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26.服がない

しばらくすると「遅くなってすまない」とシオン先生が現れて、生徒達の間を行ったり来たりしながら、魔物の様子を確認したり、生徒にアドバイスを送ったりしている。


わたし達の所にも来てくれ、ガーベラ・ツワブキ・アセビの魔物は頷きながら見ていたのに、アサギに対しては小さく頭を下げていた。


「お前達は相性に問題なさそうだな。何が欲しいとか、何がしたいとか、きちんと話し合うようにしろよ。聞けば教えてくれるし、言えば理解してくれるからな。後、何魔法が使えるかも教えてもらっておくように。忘れるなよ。それと、フリージア。急遽、今週末、王城にお呼ばれだ。陛下がもてなしたいそうだ」


聞き間違いだと思いたかったし、わたし以外に言ったんだと願いたかったが、シオン先生の瞳は真っ直ぐにわたしを捉えている。疑いようなく、わたしに言っている。やめてほしい。


「お呼ばれ? 王城って言いましたか?」


「言ったな。陛下が会いたいそうだ」


一縷の望みをかけて確認をしたのに、真顔でしっかりと頷かれてしまった。もう聞こえなかったことにはできない。いやだ。


「えっと、先生……それって、お断りすることは……」


「無理だな」


「うわー、どうしよう……」


「栄誉なことだろ」


どこが!? わたしが会ったことあるのは部長クラスまでで、社長クラスや総理大臣に会ったことなんてないよ。栄誉や光栄と思うのは、推しに誕生日ボイスをもらった時だけだよ。


いやいや、落ち着いて。お偉いさんに会いたくないのはもちろんだけど、それより大変なことがあるじゃない。


「……制服で行っていいんでしょうか?」


「そういうことか。制服でもいいが、可能ならワンピースとかの方がいいだろうな」


「ああああああ」


肩を落として丸まるように項垂れると、太ももの上にいるアサギに『苦しいぞ』と怒られた。「ごめんね」と謝りながら体を起こすが、頭だけは痛くて重たいせいで俯くように下がってしまう。


「どうした?」


「服がありません……」


普段着は、数少ない中から傷んでいない服を数着持ってきている。だとしても、王都の街遊びでさえ浮いてしまうかもしれない服だ。地方は流行りが届くのが遅いし、買ってもらったのは一昨年になる。


両親は学園に入る前に買おうと言ってくれたが、「この服が好きだから買わなくていいの」と断っていた。特待生で学校に行くだけなのだから、無理せず最低限の準備でいいと思ったのだ。


なぜなら、実家と学園の行き来には交通費がかかる。制服や文具関係は支給してもらえたけど、交通費の支給はなかった。きっと困ったことがないから、王都までの交通費がどれだけの痛手になるか分からないんだろう。帰省分は仕方がないとしても、入学時の田舎から出てくる分は出してほしかった。


それに、わたしの服を買うくらいなら、自分達の物を買ってほしいとも思った。膝掛け一枚、靴一足。何でもいいから、わたしのため以外に使ってほしい。


そんなわたしの気持ちを知ってか知らずか、両親は「王都はきっと楽しいわよ。珍しい物がたくさんあるわ」という手紙と、お小遣いを鞄に忍ばせてくれていた。


そういう両親が稼いだお金だからこそ、無駄に高い服にお金を使いたくない。


というか、たぶん王城に着ていけるような服を買うには足りないと思う。侘しいけど、それが現実だ。


「うちの服、貸したるよ。派手すぎて王城行けるような服ちゃうけど」


「妹の服は無理だな」


「私は姉も妹もいないんだよ。よかったら放課後買いに行こう。プレゼントするよ」


「みんなの気持ちだけ受け取っとく。ありがとう」


様子を見ていたシオン先生が、何てことないように言ってくる。


「気にしなくても、フリージアを平民だと知っていて呼んでいるんだ。普段着で行けばいい」


「先生は呼ばれていないから、そんな風に言えるんですよ。着古した服でなんて笑い者にされます」


「でも、ないんだろ。どうするんだ?」


「布を買って作ります」


「今週末だぞ」


念押しされなくても、時間がないことは分かっている。でも、他に方法が思い付かない。端切れを安く売ってもらって、持っている服をどうにかリメイクしたい。わたしならできるはずだ!


……できるよね?


顔を押し潰されたように目も口もきつく閉じると、シオン先生に盛大に息を吐き出された。


「ったく。俺の奥さんの服をやる。見た目が似てるから合うだろう」


「いただけませんよ!」


「もう着てない服を見繕うから気にすんな」


「で、でも!」


「気になるなら、そのうちシフォンケーキでも焼いてくれ。うちの奥さん、好きなんだよ」


「え? あ、はい。そんなことでいいなら、いつでも」


「よし。週末までには持って来てやる。ありがたく思えよ」


軽く微笑んで去っていくシオン先生の背中を見ながら、どうしてわたしの家がシフォンケーキを焼いて売っていると知っているんだろうと思った。しかも、奥さんが好きだと言う。


シフォンケーキは平民には珍しかったけど、貴族から注文が入った記憶はない。簡単に作れるスイーツだから、きっと貴族は食べていたはずだ。あえて平民の店から買わないだろう。


シオン先生とは個人的な話をしたことないけど、生徒の家のことだから普通に知っているとかかな?


というか、奥さんいるのね。指輪は、リアルに結婚指輪なのね。どういう攻略ルートだったんだろ?


「フリージア、作れるの?」


興味津々のアセビに問われ、妄想しそうだったシオン先生攻略ルートから意識が戻ってきた。


「シフォンケーキのこと? 作れるよ」


「私も食べたい」


「そんなん、うちも食べたいわ」


ツワブキは何も言わないが、熱望する視線が突き刺さってくる。


「分かった。先生の分を作る時に、みんなの分も作るよ」


「「やった」」


「先に焼き型や材料を買いに行かなくちゃね」


「それは私に用意させてよ。作ってもらうお礼だよ」


「うーん……じゃあ、お願いしようかな。ありがとう」


アセビって甘いもの好きなのかな? この間のお疲れ様会も、お菓子オンリーだったもんね。あんまりイメージになかったけど、そんなに満足気に微笑むほど食べたいんなら、頑張って美味しいシフォンケーキ作るよ。楽しみにしててね。






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