小さく震えた。


「……いたたた……湊くん、大丈夫!?」


体を起こした西園寺との距離は、本当にあと少しで鼻と鼻が触れそうなくらいだった。


その一瞬だけ、僕たちだけの時間が止まったように感じる。


実際には数秒もなかったはずなのに、何分にも伸びてしまったみたいだった。


りんご飴の甘い匂いが、彼女の吐息に混ざって僕の頬を撫でる。


胸の鼓動が、ドンドンと速さを増していくのがはっきり分かった。


西園寺の瞳は、どこか朧げでとろんとしていて。


その桃紅色に帯びたカラコンの奥に、僕自身が小さく映り込んでいる。


きっと、僕の瞳にも、今の彼女だけが映っている。


薔薇輝石みたいに火照った頬。


ぷっくりとした唇に乗ったグロスが、やけに艶やかに見えた。


喉の奥で、ごくりと大きく生唾を飲み込む音が自分でも分かる。


僕たちの唇が触れ合う


――その、ほんの刹那。


ドーーーン。


ドーーーン。


ドーーーン。


深海みたいに暗く深い碧の夜空に、巨大な花びらがいくつも咲き誇った。


その音に呼応するように、観客たちの視線が一斉に夜空へと引き上げられていく。


――おおぉーーー。


どよめきと歓声が、波のように押し寄せた。


さっきまで凍りついていた時間が、花火の音に打ち砕かれていく。


止まっていた秒針が、またカチリと音を立てて動き出したような気がした。


カチッ。


そして、時の針は再び進み出す。


「湊……大丈夫?」


ノゾミの、不安を含んだ静かな声が、僕を現実へと引き戻したのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