番外編 侍と少年
◼️第九話「職質」
夜。
政宗はコンビニから出てきた。
片手には湯気の立つ肉まん。
「この肉まんという食べ物……悪くない。」
一口かじり、満足そうに歩き出す。
腰には、いつもの木刀。
その時だった。
「すみません、少しいいですか?」
二人の警察官が声をかける。
政宗は足を止めた。
「……何だ。」
「夜分すみません。少しお話を聞かせてもらえますか?」
「よかろう。」
警察官はメモ帳を取り出す。
「お名前は?」
「伊納政宗。」
「ご年齢は?」
「三百……いや、二十七だ。」
「ご職業は?」
「侍。」
警察官は苦笑いする。
「えっと……お仕事は?」
「だから侍だ。」
「……。」
少し気まずい空気が流れる。
一人の警察官が腰の木刀を見る。
「その刀は……木刀ですよね?」
「うむ。」
警察官は少し安心した表情になる。
「護身用ですか?」
「違う。」
「では?」
「鍛錬用だ。」
「そうなんですね。」
「人を斬るなら木刀でも十分だ。」
警察官の笑顔が止まる。
「……え?」
「昔はこれで何度も鍛えた。」
「そ、そうですか……。」
もう一人の警察官が話題を変える。
「住所を教えていただけますか?」
「橋の下だ。」
「……橋の下?」
「橋の下だ。」
「えっと、ご自宅は……」
「だから橋の下だ。」
警察官は困ったように顔を見合わせる。
「身分証はお持ちですか?」
「ない。」
「保険証や免許証でも……」
「ない。」
「マイナンバーカードは?」
「何だ、それは。」
質問はまだまだ続く。
政宗は大きくため息をついた。
「……めんどうだ。」
次の瞬間。
ダッ!!
政宗は一気に走り出した。
「えっ!? 待ってください!」
「逃げるなー!」
警察官二人も全力で追いかける。
しかし。
「速っ!!」
「なんだあの脚力!」
「全然追いつけない!」
木刀を腰に差した政宗は、夜道を風のように駆け抜けていく。
その頃。
買い物帰りのユウキは、スーパーの袋をぶら下げて歩いていた。
ふと前を見る。
「……あれ?」
先頭を全力で走る政宗。
その後ろを必死に追いかける警察官二人。
「止まってくださーい!」
「待てー!」
ユウキはしばらく無言でその光景を眺めた。
そして、小さくつぶやく。
「……何やってんだ、あの侍。」
政宗は一度だけユウキの方を見て叫ぶ。
「ユウキ! すまん、急いでおる!」
「急いでるじゃなくて、逃げてるじゃん!」
そのツッコミだけが夜の街に響いた。
◼️最終話 「置き手紙」
政宗が文房具屋へ行く。
店員 「何をお探しですか?」
政宗「紙を探している。」
店員「お手紙ですか?」
政宗 「遺書を書く。」
店員 「えっ」
政宗 「いや、置き手紙だ。」
店員 「どっちも怖いです。」




