第三話 貴船神社ーデジタルな雨
貴船神社、奥宮。
そこには、物理法則を無視した「デジタルな雨」が降っていた。
雨粒のひとつひとつが、空中で
「Error 404」や「Access Denied」という文字の形に変質し、
アキトの肩にペチペチと当たっている。
「……痛い。カナさん、これ地味に角が当たって痛いんですけど。
文字の雨って何ですか、最新のアート作品?」
アキトは、阿倍野家の家紋が入った
「高級なビニール傘」を差していた。
兄の晴臣が「チビちゃん、濡れると知能指数が下がるよ」
という余計な付箋と共に送りつけてきたやつだ。
カナは傘も差さずに、タブレットを高速で叩いている。
彼女の周囲だけ、雨粒が避けるように蒸発していた。
「アートじゃないわ。
5G電波と天平式ファイアウォールが干渉してるの。
このまま降り続けると、この世界の電子機器が天平仕様になるわ」
「天平仕様?? インターネット使えなくなる?」
「使えない」
カナは淡々と言った。
「待って、まだ今期の深夜アニメ、半分も消化してない!!」
「だったら急ぎなさい。
いい、アキト。その石碑に手を当てて。
阿倍野秘伝、深層瞑想術……『虚空蔵・全次元思考同期』を起動して。
この怒り狂ったOSをなだめてちょうだい。」
「……名前、盛りすぎ。
要は『脳内ハッキング』だろ? 了解、やってみる。」
あの石碑に手を当てて、システムの深層に潜り込むの。
この怒り狂ったOSをなだめてちょうだい」
「……なだめる? 殴るじゃなくて?」
「今回は殴ったらダメよ」
「……難易度上がってないか、それ」
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アキトは、不気味に青白く光る「水吹石」に手を置いた。
瞬間、視界が真っ白になり、
脳内に巨大な「龍」の姿が浮かんだ。
1300年間、孤独に、冷たい水の中で
この国のインフラを回し続けてきた、天平OSの意志——。
『……待テ……認証者……不純物……排除……』
「……不純物? 俺と一緒じゃないか」
アキトは実家の図書室で一人、兄の完璧な背中を見上げながら
「自分は何のためにここにいるんだろう」と考えていた頃を思い出した。
「……分かるよ。誰とも同期できないの、キツいよな。
俺が、アンタのそのデカすぎるログ、全部受け止めてやるよ。
出来損ない同士、仲良くやろうぜ」
アキトは無意識に、脳内の「龍」の頭を撫でるイメージを持った。
瞬間——アキトの体から、黄金色の霊素が溢れ出し、
冷徹な青いエラーログを包み込んだ。
「……っ!? システムの負荷が急速に低下してる……?
論理じゃなく、感情の『流し込み』の方が優先だったっていうの……?」
カナが驚愕の表情でアキトを見る。
文字の雨は、いつの間にか
しっとりとした心地よい霧雨に変わっていた。
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「……なんか、あいつ結構いい奴でしたよ」
アキトは鼻の下をこすりながら、少し照れくさそうに笑った。
「あ、でも——なんか『腹減った』って言ってる気がする。
龍って、何食うんですかね?」
「……計算外ね。
でも、その『計算外』が、今は必要なのかもしれないわ」
その時、アキトのスマホに通知が届いた。
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差出人:阿倍野 晴臣(兄)
『チビちゃん、龍と仲良くなったみたいだね。
お祝いで高級和牛を10kg送っておいたよ。
龍に食べさせてあげて。
……あ、君は食べちゃダメだよ、太るからね』
「……どこから見てんだよ!!
あと俺も食いたいんだが!!」
貴船の静寂に、アキトの叫びが響き渡った。
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落ちこぼれエンジニアと、孤独な古代OS。
その「同期」は、確実に深まっていた。
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本日、第3話まで投稿します。
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