39.黒きモノ
またアマリリスの視界にさえ入れてもらえない日々が続き、明日は真っ黒な魔物が出てくる授業がある日になった。
アセビルートのイベントで、本格的な夏前のグロッケル(カエルの魔物)の討伐の授業中に、真っ黒で親分みたいに大きなカエルが現れて、アセビと協力して倒すというもの。
たぶん、カエルだから、これのはず……たぶん……
どのルートにも真っ黒な魔物が出てきたけど、本当に出てくるのかな? ゲームをしている時は、倒していい魔物を区別させるための演出くらいにしか思わなかったけど、現実に現れたら変な話だよね。真っ黒な魔物なんて異常だもんね。
「ねぇ、アサギ。真っ黒な魔物って存在するの?」
眠る前に「いないよねぇ」と思いながら、何気なく聞いてみた。
『いるぞ。我ら白きモノと対極の存在だな』
予想していた答えの真逆の返事に耳を疑い、勢いよく体を起こした。そして、枕元で寝ようとしていたアサギの体を揺らす。
「いるの!?」
『いると言っている』
「そ、それって悪い魔物なの?」
眉間に皺を寄せながら首を傾げられた。わたしは何かおかしなことを言ってしまったらしい。
『魔物に善いも悪いもあらぬだろ』
「あるよ、ある。襲ってくるか、こないか重要だよ」
『そんなもの、人間が先に襲ったか、住処を荒らしたかだ。基本、魔物は人間を襲わん』
「じゃあさ、作物を食べられたら困るから追い払ったりするのはどうなの?」
確かゲームでは、そんな理由だったはず。明日のカエルも、田畑に水を引っぱってきている湖に大量発生するから、田畑を荒らされる前に討伐するんだもん。
『なんだ、その具体例は? 我らは基本食事をせぬ。作物を食べたりせぬ』
「あれ? そういえば、いや、でもさ、アサギ達白きモノはそうでも、普通の魔物は? 動物を食べたり木の実を食べたりしないの?」
『せんと言ってるだろ。魔物は生まれた時が1番魔力が高い。その魔力を使って成長し、徐々に老いていく。内包されている魔力が無くなれば死ぬ。それよりも早く死んだ者や、かすかに残ってしまう魔力だけ、我らに流れてくる。それだけだ』
アサギが言うからそれが正しいんだろうけど、ゲームと違いすぎて「なんで?」ってなっちゃうな。
あ、これって……わたしこそ、ゲームに縛られているのかも。だから、アマリリスにわたしの声が届かないのかもな。
ダメだダメだ。わたしは間違いなくここで生きて、わたしの意思で動いているんだから。ゲームを気にしてばかりではダメだ。最高の相棒であるアサギを信じなくてどうする。
「魔物って、どうやって生まれるの?」
『我ら白きモノ達が吸いきれなかった魔力が溜まり、魔物を生み出す。我もだが、魔物は魔力の塊だ。他の生き物とは何もかも異なる』
「分かるような分からないような」
『なぜ分からぬ』
謎しかないからだよ。目に見えない魔力が集まったら、触れられる魔物に変化するなんて言われて、「そうなんだ。魔力ってすごいね」って腑に落ちるわけないよね? 意味分かりませんってなるよね?
さっきアサギのことは全面的に信じるって決めた所だけど、それとこれとは別だよ。
「じゃあさ、次世代の白きモノは、どうやって誕生するの? それも魔力の塊からなの?」
『当代の白きモノが産み、育てる。そして、限界が近付くと知識を譲り渡す。それだけのことよ』
「え? アサギも産めるってこと?」
『さっきからなぜ聞き返す? そう言っているだろ』
「初めて聞くことばかりで、びっくりしたの。わたしが生きている間は産まないよね? わたしより先に居なくならないよね?」
『ならん。我はまだ700年は自由気ままに生きる』
「よかったー。アサギを看取らないといけないとか無理だもん。わたし、泣きすぎて干からびちゃう」
アサギの尻尾を撫でると、いつもは尻尾で指を叩かれるが、今は素直に撫でさせてくれている。満更でもなさそうに頬を緩ませている姿が可愛い。
「話戻るけど、黒い魔物はどうやって生まれるの?」
『黒きモノは、死を受け入れられぬ者達だ』
「どういうこと?」
『魔物は魔力が無くなると死ぬ。これは自然界の摂理だ。抗うことはしてはならぬ。しかし、まだ生きたい、死にたくないと願うモノもいる。最後まで死に抵抗したモノが黒きモノに堕ちてしまう。バカな奴等だ』
「アサギはさっき、白きモノの対極に黒きモノがいるって言ったよね? それはどうしてなの?」
『黒きモノ達に魔力はあらぬ。あれは、魔物の形を維持している強き想いなだけだ。まぁ、だから、我ら白きモノの魔力が羨ましくて妬ましいのだろうな。我らは次代を産むまで魔力を補い、生き続けられるからな』
ん? それってさ、ゲームでフリージアが居る所に現れていたのって、白狼と一緒に行動していたからってこと?
