第二話 そこまで朴念仁ではいられない
だいぶお待たせしまして、申し訳ありませんでした。
次の更新予定は未定ですが、少しでも早くできるように頑張ります。
「あれ、もう帰ってきたんですか?」
孤児院に戻って荷物を置いていると、そんな声が返ってきた。
声の先にいたのはミィーナだった。
「服を見繕うだけだからね。出来上がりを待っていたところで、仕上がりはすぐってわけにはいかないし」
アイシャに紹介してもらったお店は、僕が行ったことがないような高級店だった。
出かける前に、アイシャが話を通していたみたいで、玄関先で迎え入れられると案内されるがままといった感じで、寸法を測られた。
作られるものはほとんどオーダーメイドに近いもので、数時間で準備ができるわけもない。
その分、値段は折り紙つきだった。
2着用意したんだが、最低限度のもので作ったものでさえ、社会人時代に使ってた割と値段がしたスーツよりも倍以上した。
もう一着については、桁一つ増えた、ぐらいでは済まない程度の値段がした。
ユグドラシルで稼いでおいて助かった。
まあ、それもコアクリスタルの補修および強化とかで割と使ってしまってはいるので、いつまでも安泰というわけではないけれども。
やっぱり、ランクが高くなれば報酬もいいけど、その分必要経費も高くなる。
そのあたりはやっぱり気を付けないといけないのだろう。
「いや、それは分かるんだけど、せっかくのデートなのに」
「デートじゃないですよ」
「いやいや、デートですよ。出かける前のアイシャちゃんはすごくうきうきしてましたもん。服装にもだいぶ気を付けてましたし」
まあ、確かに、いつもよりかはテンションは高かったのはわかったし、服装にも気合が入っているようにも思えた。
だから、変な期待を持ちそうになったのも確かにある。
「そもそも、アイシャちゃんはどこにいるんですか?」
「外で子供たちにつかまってるよ」
まあ、大方はミィーナと同じ用件だろうけど。
「置いてきたんですか?」
「先に荷物をしまっておいてくれと言われてね。子供たちへのお土産」
袋にはいろんな種類のお菓子が入っている。
「あの、さすがにちゃんとお礼はしたんですよね?」
「アイシャちゃんに?そりゃもちろん」
ちょうどいいバレッタが目に入ったので、それをプレゼントした。
そんなに高いものじゃなかったので、お礼だと言ったら素直に受け取ってくれた。
それぐらいの気遣いは僕にだってできる。
「そのあと、どこか行こうとかそういう話にはならなかったんですか?」
「アイシャちゃんが子供たちのことを気にしてたし、割と大荷物になったしね」
さすがに両手がふさがるとどこかへ行こうという気はなくなってしまう。
「アイシャちゃんも大概だけど、柊さんはもっとひどいですね」
「とは言われてもねぇ」
みなまでは言わない。
もちろん、彼女の言いたいことは分かる。
何とも甲斐性のない男だというのはよくわかっている。
ちらりと周りを見渡す。
今、ここには僕たち二人しかいない。
誰かが聞き耳も立てている様子もないだろうし、外にいる人たちもすぐには入ってこないだろう。
今なら彼女以外には聞こえない。
「まあ、僕にとっては妹みたいな存在だからね。兄としては頼りないだろうけどさ」
別に僕だってそこまで鈍くはない。
アイシャの見せる表情やミィーナの言葉を聞くと、ある程度は察しはつく。
もちろん、確定的な言葉が出てきていない以上、決めつけるわけにはいかないが。
「アイシャちゃんがそう思っているように見えますか?」
「そういう意地悪な質問はやめてほしいんだけどね」
「でも、現状いじわるなのは柊さんだと思いますよ」
まあ、友達としてはある程度やきもきする部分はあるんだろう。
個人的には、僕なんかの何がいいのかがまったくわからない。
顔が整っているわけでもなければ、性格がいいわけでもないし、強いわけでもなければ、博識というわけでもない。
