第四話 清水の舞台ー空冷ユニット
十一月の清水寺。
紅葉シーズン真っ只中。
観光客が「綺麗ね〜」と紅葉を楽しんでいる中、
アキトだけは仁王門の前で、滝のような汗を流していた。
「……暑い。何これ。
秋ってこんなに暑かったっけ。
これ、紅葉じゃなくて俺が『茹でダコ』になる演出?」
「文句を言わない。
あんたのその『無駄にデカい出力』が、
周囲の熱を磁石みたいに吸い寄せてるのよ」
隣で涼しい顔をしているカナ。
彼女はタブレットで、清水舞台をスキャンしている。
「いい? 清水寺は天平OSの『空冷ユニット』。
崖の上に組まれたあの舞台は、巨大な放熱板なの」
「え、あの舞台が?」
「でも、1300年分のエラーログがゴミとして詰まって、
排熱ファンが停止しかけてる。
このままだと、京都が物理的に『茹で上がる』わ」
「……それ、さっきの俺じゃないですか」
「ええ。あんたが縮図ね」
「……俺にどうしろって言うんですか。
大学の『冷却呪法入門』は単位落としたんですよ?
追試の時、気合入れすぎて教室のエアコン爆発させちゃって」
「知ってるわよ。
あんたの呪力は繊細さがマイナス。
でも、圧倒的な『吸引力』だけは国宝級」
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カナが指示したのは、舞台の最先端。
地上から13メートルの断崖絶壁だ。
「いい?アキト。阿倍野家の禁忌、『因果逆転・大龍軸』
……別名、『大気排熱強制同期』。できる?」
「……名前長ぇわ! 了解、要は『全力バキューム』だな!
任せとけ、得意中の得意だ!」
アキトが舞台の端に立つ。
眼下には、遥か下の地面。
観光客がスマホを向けてこちらを撮影している。
「……これ、絵面がヤバくないか」
「いいから早く」
「……分かった! 行くぞ!!」
アキトが、喉が枯れるほどの声で叫ぶ。
「——おなしゃす! 冷えてください! マジで!!」
瞬間、清水寺の地下から
「ゴォォォォォ!」という大型旅客機が離陸するような爆音が響いた。
「……吸い出してる!
因果逆転・大龍軸、1000年ぶりに見たけどやっぱり凄いわね。」
カナの目が見開かれる。
熱風がアキトの体を通り抜け、一気に夜空へと放出された。
清水寺を包んでいた異常な熱が消え、
心地よい秋の夜風が吹き抜ける。
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「……ふぅ。……腰にくるんですよね、これ。
怜さん、これ労災下りますか」
無線から、怜のやる気のない声が響いた。
「下りるわけないだろ。
むしろ舞台の木組みを1ミリ歪ませた修理代、
お前の給料から天引きだ」
「……マジか」
その時、隣でカナが——
「……ふふっ」
「え」
アキトは思わず振り返った。
カナが、口元を押さえて笑っている。
計算外の、小さな笑い声だった。
「……何笑ってるんですか」
「別に。……あんたの人生、楽しそうねって思っただけよ」
アキトは、その笑顔を見て——なぜか、少しだけ耳が熱くなった。
「……あ、そういえば。今日、兄貴が静かだな」
アキトは思いっきり背伸びをして
——腰を痛めた。「……っ、いたた」
「……ほら、言わんこっちゃない」
カナが呆れながらも、帰り道にアキトの湿布を買ってくれた。
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カナが笑った。
たった一度。小さく、静かに。
——でも、アキトにはやけに大きく聞こえた。
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