第一話 お誘いの便り
だいぶお待たせしました。
「これ、柊さん宛ての手紙です」
食後のコーヒーをのんびり啜っていたら、そういったアイシャが目の前に手紙を置いた。
「僕宛?どうして、また?」
思わず疑問符がつく。
今、僕がのんびりとコーヒーを啜っている場所は、別に自分の部屋でもなければ、自分のホームでもない。
むしろ、国ですら違う。
今居るのは、ニダヴェリールのアイシャ達の孤児院だ。
ワイバーンとの戦闘で重傷を負ってしまい瀕死になったところを、ヴィゼッタさんの夫に治療してもらった。
ただ、あくまでも怪我を治してもらっただけなので、体力等がだいぶ落ちているので、大事をとる意味でこの孤児院に間借りさせてもらっている。
もちろん、そのまま何もしないでいると、感覚が鈍るので軽い基礎練習と魔法の師事は受けている。
おかげで、実りのある休養となっている。
ただ、その上食事などもお世話になってしまっているので、生活費を出そうとしたのだが、ヴィゼッタさんからもらっているので、とお断りされてしまった。
「送り主はワイズ・ボルティアて言う人だけど」
「ワイズ・ボルティア、ねぇ」
どこかで聞いたことあるような名前だが、どうにもぴんと来ないというか思い出せない。
こっちに着てまだしばらくしか経っていないから、つい最近出会ったはずの人だが、顔が出てこない。
「ねえねえ、見ないの?」
「ああ、うん、ちょっと待ってね。アイシャさん、何か開けるものお願いできませんか」
「うん、ちょっと待ってくださいね」
「どんなお手紙かな?」
「さあ?」
「借金の取立てだったりして」
「え、おっちゃんそうなの?」
すぐそばで同じようにくつろいでいた子供達が興味深そうに好き勝手に話している。
この子供達はこの孤児院の子達だ
一応何もしないわけにもいかないので、面倒を見る手伝いをしていたのだが、最初こそ張り付いた愛想笑いのせいで、警戒されていたが、アイシャとミィーナのとりなしのおかげである程度は懐いてくれた。
やはり子供の警戒心と本心を見抜く鋭さはどうにも勝てそうにもない。
「借金ならしてないから大丈夫だよ」
「本当?」
「おっちゃん貧乏そうだから怪しいよな」
「うんうん、怪しい怪しい」
「こら、そんなことは言わないの。あ、ハサミならありましたので、どうぞ」
「うん、ありがとう」
かなり失礼なことを言われてしまったが、子供のいうことをいちいち間に受けてショックを受けていても仕方がない。
ここはさっさと興味の元を開封するか。
【アキラ・ヒイラギ様
ヴァナヘイムを出られてしばらく経ちましたが、ニダヴェリールではどのようにお過ごしでしょうか
こちらはヒイラギ様が協力していただいた事件の処理も終わり、また元の日常へと無事戻りました。
つきましては、その事件につきまして、慎ましやかではございますがお礼をさせていただきたく、
思っておりますので、ニダヴェリールを出られてヴァナヘイムに立ち寄る際は、ぜひとも宮殿に
顔をお出しいただければと思います。
立ち寄っていただける場合は、面倒な手続きを省くために前回と同じ手段で入っていただければ、
と思っております。
追伸
まだ、お別れしてから短い時間しか経っておりませんが、陛下がヒイラギ様にお会いできる日を
心待ちにしておられます。
ヒイラギ様にとってはご負担かもしれませんが、お時間が許されるようでしたら、
陛下の話し相手になっていただけたら幸いです。
主人思いの従者 ワイズ・ボルティアより】
「ヒイラギさん、これって」
「そうだね」
思わずため息をつきそうになるのはぐっとこらえるが、息を吐いた瞬間に力が抜けそうになる。
「うーん、体の状況からして、今はあまり関わり合いはしたくないんだどね」
「でも、行かないわけにはいかないですよね」
「そうなんだよね」
帰るときにヴァナヘイムに一泊しないといけない以上、無視するわけにはいかないだろう。
確実に僕の動向ぐらいは探っているだろうし、むしろ変に避けようとすると、『お迎え』がくるような状況になって、なおのこと面倒なことになりそうだ。
