特別長編 悪の剣 罪の重さ⑥
「罪の重さ(後編⑦)」
夜。
山奥。
雨が静かに降っていた。
木々から落ちる雫だけが、辺りに響く。
リュウガとタイガは木の根元に座り込んでいた。
服は泥だらけ。
顔には殴られた痕。
目の下には濃い隈。
何日もまともに眠れていない。
タイガが震える声で言う。
「……もう嫌だ。」
「帰りたい。」
リュウガも俯いたまま動かない。
空腹。
寒さ。
孤独。
そして――。
いつ来るか分からない、あの男への恐怖。
ガサッ。
草を踏む音。
二人の肩が大きく跳ねる。
黒いスーツ。
全身に包帯。
政宗だった。
「ひっ……!」
リュウガは思わず後ずさる。
橋の上でナイフを向けた少年とは、まるで別人だった。
政宗は静かに歩み寄る。
何も言わない。
ただ立っているだけ。
その沈黙が何より怖かった。
リュウガは震えながら叫ぶ。
「も、もうやめてくれ!」
「頼む!」
「許してくれぇ!」
タイガも地面に額をつける。
「お願いだ!」
「もう殴らないでくれ!」
政宗は二人を見下ろす。
静かに口を開く。
「許してくれ……か。」
雨音だけが響く。
「ショウイチも。」
「ソウタも。」
「何度もそう叫んだ。」
リュウガの肩が震える。
「『もうやめてくれ』と。」
「『助けてくれ』と。」
「お前たちは。」
「その叫びに、一度でも耳を傾けたか。」
沈黙。
誰も答えられない。
「苦しそうに泣く姿を見て。」
「笑っていたのは誰だ。」
「土下座する姿を撮影し。」
「面白いと笑っていたのは誰だ。」
「死にたいと追い詰めたのは誰だ。」
政宗の声は大きくない。
それなのに、一言一言が胸に突き刺さる。
「お前たちは。」
「気にも留めなかった。」
「自分たちのしていることが、どれほど残酷か。」
「考えようともしなかった。」
リュウガの目から涙がこぼれる。
「……ごめん。」
小さな声だった。
政宗は首を横に振る。
「違う。」
「その言葉は。」
「俺に言うものではない。」
タイガも泣き崩れる。
「もう……本当に……。」
「許してください……。」
政宗は静かに近づく。
「人は。」
「自分が痛みを知って初めて。」
「他人の痛みに気付く。」
「だから俺は。」
「お前たちに痛みを教えている。」
「楽しんでいるわけではない。」
「復讐でもない。」
「お前たちが。」
「二度と誰かを同じ目に遭わせぬためだ。」
その言葉に、二人は顔を上げた。
そこにあったのは怒りではない。
悲しみだった。
政宗はゆっくり腰へ手を伸ばす。
カチャ……
刀の柄を握る。
リュウガとタイガの顔色が変わる。
「や……やめろ……。」
政宗は静かに言う。
「ある友と約束をした。」
「この刀は使わぬと。」
少しだけ目を閉じる。
ユウキとの約束が脳裏をよぎる。
「……だが。」
「貴様らのような悪を斬るためなら。」
「その約束を破るしかない。」
ゆっくりと刀が鞘から抜かれる。
キィン……
冷たい刃が月明かりを反射する。
二人は腰が抜け、その場で尻もちをついた。
「い、嫌だ……。」
「死にたくない!」
リュウガは涙と鼻水で顔をぐしゃぐしゃにしながら土下座した。
「本当にごめんなさい!」
「俺が悪かった!」
「ショウイチを……。」
「ソウタを……。」
「俺たちが苦しめた!」
「全部俺たちが悪い!」
タイガも声を震わせる。
「お願いです!」
「どうか……許してください!」
政宗は刀を構えたまま、二人を見つめる。
その目は、二人の嘘を見抜くように真っ直ぐだった――。
――続く。




