特別長編 悪の剣 罪の重さ④
「罪の重さ(後編③)」
夕暮れ。
橋の上。
リュウガとタイガは地面に倒れ込んでいた。
全身が痛む。
立ち上がることすらできない。
政宗は静かに二人を見下ろしている。
ソウタは少し離れた場所から、その様子を見つめていた。
リュウガは苦しそうに息を吐く。
「……なんなんだよ、お前。」
政宗は答えない。
ゆっくりと木刀を腰から外す。
リュウガの肩が震えた。
(やばい……。)
(まだ終わってない。)
だが政宗は木刀を地面へ置いた。
「安心しろ。」
「これは使わん。」
その言葉に二人は少しだけ安堵する。
しかし。
次の瞬間。
ドゴッ!!
政宗の拳が再びリュウガの頬を打ち抜く。
「ぐぁっ!」
「木刀を使わぬと言っただけだ。」
静かな声。
タイガの顔が引きつる。
(意味が分かんねぇ……。)
政宗は二人の前にしゃがみ込む。
「これが痛みだ。」
「まだ分からぬか。」
リュウガは涙を浮かべながら睨み返す。
「ふ、ふざけんな……。」
「俺の父さんが黙ってねぇぞ……。」
政宗は目を逸らさない。
「そうか。」
「なら、お前の父親にも会おう。」
その一言で。
リュウガの表情が固まる。
「……は?」
「明日の朝。」
「この橋へ来い。」
「来なければ迎えに行く。」
政宗の声に感情はない。
「お前だけではない。」
「お前の父親のところまで行く。」
リュウガの顔色が変わる。
タイガも思わず政宗を見上げた。
(この人……。)
(本気だ。)
リュウガは強がって笑う。
「く、来るわけねぇだろ。」
「親父に言えば、お前なんかすぐ捕まる。」
政宗は静かに言う。
「勝手にしろ。」
「だが、来なければ。」
「俺がお前たちを迎えに行く。」
「何度でもだ。」
橋に風が吹く。
誰も言葉を発しない。
政宗は木刀を拾い上げる。
「今日は帰れ。」
「明日の朝。」
「遅れるな。」
そう言うと背を向け、歩き始めた。
ソウタは慌てて追いかける。
「包帯のおじさん!」
政宗は立ち止まらない。
「……ありがとうございました。」
政宗は少しだけ足を止めた。
振り返ることなく言う。
「礼なら、生きてから言え。」
「ショウイチの分まで。」
その言葉だけ残し、静かに歩き去っていく。
ソウタは何度も頭を下げた。
一方、橋に残されたリュウガとタイガ。
二人は震えながら立ち上がる。
タイガが小さな声で言う。
「……どうする。」
リュウガは唇を噛む。
「知らねぇよ。」
そう言いながらも。
頭の中では、あの言葉だけが何度も響いていた。
「お前の父親のところまで行く。」
今まで誰一人、父親を恐れなかった人間はいない。
なのに。
あの男だけは違った。
リュウガは初めて、自分より恐ろしい存在に出会ってしまった。
――続く。
「罪の重さ(後編④)」
翌朝。
まだ日が昇ったばかりの橋。
冷たい風が吹いていた。
政宗は静かに橋にもたれ、川を見つめている。
約束の時間。
遠くから足音が聞こえてきた。
リュウガとタイガだった。
二人とも顔色が悪い。
昨夜の傷も残っている。
逃げようか。
何度も考えた。
だが、あの男は本当に迎えに来る。
そう思うと足が動いた。
政宗は振り返る。
「来たか。」
リュウガは睨み返す。
「……来たよ。」
「これでいいんだろ。」
政宗は静かに歩き出した。
「ついて来い。」
「どこ行くんだよ。」
「来れば分かる。」
二人は顔を見合わせながら後を追う。
しばらく歩く。
住宅街へ入る。
一軒の古い家の前で政宗は立ち止まった。
表札には、
「佐々木」
と書かれている。
リュウガが首をかしげる。
「……誰ん家だ。」
政宗は答えない。
玄関のインターホンを押した。
ピンポーン。
しばらくして扉が開く。
やつれた男性が姿を現した。
頬はこけ、目の下には深い隈。
まるで何日も眠っていないようだった。
その後ろには、小柄な女性。
抱きしめるように一枚の写真を胸に抱えている。
二人は政宗を見る。
「……あなたは。」
その視線が、後ろへ移る。
リュウガ。
タイガ。
その瞬間だった。
父親の表情が変わる。
目を見開き。
怒りと悲しみが一気に込み上げる。
「……お前ら。」
震える声。
母親も写真を抱き締めたまま涙を流す。
「ショウイチ……。」
リュウガは小さく舌打ちする。
「……。」
政宗が静かに言う。
「謝れ。」
二人は黙ったまま。
政宗はもう一度言う。
「自分たちが何をしたのか認めろ。」
「心から謝罪しろ。」
リュウガは面倒そうに頭を下げる。
「……すんませんでした。」
タイガも続く。
「悪かったっす。」
沈黙。
ショウイチの父親は何も言わない。
政宗は二人を見つめる。
そして静かに口を開いた。
「……反省していないな。」
リュウガは顔を上げる。
「してるって。」
「ちゃんと謝っただろ。」
「もういいじゃねぇか。」
政宗の目が細くなる。
「本当にそう思うか。」
リュウガは肩をすくめる。
「だってさ。」
「死んだのは俺たちのせいじゃねぇし。」
「ショウイチが勝手に——」
パンッ!!
乾いた音が響く。
政宗の拳が、リュウガの頬を打ち抜いた。
リュウガは地面へ倒れる。
タイガの顔が青ざめる。
政宗は倒れたリュウガを見下ろす。
「……最後の機会をやった。」
「だが、お前たちは。」
「まだ何一つ分かっていない。」
ショウイチの父親は震えながら言う。
「……もう、帰ってください。」
「顔も見たくありません。」
「息子は……帰ってこない。」
その言葉に、母親は声を押し殺して泣き崩れた。
政宗は深く頭を下げる。
「……申し訳ない。」
「もう少しだけ、お時間をください。」
そしてゆっくりと顔を上げる。
その目には、静かな決意だけが宿っていた。
政宗はリュウガとタイガを見る。
「行くぞ。」
リュウガが顔をしかめる。
「……どこへ。」
政宗は答えない。
次の瞬間。
二人の首筋へ手刀が落ちた。
ドサッ。
二人はその場に崩れ落ちる。
ショウイチの両親は驚いて息を呑む。
政宗は二人を肩へ担ぐ。
そして玄関へ向かってもう一度、深く頭を下げた。
「必ず。」
「この者たちに、自分たちの罪の重さを理解させます。」
そう言い残し、静かに歩き去っていった。
――続く。




