40.グロッケルの討伐へ
「昨日説明をした通り、今日はグロッケルの討伐だ。嫌なら欠席しろよ。補填としてグロッケルに関する筆記試験をする。試験は討伐に行っている間に行われるから教室にて待機だ。討伐に行く者は校庭に集合するように」
シオン先生がそう言ってHRを終わらせ、教室から出ていく。
「フリージア、マジで討伐に参加すんの?」
「うん、わたしにはアサギがいてくれるからね。何も心配せずに魔法の練習ができるでしょ」
渋い顔をしているガーベラに笑いそうになる。
「ガーベラは筆記試験にしたらいいよ。カエル、苦手なんだよね?」
「苦手や……苦手やけど、みんな行くのに、うちだけ教室で試験なんて嫌や」
「浅い気持ちで、苦手なカエルを選ぶと後悔するぞ」
「浅ないわ。うちも外で遊びたいんや」
「遊びじゃないだろ」
ガーベラとツワブキの言い合いに苦笑いをしながら、アセビと肩をすくめ合った。
「移動しよう」
アセビと同時に席を立つと、ツワブキはわたし達に続くように平然と、ガーベラは肩を落としながら腰を上げている。
教室内、移動しようとしているのは男子ばかりだ。女子の参加は、わたしとガーベラくらいだろう。
そう思っていたのに、アマリリスと青い顔をしたカルミアも、イキシア殿下達と一緒に教室を出て行こうとしていた。
「え?」
つい漏れてしまった声に、アセビがわたしの視線の先を確認した後、呆れたように息を吐き出した。
「アマリリス嬢は責任感からだろうけど、カルミア嬢は親に言われているのかもね」
教室内ではクラスメートが聞き耳を立てている可能性が高いので、何も返せない。「そうなんだ」と興味なさげに答えるしかない。
ガーベラみたいに嫌々ながらも自分の意志で選ぶのなら、何かあった時は自分を恨めばいいだけだけど、カルミアみたいに親から「未来の王妃と行動を共にする」って強制させられている場合、後悔や怒りはどこに向かうんだろうな。
でも、カルミアは相当アマリリスのことを好きなように感じるから、アマリリスを守ろうとして行くことを決めたのかも。苦手だろうカエル相手に尊敬するわ。
校庭に集まった生徒達はいくつかのグループに分けられ、バスのように大きな空飛ぶ馬車でそれぞれ出発する。
もちろんSクラスが担当する区域は、どこよりもカエルが発生している場所になる。
ただし、1番過酷なエリアは上級生が対応してくれるので、Sクラスといえど、1年生はそこそこ大変な場所、1年生の中ではしんどい場所ということになる。だから、そこまで肩肘張らなくていいはずだった。
「無理や! うち、学園に帰る! 外によう出らん!」
ガーベラの悲鳴に近い言葉に、馬車内のほとんど生徒が頷いたことだろう。
目的地上空を飛んでいた時に、「なんか蠢いてない?」と思ったことは正しかった。湖が見えないほど、辺り一面にびっちりとカエルが飛び跳ねている。
1匹の大きさはブロッコリー1株くらい。サラダとかシチューに入っている1房の大きさじゃないよ。野菜コーナーで売っている1株の大きさの方ね。頬が引き攣りそうなその大きさで、カエルらしくヌメヌメと光っている。
これは……ドアを開けた瞬間、カエル達は馬車内に雪崩れ込んでくる。
そう誰もが同じ想像をしたはずだ。だって、もう馬車を覆い隠そうとしているのだから。
「い、行きます」
「お待ちください! アマリリス様!」
「し、しかし、私達は討伐に来たのです。このまま馬車の中に居ては、討伐できませんわ」
アマリリスの声は震えている。顔色も悪い。それなのに気丈に振る舞おうとしている。あっぱれだ。
深呼吸してドアを開けようとしたアマリリスの手を、イキシア殿下が掴んだ。
「アマリリス、落ち着いて。まずはシオン先生の指示を仰ごう。御者台に乗っていたんだ。きっと指示をくれるよ。それに、今シオン先生が少なくしてくれている可能性も高いしね」
「そ、うですわね……きっと大丈夫なはずですわ」
アマリリスの返事に引っ掛かりを覚えたのは、わたしだけじゃないはずだ。アマリリスは動揺しすぎて返事を間違えた。
わたしはすぐにその言葉の意味に辿り着けたけど、きっとイキシア殿下は今必死に考えを巡らせていることだろう。
アマリリスは今日黒いカエルが現れることを聞いて、イベントを起こさせないために、自分が倒そうと思っていたはずだ。
でも、この状況では叶わなくなった。
シオン先生の安全を願ってのことか、ゲーム通りにシナリオは動かないと自分に言い聞かせたのか、どちらだろう。
『ん? 小娘、外に出ろ。さもなくば死ぬぞ』
アサギが言い終わるくらいに、イクシャからもピエリスからも似たような言葉が聞こえてきた。
「みんな! 外に出るんだ!」
イキシア殿下が大声を上げ、勢いよく馬車のドアを開けた瞬間、イクシャが口から炎を吐いた。入ってこようとしていたカエル達は、蒸発して消えている。
「早く! 今のうちに外に出るよ!」
「ほら! 急いで!」
アセビもみんなを誘導する方にまわり、クラスメート達は水が放出されたように勢いよく馬車の外に出て行く。
出て行った人達から小さな悲鳴が聞こえてくるが、討伐に来ているんだから、各々頑張るしかない。
シオン先生の「怖がるな! 火魔法だ! 使え!」という声が聞こえてきた。無事なようでよかった。
「もう! 気持ち悪い奴ら、全部うちが消しクズにしちゃるわ!」
「俺から出る。後に続けばいい」
ガーベラがコントみたいにツワブキに「どうぞどうぞ」としていたが、アセビに「遊んでいる場合じゃないんだよ」と2人一緒に外に押し出されていた。
「フリージアも早く!」
「うん、分かっ——
「カルミア! 動け!」
クフェアの怒鳴り声に後ろを振り返ると、カルミアが泣きながら腰を落としている。イクシャが少なくしてくれたとはいえ、ドア向こうにはカエルが所狭しと跳んでいる。きっと恐怖で腰が抜けてしまったんだろう。小刻みに震えている。
「クフェア! カルミア嬢を抱きかかえて出るんだ!」
「あーもー! このバカ!」
アセビの大声の提案に、クフェアは苛立ちを隠さず怒鳴りながらカルミアを抱き上げ、馬車の外に飛び出した。ローダンセが続けて出て行ったので、援護してくれるはずだ。大丈夫だろう。
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