第7話:次の街へー監視と、はじまりの旅
翌朝、スミとアルは部族の一行とともに、次の街へ向けて出発した。
ただの同行ではない。
護衛でも、客人でもない。
もっと正確に言えば――「監視対象」だった。
前にも、後ろにも、左右にも、砂漠の戦士がつく。
一挙一動を逃さぬ距離で、常に視線が突き刺さってくる。
アルは苦笑して、ぼそりと呟いた。
「……完全に信用されてる、って感じではないですね」
「当然だ」
スミは短く言った。
「お前は“鍵”である前に、“異物”でもある」
アルは肩をすくめ、砂を踏みしめながら慣れない手綱を見よう見真似で馬と共に歩く。
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この砂の民の生活に対して、最初に違和感を覚えたのは、祈りの回数だった。
一日に、五度。
太陽の位置に合わせて、一行は移動を止め、砂の上に布を敷く。
そして、全員が同じ方向を向き、静かに頭を垂れる。
アルは最初、戸惑った。
だが、誰も彼に参加を強要しなかった。
輪の外に座り、ただ見ていることを許された。
「……ラミア教、という」
スミがぽつりと教えてくれた。
「天と砂と、命の流れを敬う教えだ。
祈りは“願う”ためではない。
――“思い出す”ためにある」
「思い出す……?」
「人が何に生かされているかを、だ」
祈る戦士たちの背中は、不思議なほど静かだった。
戦場で見せる鋭さとは別の、
深く、穏やかな時間がそこに流れていた。
アルはそれを「宗教」というより、
呼吸のような習慣なのだと感じた。
生きることと、祈ることが、地続きになっている。
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旅の途中、アルは馬の乗り方を叩き込まれた。
「手綱を引くな。“頼め”」
教えたのは、あの族長に反対の声をあげた筋骨隆々の戦士――ハサンだった。
「馬は命だ。引く相手じゃない。我らと一緒に走る 相手だ」
言葉少ない分、指導は容赦なかった。
だが、その動きには、荒さよりも誠実さがあった。
夜になると、食事の時間が来る。
地面に布が敷かれ、
その上に大皿が置かれ、
人々は自然に輪を作った。
香辛料の香り。
炊き込みの米。
骨付き肉と豆。
アルは一瞬、手を出すのをためらう。
「……ええと、フォークとか……」
そんなものは、もちろんない。
スミは何も言わず、手で米をまとめる仕草を見せた。そしてそれに続いて部族の他のメンバーも手を使って食べ始めた。
アルは見よう見まねで真似をする。
だがうまくいかず、
米粒が指の隙間からこぼれ落ちていった。
それを見て、誰かが吹き出す。
やがて、あちこちから小さな笑いが漏れた。
張り詰めていた空気が、少しだけほどける。
アルは照れくさそうに頭をかきながら、
また米をすくった。
味は、素朴で、力強かった。
――生きるための食事。
その意味が、舌ではなく、身体に沁み込んでくるのを感じた。生命の営みを肌で感じたような気がした。
「これが命か。」とアルは誰にも聞こえないような声で呟いた。
「プッ。命ってなんだよ。おい、みんな。この街人 おもしろいぞ。俺らは耳がいい。発言にはよく注意 することだ。」
と1人の男が笑いながらアルに言った。
「お恥ずかしい。ええ、次から気をつけます。」
少し張り詰めた雰囲気が変わった、そんな気がアルはした。
(少しは、馴染めてるかな...?)
その日は日が沈んでもなお、砂漠の真ん中にぽつんと光る人の営みの光は消えずにいた。
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今回はラミア族の文化を描写してみました。なかなかどのように表現したらいいか悩みましたが、自分なりにできたと思います。
アルは異文化を肌で感じているはずです。もう一話ほど文化や生活の後、話を加速させていきます!
応援のほどよろしくお願いします!




