第一話 祝詞はコピペで十分です(嘘です)
阿倍野アキト。
名門・阿倍野家の次男坊。
本来なら、本部のエリートコース一直線の血筋だ。
問題は、大学の成績が**下から2番目**だったことである。
呪法の精密さ? ゼロ。
術式の制御力? 論外。
ただひとつ、「出力」だけが——
**国宝級。**
燃費は最悪。
けど、その力だけは、
本部のエリート連中が束になっても敵わない。
20××年。
陰陽師は、国家公務員だ。
残業代は「霊的手当」という名目でごまかされる。
現場は基本ワンオペ。有給は存在しない。
陰陽師の現場担当は、かなりブラックだ。
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「……えー、本日の業務報告。
京都駅北口の空間バグですが、
祝詞を3回コピペして流しておきました。以上っす」
会議室が、凍りついた。
「アキトくん」
上司の橘怜が、
空のコーヒーカップを弄びながら口を開く。
「神様への誠意のビットレートが低すぎるんじゃない?」
「Wi-Fiが弱いのは、その神様の問題じゃないっすか」
「黙って現場行って」
「はい」
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京都駅。
観光客でごった返す駅構内に、アキトは立っていた。
SNSでは「京都駅が迷宮になってる」と大騒ぎだ。
中央口から出ようとすると、なぜか北口に戻される。
Googleマップが「現在地:不明」を叩き出しているらしい。
「よっしゃ。一礼、二礼、パンパンっと。
後はこの壁をぶん殴るだけだ」
印を結び、霊力を拳に溜める。
「よーし——!!」
「ストップ。死にたいの?」
冷水をぶっかけられたかと思った。
振り返ると、グレーのつなぎにキャップ
手にモップを持った女性が立っている。
清掃員の格好だ。
だが、その目が——鋭すぎる。
「……え、なんだよ?!急に。」
「触ったら死ぬから」
「は?」
「龍脈が熱暴走を起こしてる。
不用意に干渉すれば、霊的な火傷じゃ済まない。
あなたの全出力が逆流して、京都駅ごと吹き飛ぶわね」
「……駅ごと!?」
女性はポケットから端末を取り出した。
画面には、アキトが見たことのないような
数値とグラフが並んでいる。
「原因は若草山の地下サーバーの熱暴走。
龍脈を逆流して、このエッジ端末——京都駅に流れ込んでる」
「えっ?」
「天平時代に構築された、日本管理用OS。
知らなかったなんて言わないわよね?」
「……マジで初耳です。」
女性の眉が、わずかに動いた。
「そう。……ついてきて」
「っていうか、誰?」
「カナ。……怜から連絡があったの。
『規格外の出力を持つバカが現場に来る、
死なないように見張ってやってくれ』って」
「……バカって言った? 怜さん、陰でそんなこと言ってんのか」
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案内されたのは「関係者以外立入禁止」の扉の先。
「やり方は簡単。
鎮熱の祝詞を唱えながら、霊力を溜めた拳でこの壁を叩く。
タイミングは私が指示するわ。あなたはただ——ぶちこめばいい」
「それなら任せろ。得意中の得意だ」
「知ってる」
カナの「今よ」という声とともに、アキトは壁を叩いた。
**ドォォォォン!!**
光が溢れ、熱が引いていく。
一瞬、熱にのまれそうになった。
しばらくすると画面上の屈曲したラインが
ゆっくりと正常値へ戻る。
「……私があなたに声をかけた理由、分かる?」
「怜さんに頼まれたから……じゃ?」
「それだけじゃない。——さっきあなたが壁に触れようとした瞬間、
システムログに**管理者権限の反応**が出たの。
**1300年ぶりに。**」
アキトは、自分の掌を見た。
「九十日後に『京都全域のインフラ停止』が来る。
それを回避するには、あなたのその手が必要よ」
……俺に何をしろと?」
「それを、これから教えるわ。
次の現場は怜に伝えてある。よろしく」
言い残して、カナは雑踏の中に消えた。
「……ちょ、待てよ!おい!」
アキトの叫びは、京都駅の喧騒に吸い込まれた。
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その夜、アキトのスマホに一件の通知が届いた。
差出人:阿倍野 晴臣(兄)
『やあ、チビちゃん。
京都駅での活躍、衛星から観測していたよ。
管理者権限の反応、僕には一度も出たことがないね。
……興味深い。 by兄』
「どこから見てんだよ!バカ兄貴!」
残り、九十日。
名門の落ちこぼれ。制御ゼロ。出力だけは、国宝級。
そして——1300年間、誰も持たなかった「管理者権限」の持ち主。
これは、最弱の天才が京都を救うまでの、90日間の記録である。
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本日、第3話まで投稿します。
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