第25話 白虎(前編)
朝。
橋の下。
ユウキは投げられる。
「いてっ、少しは手加減しろよな。」
「これでもしている。」
「政宗って剣以外でも強いんだな。」
「体術を極めてこその剣術だ。」
「戦いは、刀を抜く前に決まる。体が動かなければ、剣も死ぬ。」
ユウキは黙って頷いた。
――
夕方。
橋の下。
ユウキはスマホでニュースを見ていた。
『昨夜、市内の暴力団事務所で複数の遺体が発見されました。』
『全員が刃物のようなもので斬られており、警察は殺人事件として捜査しています。』
画面が切り替わる。
『さらに、市内では通り魔による無差別殺傷事件も発生。』
『複数の被害者が刃物のようなもので襲われました。』
『警察は同一犯の可能性も含め、犯人の行方を追っています。』
ユウキは思わず政宗を見る。
「……まさか。」
政宗は黙って木刀を持ち上げる。
「俺の武器はこれだ。」
ユウキは苦笑する。
「だよね……。」
政宗はニュース画面を見つめた。
「事件の内容を話せ。」
ユウキはニュースで見た内容を説明する。
政宗は静かに立ち上がった。
「今回は危険だ。」
「俺一人で行く。」
「政宗……。」
「気を付けて。」
「ああ。」
政宗は橋の下を後にした。
――
夜。
人気のない路地。
一人の女性が男から逃げていた。
「いやっ!」
白いスーツの男が静かに刀を振り上げる。
その瞬間。
ドンッ!!
木刀が振り下ろされた刀を打ち払った。
白いスーツの男が目を細める。
全身包帯。
黒いスーツ。
木刀を構えた男。
政宗だった。
「そのおなご。」
「早く逃げろ。」
女性は震えながら頭を下げ、その場から走り去る。
男は静かに笑う。
「やはりお前か……影虎。」
政宗は男を見つめる。
「やはり、お前か……白虎。」
白髪を後ろで束ねた男。
獣のような鋭い目。
隙のない構え。
白虎は笑みを浮かべた。
「その目。」
「その身のこなし。」
「その殺気。」
「姿は変われど、すぐに分かるぞ。」
「醜い姿になったものだな、影虎。」
政宗は木刀を構えたまま答える。
「なぜ、お前がここにいる。」
白虎は肩をすくめる。
「お前に敗れたあと、傷を癒やしていた。」
「回復した頃には、お前は将軍を斬り、火炙りにされたと聞いた。」
「だが死体は見つからなかった。」
「信じられなかったよ。」
「お前ほどの男が、あんな終わり方をするとはな。」
白虎は笑みを深くする。
「だから俺は、お前を襲った村人どもを全員斬ってやった。」
「俺たちの勝負を邪魔した罰だ。」
「ありがたく思え。」
「お前も奴らを恨んでいたのだろう?」
政宗は冷たく答えた。
「愚かな。」
白虎は鼻で笑う。
「覚えているか、影虎。」
袖をまくる。
腕には深く刻まれた古傷。
「貴様が残した傷だ。」
「骨を断ち、筋を裂いた。」
「剣士として終わったと思った。」
「だが感謝している。」
「この傷が、俺をさらに強くした。」
「医者には二度と刀は握れぬと言われた。」
「それでも諦めなかった。」
「利き腕ではない腕で、狂ったように刀を振り続けた。」
「血を吐いても。」
「骨が軋んでも。」
「倒れても。」
「そして、また刀を握れるようになった。」
政宗は静かに言う。
「あの時……両腕を断つべきだった。」
白虎は笑う。
「探したぞ、影虎。」
「だが、お前はどこにもいなかった。」
「空しかった。」
「だから決めた。」
「この時代で天下を取る。」
「人斬りとしてな。」
「そうすれば俺の気持ちは満たされると思った。」
「まずは、斬りまくろう。満たされるまで。」
白虎は刀を静かに抜いた。
「そう天に誓った瞬間。」
「雷が落ちた。」
「気付けば、この時代だった。」
「今は黒影社の用心棒をしている。」
刀身を見つめる。
「だが、この刀が血を欲しがる。」
「だから、たまに吸わせてやるのさ。」
「だが、どこに行ったかと思えば貴様もこの時代にいたとはな……」
「なんたる偶然。」
政宗は目を閉じた。
「……そうか。」
そしてゆっくり目を開く。
「いや。」
「偶然ではない。」
「これは必然だ。」
白虎が口元を歪める。
「ほう?」
政宗は静かに木刀を握り直した。
「やっと分かった。」
「俺がこの時代へ来た理由が。」
「あの日、お前を見逃した。」
「その過ちに決着をつけるため。」
「お前を止めるために、俺はここへ来た。」
「お前を止められる者がいるとすれば。」
「それは俺だ。」
「この時代へ送られたお前も、運が悪かったな。」
「なんだと?」
「そんな木刀で俺を止められると思うな。」
「止めてみせるさ。」
「もし、火炙りにされる前の俺だったなら。」
「お前と同じ道を歩んでいたかもしれない。」
「あるいは、お前に斬られていた。」
「それほど俺の心は壊れていた。」
ユウキの笑顔が浮かぶ。
「だが。」
「一人の少年が。」
「俺を、人に戻してくれた。」
木刀を強く握る。
「俺は影虎ではない。」
「政宗として。」
「お前を止める。」
「終わらせる。」
「お前を。」
白虎はゆっくりと刀を構える。
「面白い。」
「ならば証明してみろ。」
政宗も木刀を構える。
夜風が吹く。
二人の間に張り詰めた空気が流れる。
次の瞬間――
白虎の姿が消えた。
「……!」
政宗の目が見開かれる。
「……速い。」
視界から消えた。
――後編へ続く。




