38.友達になりませんか?
ああ、胃が重い。でも、黙っているままにしておくなんてできない。あんなことになるなんて、この世界はわたしとアマリリスを交流させたくて仕方がないんじゃないかって思う。
「ディセルファセカ公爵令嬢様、少しお時間をいただくことは可能でしょうか?」
まさかわたしから話しかけられるなんて思わないから、キョトンとしちゃうよね。
「アマリリス様にどのようなご用事かしら?」
カルミアに厳しめに問われて、心が折れそうだ。
わたしだって好きで話しかけたんじゃない。だから、「平民が気安く声をかけないで」って顔をしないで。睨まないで。
周りの「白竜を呼び寄せたからって調子に乗るな」みたいな視線も痛いんだから。血を吐いちゃいそうだよ。
「カルミア嬢、フリージアはアマリリス嬢に用事があるんだよ。君にじゃないよ。私としては放っておけばいいと思うんだけどね」
わたし1人では後光が差している軍団に声をかけられないと思って、アセビにも来てもらったけど逆効果だったかもしれない。
アセビとカルミアって仲悪かったの? 一緒に行動していたんだよね? 仲良くないの?
「ん? それは昨日の、あの話のことですか?」
やめて、ローダンセ。わたしはひっそりと会話を終わらせたいの。
「そうだよ。フリージアがアマリリス嬢だけには話したいって言うんだよ」
「昨日? 何かあったのか?」
やめてやめて。クフェアまで会話に加わってこないで。
みんな、参加しなくていい。わたしは、アマリリスにフヨウのことを伝えたいだけ。話を大きくしないで。
「ええ。昨日、アセビとフリージアさんを我が家に招待したんです。その時に少し、アマリリス嬢に関係のある話で盛り上がったんです」
そうなの。ここでは濁すしかないの。だから、アマリリスだけを連れ出したいの。
だったら、放課後にって思うでしょ。でもね、アマリリスは、イキシア殿下とすぐにクラスから居なくなるの。だから、普通の休み時間しかないの。
「アマリリス様のことでしたら、私も聞いておきたいですわ」
「カルミア嬢。いつから君は、アマリリス嬢の保護者になったの? みんなの前で話せることなら、フリージアだって、わざわざアマリリス嬢だけを誘わないよ」
もー、微笑みながら睨み合わないでよ。普通に怖いから。ピリピリしないで。
「カルミアもアセビ様も落ち着いてください。フリージアさん、そのお話は放課後でもよろしいでしょうか?」
「はい、ディセルファセカ公爵令嬢様のご都合がよろしい時で大丈夫です」
「では、放課後にお話しましょう」
ありがとう、アマリリス。もしかしたらその笑顔は嘘かもしれないけど、嘘に見えないよ。完璧な微笑みだよ。
少し揉めたが、こうしてアマリリスと2人の時間を獲得したのだった。
そして、放課後……なぜかイキシア殿下も一緒に図書館に移動し、男の子達3人は放って、わたしはアマリリスと違う机で話すことにした。
アセビに「殿下なら問題ないでしょ」と言われたが、フヨウの気持ちを勝手にイキシア殿下本人に話すのは違う。明かしていい話じゃない。
アマリリスには、わたしが敵対していると思われたくないから仕方なくなのだ。恋心は、他人が簡単に話してはいけない。
「あなた、ご自身が置かれている状況を、今一度意識した方がよろしいですよ。皆、口にしないだけで噂は消えていませんのよ」
え? そうなの? 陛下の戯れだって分かって、興味が無くなったんじゃ……
あ! だから、カルミアが必要以上にピリピリしてたんだ! みんなの視線にも納得だよ!