「なあなあ、誰だったんだ?」
「偉い人だったの?」
「えー、嘘だろう。おっちゃん貧乏そうだから、絶対偉い人の知り合いなんていないだろ」
「こら、いい加減にしなさい」
「いや、まあ、気にしてないんで、別にいいですよ」
見た目にこだわっていない以上、それは仕方のないことだろう。
いつものごとく、安い大量生産の野暮ったい量販品を着ているわけだし。
また、陛下に会うことになるわけだし、この機会に一張羅を準備するのもいいかもしれない。
お金には困っていないわけだし、最低限の身支度は社会人としては必要だろう。
「だからと言って、悪口を言っていいわけじゃありません。ほら、ちゃんと謝って」
「おっちゃん、ごめんな」
「こら」
「ご、ごめんなさい」
「別にいいよ。ただ、僕には仕方ないとして、ほかの人には言っちゃだめだからね」
いらぬ火種になる可能性だってあるわけだし。
「それなら大丈夫。俺って、弁えているから」
「あはは……」
「こら!!」
要するに、僕には言っても大丈夫、ということなのだろうが、ただ舐められているのか、なついていくれているのか、後者だったらいいのだが。
アイシャが、ガッツリとゲンコツを入れるとその子は涙目になっていた。
まあ、仕方ない。
いらぬことを言わぬように、次に活かしてもらおう
「まあ、お説教はほどほどにして、ちょっとお願いがあるんだけど、いいかな?」
「お願いですか?構いませんが」
「今のうちだ!!」
ダッシュでゲンコツされた子が逃げ出すとほかの子もそれについていく。
アイシャが一瞬追いかけようとしたが、すぐにやめた。
まあ、これ以上は蛇足だろう。
ちゃんと反省はしているだろうし、たぶん気を利かせたのだろう。
実際、目配せを三人でしていたし。
まだまだ子供のはずだが、そういうところは非常に聡い子たちだ。
それがいいことなのか悪いことなのかは、わからないが。
「あの、それでお願い事ってなんですか?」
「ああ、単純に服を見繕ってほしくてね」
「確かにその格好で行くわけにはいきませんからね」
そういった彼女は少しだけくすりと笑った。
「まあ、彼女なら気にしないだろうけど、そういうわけにもいかないだろうしね。それに、何かあったときように何着かは作っておかないと、フォーマルな場所に出たときに困るからね」
今の自分の身分では、まだまだ半人前もいいところで、そんなものは必要ないのだが、知人が如何せん規格外の人たちが多すぎる。
それにしたがって、彼らの身分に合わせた付き合いも必要になるだろう。
自分が恥をかく分には最悪構わないが、相手までかかせるわけにはいかない。
「陛下とは仲がいいんですか?」
「うん?どうかした?」
「いえ、彼女、という言い方でしたので」
「ああ、まあ、他意はないよ。ただ、お友達でいて欲しいとは言われたんで、一応はお友達になるとは思いますけど」
「そうですか。大変ですね」
「まあ、本当に、そうだよ」
状況をわかっているからこその言葉だろう。
陛下のお友達であることがいいことなのかどうなのか、彼女はよくわかっていることだろう。
「そういうわけで、無視するわけにもいかないんで、最悪人と会っても恥ずかしくない格好をしときたいんで、そういったお店に行くのを付き合ってくれないかな?自分のコーディネイトじゃ不安だからさ」
残念ながら、僕にファッションセンスなんて言うものはない。
店員に任せればいいかもしれないが、僕一人では確実に分不相応な店だ。
誰かしらついてもらわないとまともに相手してもらえない可能性だってある。
なので、そういったことなら彼女が適任だろう。
「わかりました。構いませんよ」
「じゃあ、支度ができたら教えてくれないかな?僕もちゃちゃっとしてくるからさ」
「はい、わかりました」
そううなづいた彼女は、自分の部屋へと戻っていく。
「さて、僕も支度をしないとね」
女性のほうが身支度に時間がかかるとはいっても、のんびりしていたら待たせてしまうかもしれない。
手紙を封筒に戻すと、切った時のごみはゴミ箱に捨てると自分の部屋に戻った。
次回更新予定は未定です。




