第二話 千本鳥居ー天平アンテナ
伏見稲荷大社。千本鳥居。
ここ一週間、
千本鳥居に入ると、同じところをループしてしまうという
観光客の迷子が続出——という通報が殺到し
アキトの部署に依頼が来た。
現場に着いたアキトも、早速迷っていた。
「……またここだ。これで4回目。
この石、さっきも見た」
朱塗りの鳥居が、どこまでも続いている。
Googleマップには「現在地:異次元」と表示されている。
「……かしこみ〜、かしこみ〜」
やる気なさそうに印を結んだその時、
背後から「フッ」という鼻で笑う音がした。
「今の祝詞、パケットロスが酷すぎるわ。
『稲荷』のイントネーションが全然ダメ。
神様が聞き取れなくて困惑してるわよ」
振り返ると、白いシャツにジーンズ姿のカナが立っていた。
手元の端末を凝視したままだ。
「……祝詞の訛りまでチェックしないでくれ。
これでも大学の陰陽学部、卒業してるんだ。」
「卒業できたのが奇跡ね。
あんたの呪力は出力だけは国宝級なのに、周波数が壊滅的にズレてる。
……1300年前の古いラジオに、
最新の爆音ヘビメタを流し込んでるようなものね」
「ヘビメタって。……そんなにうるさい?」
「うるさいどころか、この一帯の龍脈が
あんたの力に耐えきれず、フリーズしてるわ」
カナは観光ルートとは違う道を歩き出した。
「ついてきて。本物を見せてあげる」
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案内されたのは、観光客が誰も見向きもしない、
苔むした岩の前だった。
カナが岩に手を置き、不思議な言葉を唱えると、
岩が静かに開き、地下への階段が現れた。
「……なんだ、これ!?」
「地上の鳥居はただのガワよ。
本物は、この下にある『天平アンテナ』——
通称、地下の千本鳥居よ」
階段を降りると、そこには
地上のものより遥かに古い重厚な朱色の「アンテナ」が
整然と、それでいて不気味に並んでいた。
「……これが、本物……」
「そう。1300年前に組み上げた、日本を守るための物理基盤。
今、第44セクターの鳥居が蓄積された怨念で熱暴走を起こしてる。
……ほら、あそこ」
カナが指差す先で、数本の鳥居が黒い霧を吹き出し、
激しく火花を散らしていた。
「あれが原因で、地上の参拝客の『運気』が迷子になってるの。
アキト、あそこに飛び込んでちょうだい。
阿倍野家秘伝「因果消滅拳」で『再起動』させる必要があるのよ」
「えっ、因果消滅拳?あれ使うの?
あれ使うと、あちこち痛くて嫌なんですけど。」
「あんたの霊素は出力が強すぎるから、
因果消滅拳一段階で、大丈夫! はい、行って!」
「……え、一段階?それ……」
「行って」
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アキトは覚悟を決め、
黒い霧が渦巻く鳥居の真ん中へ飛び込んだ。
1300年分の怨念の蓄積が、アキトの精神に流れ込もうとする。
——重い。冷たい。暗い。
下手すると、こっちが飲み込まれそうだ。
だが、アキトはそれを力任せに押し返した。
「——うるせぇ!
俺の出力に、論理なんて求めてんじゃねぇぇ!!」
アキトが地面に因果消滅拳を叩きつけると、
黄金の波紋が地下神殿を駆け抜け、黒い霧を一瞬で消し飛ばした。
アキトは少しめまいがして、寿命が3日縮んだような気がした。
この技、一段階でもダメージ大きいんですけど。
とアキトは思った。
鳥居は本来の静かな朱色を取り戻し、
システム全体の脈動が安定していく。
「……はぁ、はぁ……。どう?」
「……ええ。及第点よ。
ただ、出力が強力すぎて
稲荷山全体のWi-Fi速度が3倍になっちゃったけど」
「それ、怒られない?」
「怒られるわね」
カナが呆れたように笑ったその時、
アキトのスマホが「通知の嵐」で爆発しそうになった。
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差出人:**阿倍野 晴臣(兄)**
『やあ、チビちゃん!
地下での活躍、衛星から観測していたよ!
今日は頑張ったね!因果消滅拳、上手になったじゃないか。 by兄』
『チビちゃん! 返事は? by兄』
『チビちゃん? by兄』
『チビちゃん!! by兄』
「……同じメッセージを何回送ってくんだ!!
こっちはさっき、死にそうだったんだ!」
アキトの叫びが、地下の千本鳥居にこだました。
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名門の落ちこぼれ。制御ゼロ。出力だけは、国宝級。
——今日も京都は、なんとか無事だった。
こんな感じはどうでしょう?
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本日、第3話まで投稿します。
最後まで楽しんで頂けると嬉しいです☆