「しかし、ディセルファセカ公爵令嬢様との接点がないので、どうしようもなくて……」
アマリリスを真似て、ディセルファセカ公爵邸前で待ち伏せとか無理だし。
「適当に理由をつけるのが難しいのでしたら、アセビ様にこそっと伝えてもらうようにすればよかったんです」
「あ、そっか。そうですね。わたしが直接じゃなくてもよかったんですね」
アマリリスに深く頷かれて、そんなことにも気付けなかったのかと、盛大に肩が落ちていく。
「それで、私に話したいこととは何ですか? ローダンセ様と恋仲になったとかなら怒りますよ」
「違います。絶対になりませんから」
あれ? 離れているとはいえ、見える位置にイキシア殿下達がいるからかな? 普通に会話ができてる。嬉しい。
「本当ですか? 侯爵邸に訪問している時点で疑わしいんですよ」
「昨日はコムラサキ侯爵様に招待されて伺ったんです。実はですね……」
コムラサキ侯爵邸訪問に至るまでのこと、昼食会での会話、そしてフヨウのことを包み隠さず話した。
刺繍に関して、アマリリスに話すことはアセビに伝えている。アセビは「アマリリス嬢になら話して大丈夫だよ。父も宰相も許すよ」と言ってくれた。
アマリリスに対しての信頼度がすごい。これは彼女が今まで頑張ってきたからこそ、勝ち得たものだ。
「フヨウ様がね。あなたは、そんなことを気にしたのですか?」
「そんなこと? え? ディセルファセカ公爵令嬢様にとっては、そんなことになるんですか?」
「なりますわ。今からフヨウ様がいくら頑張ったところで、私に勝つのは無理ですもの」
「え? え? え? じゃ、じゃ、本当にどうしてわたしには? え?」
ここまで自信があるなら、わたしだけを警戒しているって変じゃない? どれだけヒロインは恐ろしい存在だって言い聞かせられているの? だって、わたしどのルートも攻略してないよ。見ていて分かるよね?
「それは、その、あなたと私は色々と、その、色々とありますのよ。それよりも、本当にローダンセ様とは何もありませんのよね? コムラサキ侯爵から縁談の話もされていませんのよね?」
「ないです、ないです。アサギに誓ってありません」
「あなた、そこは神様じゃなくて?」
「いるかどうか分からない神様より、目の前に存在しているアサギの方が神々しいですので」
「ふっ、バカね」
アマリリスがわらっ、笑ってくれた! 可愛い! 初めてのことで、嬉しすぎて泣いてしまいそうだよ。
わたしがキラキラした瞳で見てしまったからか、アマリリスは恥ずかしそうに頬を染め、素気なく咳払いをした。
「話は終わりかしら?」
「ディセルファセカ公爵令嬢様、わたしと友達になってくれませんか?」
「あなた……何を……」
「友達になりませんか? 何を不安にされているのか分かりませんが、友達になって、わたしという人物を知ってもらって、打ち明けたいと思ったら打ち明けてください。わたし、きっと解決できると思うんです」
泣き出してしまいそうな顔で唇を噛んだアマリリスは、瞳を閉じて深呼吸をした。瞼を上げた時には、もう貴族令嬢特有の冷めた瞳に変わっていた。
「あなたと私はクラスメートです。クラスメートとして尊重はしますが、それ以上でもそれ以下でもありません。話が終わったんでしたら、私は失礼いたします」
「友達は無理だとしても、絶対に解決できると思うんです。ですので、何か困っているなら話してください。絶対ですよ」
立ち上がりかけたアマリリスに、追い縋るように声をかけた。
今アマリリスは無理矢理仮面を被り、泣かないように心を抑えつけた。学園が始まってずっとそう過ごしているのなら、絶対に苦しいはずだ。気を張り続けていて、しんどいはずだ。
わたしから打ち明けると、怖がって心を閉ざされ、アマリリスの近くにいる転生者に辿り着けない可能性が高い。だってアマリリスは、わたしよりも近くにいる転生者のことを信じるはずだ。だから、アマリリスから話してもらって、転生者との仲介役になってもらうしかない。
「あなたができることは1つだけです。イキシア様にも皆様にも近付かないでください。それだけです」
そう言い捨てたアマリリスは、背筋を伸ばし、イキシア殿下達が座っているテーブルに向かって歩いて行った。
仲良くなれそうで仲良くなれない。アマリリスの側にいる転生者が、壁となって立ちはだかっている。
向こうの転生者本人から接触してきてくれたらいいのにと、心の中でため息を吐き出したのだった。
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