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悪の剣  作者: Dai


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第28話(最終話) 政宗

影虎から政宗に戻るとき……それは。

——同時に地を蹴った。

金属がぶつかる音が空気を裂いた。

キィン!

影虎と白虎の刃が交錯する。

一瞬の火花。

次の瞬間には互いに距離が消えていた。

再び踏み込み。

斬る。避ける。返す。また斬る。

数秒で何十の斬撃が空間を埋める。

「久しいな、この感覚……!」

白虎が笑う。

「まだ鈍ってはいないようだな!」

影虎は答えない。

ただ一閃、重く深く踏み込む。

白虎の肩に赤が走る。

「影虎ぁぁ!」

白虎が叫ぶ。

「まだそんなものか!」

返す刃。

影虎の腕に血が走る。

「白虎ぉぉ!」

影虎も叫ぶ。

二人の距離が一気に詰まる。

金属音が消える。

代わりに呼吸音だけが響く。

数秒。いや、数分か。

互いに全身が傷だらけになっていた。

白虎が笑う。

「やはり……お前は強い」

影虎も笑う。

「お前もだ」

静かな狂気。

白虎が一歩踏み込む。

「なら、終わらせるぞ」

影虎も応える。

「ああ」

——最後の一閃。

音が消えた。

世界が止まったような静寂。

白虎の刀が宙で止まる。

影虎の刃は、その胸をかすめていた。

白虎はゆっくりと吐血する。

膝が落ちる。だが倒れない。

まだ立っている。

「……やはり、お前は強いな」

「俺は一度もお前を超えられなかった……」

白虎は笑う。

「影虎」

「俺の負けだ」

影虎は何も言わない。

白虎はゆっくりと顔を上げる。

「殺せ」

影虎は動かない。

刀を握ったまま。

白虎が少しだけ目を細める。

「どうした」

「迷っているのか」

「二度も……俺を生かすつもりか?」

「これ以上、恥をかかせるな」

影虎の手がわずかに震える。

「なぜ迷う。」

「お前は俺にとって兄弟も同然。」

「俺には斬れない……。」

白虎が吐き捨てるように笑う。

「ふん、相変わらず甘いな……」

「もう一度やり直せ」

「無理だな……」

「さっさと俺の首をとれ」

「お前にならば、本望だ」

影虎は刀を白虎の首に当てる。

そして——握る。

だが、斬れない。

刀がわずかに震える。

白虎が問う。

「ならば……最後に問う」

「お前は何者だ……?」

影虎は答えない。

呼吸だけが重くなる。

(殺せば終わる)

(影でいれば、何も選ばなくていい)

それがずっと楽だった。

ずっとそうやって生きてきた。

だが——

ユウキの声が消えない。

「もうこんなの終わりでいいじゃないか」

それは命令じゃなかった。

ただの“願い”だった。

影虎は息を吐く。

そして、ゆっくり目を開く。

ようやく、“選ぶ”。

「……俺は」

白虎の視線が止まる。

「影虎じゃない」

一拍。

「だが」

「過去に戻るつもりもない」

さらに一拍。

「ただの」

「伊納政宗だ」

その瞬間。

空気が変わる。

影虎の中の何かが、完全に切り替わる。

白虎が静かに笑った。

「ふん、そうか……」

白虎は再び刀を取る。

——その刹那。

「……!」

「しまった……」

だが身体が動かない。

「斬られる」

そう思った瞬間——

ドスッ。

白虎は自ら腹に刃を突き立てていた。

「っ……!」

政宗が動くより早く。

血が溢れる。

白虎は膝をつく。

「ならば……これでいい」

「お前に……殺されるよりもな」

「さらばだ、政宗……」

白虎は静かに倒れる。

静寂。

風の音だけが残る。

影虎は立ち尽くす。

刀を下ろさないまま。

こうして、影虎と白虎との因縁は終わりを告げた。

——

翌朝

「都内ビルで多数の死傷者」

ユウキはテレビを見つめる。

「……政宗」

夜・橋の下

「政宗!」

走ってきたユウキ。

だがそこに政宗はいない。

きれいに畳まれたスーツ。

木刀。

そして手紙。

『世話になった

お前と過ごした日々は悪くなかった

達者でな

政宗』

ユウキの手が震える。

自分でもよく分からなかった。

そしてユウキは叫びだす。

「政宗!政宗!」

政宗を必死に探すユウキ。

だが、見つからない。

「……ふざけんなよ」

声が夜に消える。

——

廃墟ビル。

血に濡れた壁にもたれ、政宗は動かなかった。

風が通る音だけが、やけに遠い。

静かに、目を閉じる。

「……良い夢を見させてもらった。」

暗闇の中。

二つの影。

妻と子。

「お疲れ様でした。」

「さあ、行きましょう」

手を差し出す。

政宗は少しだけ笑う。

「ああ」

その手を取る。

かつて失ったはずの、家族の形。

もう痛みも、戦いもない。

ただ静かな背中だけが、暗闇の中へ消えていく。

——

数週間後

学校の帰り道、マサトたちに囲まれるユウキ。

「最近、あのおっさん見かけねえな」

「やっちまえ!」

殴りかかるマサトたち。

だがユウキはもう違う。

投げ飛ばす。

全員倒れる。

「……くそっ」

手が止まる。

「もうやめよう」

「は?」

「何でだよ。」

ユウキは黙って手を見た。

少しだけ迷って、

それから手を差し出した。


「友達になろう」


ユウキは空を見上げる。

風が吹く。

橋の下は、もう空っぽだった。

それでも少しだけ笑う。

「見てるだろ、政宗」

夕陽の中を歩き出す。

少年の背中はもう、誰かに守られる背中ではなかった。



最終話になります。

ありがとうございました。


番外編や特別編などもうちょっとだけ投稿する予定ですので、もう少しお付き合い頂けますと幸いです。

宜しくお願いします。

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