どのルートよりも先にアセビルートに登場するのって、白蛇も一緒だったからってこと? マジで言ってる? 本当に?
あれ? でも、確かイキシアルートでは、唯一人間を襲う黒きモノを倒すんだよね。矛盾しない?
うん。これはゲームに縛られているんじゃなくて、どうしてゲームではっていう疑問が拭えなくて仕方なくてだから。相違点がはっきり分かれば、今以上にゲームと違う展開に持っていけて、アマリリスと普通に話せるようになれるかもしれないでしょ。
「黒きモノは人間を襲わないの?」
『小娘くらい魔力が多ければ狙われるかもな。だが、魔力が少ない人間を襲うことはせんだろう』
「それって、黒きモノに魔力をあげたら、普通の魔物に戻ったりしないの?」
『戻れぬ。瞳の色が抜け落ちているまでなら可能だろうが、黒きモノに“堕ちて”しまったら無理だな』
「ん? 瞳の色……ねぇ、アサギ。こんなことがあったんだけどさ」
機嫌よく教えてくれている間に、気になったことは全部聞いてしまおうと、今引っかかった大人白狼と出会った時のことをアサギに話した。もしかして、あの白狼は、瞳の色が抜け落ちていた状態だったのかもと……
『白狼は何をしておるのだ』
呆れたように息を吐き出し、冷めた瞳をするアサギは、白狼を軽蔑しているように見える。
『小娘、よくやった。白きモノが黒きモノに堕ちてしまった場合、国1つくらいは滅びるだろう。もしそうなっていたら、小娘は我に会えておらず、我もまたシフォンケーキを食べられておらぬ。面白い発見をできぬところだった』
ねぇ、アサギ。たぶん照れ隠しだと思うんだけどね。そこはアサギもわたしに会えなかったでいいと思うのよ。そうしたら、アサギに抱きついて喜んだよ。
泣いている心に気付かないふりをして、新たな疑問を聞くね。
「黒きモノは魔力がないんでしょ? 暴れるだけで国を滅ぼせられるの?」
『奴らは暴れているわけではなく、強い魔力を目指すだけだ。強い魔力は白きモノの目印だからな。だから、基本白きモノが黒きモノを葬るんだ』
「進むだけで、色んな物が壊れて、人が死ぬの?」
『建物は壊れぬ。生命が消えるんだ。奴らが通った道の生き物は消えるんだ。人間は呑気に、山に新しい道ができているとか思っているのかもな』
怖いんだけど……ブラックホールみたいなって、あれは建物も無くなっちゃうだっけ?
「黒きモノは生きたいあまり、他の命を取り込もうとしちゃうんだね」
『命というより魔力だな。わずかな魔力にも縋ってしまうんだ。取り込めんのに、悲しいことよ』
目を伏せるアサギの頭を撫でると、アサギは小さく鼻で笑った。そして、軽く手を払い除けられた。わたしにカッコいい姿以外は見せたくないらしい。
可愛すぎて突つくと、尻尾で叩かれる。それもまた愛らしい。
「白きモノが黒きモノに堕ちたら、どうして被害が大きくなるの? 元々が強いから?」
『小娘は知能が足りておらぬな』
「ひどい」
『本当のことよ。白きモノ達は点在している。他の白きモノを目指すと、自ずと大移動になってしまう』
……ひどいって抗議したことさえ、バカ丸出しだった。白きモノは種族の頂点。数が少なくて当たり前だ。縄張りもあるはずだ。ちょっと考えれば分かることだったね。
「ねぇ、アサギ。この話って、みんなに話してもいいこと?」
『魔物なら知っていることだ。問題あらぬ』
「分かった。たくさん教えてくれてありがとう」
アサギを撫でてから寝転んだ。アサギも眠る体勢に入っている。
明日黒きモノが現れたら、アセビに話してみよう。ピエリスも説明に加わってくれるだろうし、アセビならすぐに理解してくれるはず。
だって、アサギとピエリス目がけて来るはずだもんね。白きモノが2匹いるんだから、他に向かって行かないはず。
誰も怪我しない。きっと大丈夫。
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