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悪の剣  作者: Dai


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第13話 奪う者

教室の昼休み。

ユウキは机で弁当を開いていた。

視線は、まだゼロじゃない。

それでも――昔ほど刺さってこない。

廊下の笑い声が聞こえる。

昔なら、それだけで胃が重くなっていた。

今は、ただ箸が進む。

「まあ、こんなもんか」

小さく息を吐いた。

いじめが完全になくなったわけじゃない。

けれど、以前ほど絡んでくる連中はいない。

もし何かあっても――今の自分なら、前ほど何もできないわけじゃない。

そんな感覚だけは、確かにあった。

放課後。

夜、ユウキは橋の下にいた。

ユウキはスマホを見ながらため息をついた。

「また闇バイトか……」

ニュースには高齢者宅を狙った強盗事件の記事が並んでいる。

『実行役は若者』

『SNSで募集』

『指示役の行方は不明』

政宗が尋ねる。

「何だ、それは」

「犯罪者募集みたいなもん」

ユウキは肩をすくめた。

「楽して金が手に入るって誘ってさ、実際は強盗とかやらせるんだよ」

政宗の表情がわずかに険しくなる。

「賊か」

「まあ、そんな感じ」

ユウキはスマホをしまう。

「でも実際にやるのは普通の若者らしい」

政宗はしばらく黙った。

そして低く言う。

「弱き者から奪うために集まるのか」

その声には嫌悪が混じっていた。

「最低だよな」

ユウキがそう言った時だった。

政宗がふと顔を上げる。

「……妙だな」

「え?」

「争う気配がする」

政宗の目が細くなる。

「誰かが怯えている」

「行くぞ」

政宗は立ち上がった。

住宅街。

夜にしては静かすぎた。

政宗は一軒の古い家の前で止まる。

ユウキが首を傾げる。

「どうした?」

政宗は玄関を見ていた。

扉がわずかに開いている。

ガラスも割れていた。

その時。

家の中から怒鳴り声が響く。

「金を出せ!」

ユウキの顔色が変わる。

「おい……」

続いて老人の声。

「や、やめてくれ……」

政宗は迷わず家へ踏み込んだ。

居間。

老人が床に倒れていた。

若い男が二人。

一人はバール。

もう一人はナイフを持っている。

男が老人を蹴ろうとした。

その瞬間。

「やめろ」

低い声。

二人が振り返る。

政宗が立っていた。

「誰だお前!」

政宗は木刀を握る。

「通りすがりだ」

ユウキが後ろで小さく呟く。

「侍って言わないんだな……」

男がナイフを向ける。

「失せろ!」

飛びかかる。

だが――

ドン。

男の体が吹き飛ぶ。

木刀の一撃。

男は床を転がった。

残る一人の顔色が変わる。

「な、何なんだよお前……」

政宗は静かに近づく。

「老人一人を二人で襲うか」

男が後退する。

「うるせえ!」

「俺たちだって好きでやってるわけじゃねえ!」

「命令なんだよ!」

ユウキが反応した。

「命令?」

男はしまったという顔をする。

政宗は男を見据えた。

「金が欲しいか」

「なら働け」

「弱き者から奪う理由にはならん」

静かな声だった。

だが、その言葉は重かった。

遠くでサイレンが鳴る。

ユウキは隙を見て通報していた。

男たちは明らかに焦り始める。

そのうち一人が震えながら呟いた。

「失敗したら殺される……」

ユウキが眉をひそめる。

「誰にだよ」

男は顔を青くする。

「知らねぇ……」

「顔も見たことねぇ……」

「でも……」

男の喉が震える。

「黒いコートの男だ……」

「逆らった奴は消える」

その瞬間。

ユウキの表情が変わった。

脳裏に浮かぶ。

夜。

フードの奥が見えない男。

不気味な笑み。

あの時の会話。

「……まさか」

男はそれ以上話さなかった。

サイレンが近づいてくる。

男たちの顔から血の気が引く。

「くそっ……!」

逃げようとした瞬間。

政宗が前へ出る。

それだけだった。

だが男の足は止まる。

進めない。

まるで見えない壁があるようだった。

膝が震える。

そして――

男はその場に座り込んだ。

完全に心が折れていた。

政宗が木刀を収める。

「行くぞ」

ユウキが振り返る。

「え?警察来るぞ?」

「後は役人の仕事だ」

政宗は歩き出した。

老人は無事だった。

犯人も動けない。

やるべきことは終わっている。


遠くでサイレンの音が近づいている。

二人は振り返らなかった。


橋の下。

夜風が吹く。

ユウキは黙り込んでいた。

やがて口を開く。

「なあ政宗」

「何だ」

「黒いコートの男」

政宗の目が向く。

ユウキは続ける。

「前に会ったやつと関係あると思うか?」

しばらく沈黙。

やがて政宗が言う。

「分からん」

そして夜の闇を見つめる。

「だが――」

声が低くなる。

「臭いは同じだ」

風が吹く。

闇は何も答えない。

だが。

どこかで誰かが糸を引いている。

そんな予感だけが残っていた。

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