多少、成長速度が速いだけで、それ以外は特筆する点はないはずだ。
そういう意味では、殿下や陛下も同じなんだが。
何が気に入ったのかが理解できない。
「僕がいられるのは友達までだよ。それ以上は、現実的に考えて背負いきれないよ」
やはり、立場が違いすぎる。
向こう元王族で、オーバーSランクの冒険者。
こっちは平凡な家庭で育ったまだ半人前の冒険者。
いくら成長が速いといっても、この先それがずっと続くとは限らない。
あっという間に駆け上ったが、壁が立ちふさがって、そのままというのなんてざらにある。
これから先も、急成長で彼女たちに追いつくなんていう保障はどこにもない。
もし、仮に途中で止まってしまったら、そこまでだ。
あくまでも、昔成長速度の速かった冒険者で終わりになる。
その程度で彼女たちに並び立つのはおこがましいと思えるし、かといってほかに誇れるものがあるのかというと、あるわけがない。
だから、そのギャップを乗り越えようと思うと相当の労力がいる。
「そう、ですか」
そう答えた彼女は、失望したような顔をしていた。
彼女の期待に応えられなかったのだ、仕方ないだろう。
「あんなに楽しそうにしているアイシャちゃんはめったに見ないから、だからって思ったんだけど」
「ごめんね」
僕には謝ることぐらいしかできない。
彼女のこれまでの様子を見るとよくわかる。
むしろ、僕に何を期待しているのかわからないほうがおかしいぐらいだ。
「いえ、あたしこそ勝手なことを言ってごめんなさい。そうですよね、柊さんにだって選ぶ権利がありますよね」
「贅沢なんだろうけどね」
僕なんかにはもったいない相手だ。
でも、だからこそ、一歩引いてしまう。
高嶺の花というのは、遠くから眺めるからいいのだ。
いざ手に入れてしまうと、その手入れに苦心しないといけなくなる。
そして、いつかはそれが破たんしてしまうのだ。
僕にそれだけのこらえ性があるとはとてもじゃないが思えない。
「そうですよ。柊さんは贅沢ものです」
そういった彼女は少しだけ笑った。
彼女とてわかっている。
そう簡単にぽんと手を差し伸べられる相手ではないことぐらい。
むしろ、簡単にぽんと手を差し伸べるような相手では困る。
「そういえば、仕上げができたらすぐに出るんですか?」
少しだけ暗くなった空気を払しょくするための話題転換。
「すぐかどうかは分からないけど、長居はしないと思うよ」
僕もそれに乗っかっておく。
「ただ、体の調子はだいぶ戻ったから、準備ができ次第行くつもりだよ」
ちょうどよかったといえばちょうどよかったのだ。
タイミングを計っていたのだが、二人がまだもう少しいてくれというので、残っていた部分もあったわけだし。
「なら、もう少ししたら行っちゃうんですね」
「いつまでも、向こうを留守にするわけにはいかないからね」
部屋もだいぶほったらかしにしているし、冷蔵庫の中身とかやばそうだ。
「そうですね。柊さんにも柊さんの生活がありますもんね」
あくまでも僕のホームは向こうだし、向こうにだってわずかだけど顔見知りもいる。
こっちで過分なく過ごせるようにしてもらってるが、それでもお客さんだ。
自分のやりたいようにはできない。
「まあ、暇を見つけて遊びには来るよ」
「そういって、やってくるのが何年もあとっていうのはやめてくださいよ?」
「いや、さすがにそれはないと思うよ」
さすがに、そこまで薄情ではない。
しょっちゅう出払うわけにはいかないけど、自由にできる時間はいくらでもあるわけだし、たまには顔を出すつもりだ。
「別にさみしいのはアイシャちゃんたちだけじゃないんですよ?私もそうですし、子供たちだってなついているんですからね?」
「わかっているよ。忘れられない程度にはちゃんとくるよ」
「それならいいです」
あまりにも来なさすぎて、あのおっさん誰とか言われたら泣きたくなるだろう。
うん、ちゃんとできる限り来ないといけないな。




