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25.激しく動く心臓

「やった! 君も小さくなれるんだね! 天才だよ!」


アセビの白い大蛇の縮小が成功したようで、アセビは腕に巻き付いている白蛇と、頬にキスをし合っている。その姿に注目していたクラスメート達も、使役した魔物がサイズ変更できるかどうか試しはじめた。


「うちの子は小さいから、このままでいい」


「俺も同じだ」


ガーベラのリスはガーベラの体を這い回っていて、ツワブキのモグラはツワブキの周りを走っている。一気に賑やかになった空間が嬉し楽しくて、ニヤける顔を元に戻せない。


アセビは白蛇を腕に巻いたまま、隣に座ってきた。


「白竜様、私はアセビと申します。以後、お見知り置きをお願いいたします」


アサギが小さく頷いて応えている姿に、ガーベラとツワブキも続いて自己紹介をしている。わたしもガーベラ達の使役魔物に挨拶をし、白竜に付けた名前を紹介した。


「受け入れてもらったん?」


「もちろん」


「良い名だもんね。私も、この子に合った名前を考えないと」


わたしは笑顔で肯首し、アセビは褒めてくれながらも白蛇に視線を向けている。


「うちも。どんな名前がいいんやろか?」


「難しいな」


「何個か候補を決めて、選んでもらったら? わたしはそうしたよ」


「いい考えやね。喜んでくれる名前付けたいもんな」


ガーベラのリスが「チュチュ(訳:うれしっちゅ)」と鳴いて、ガーベラの頬に擦り寄った。


癒し空間に心を和ませていると、突然肩に赤い小鳥が留まった。イキシア殿下が、慌てた様子で駆けてくる姿が見える。


『鳳凰、小娘の肩に留まるな。我の小娘ぞ』


『白竜はケチんぼほ。少しくらいいいほ』


やだ、なにもう、可愛いがすぎる。語尾も愛らしいけど、ミニ白竜とミニ鳳凰がわたしを取り合いしてくれるなんて、ここは天国かもしれない。よだれ垂らさないように、口を引き締めとかなきゃ。


「鳳凰、どうしたの?」


斜め上に、綺麗な人差し指が見えた。どうやら背中側に回り込んだイキシア殿下が、指に留まり直してほしいと、鳳凰に向かって人差し指を差し出したようだ。


鳳凰は小さく鳴いて、上機嫌でイキシア殿下の指に移動している。


斜め下から見上げても、イキシア殿下が鳳凰の頭を柔らかく撫でている姿は絵になる。


「イキシア様、鳳凰は無事でしたか?」


アマリリス、わたしを避けたいっぽいのに、よく来たね。


って、それもそうだよね。イキシア殿下とアセビがお喋りするのはいいけど、わたしとイキシア殿下が言葉を交わすのは嫌なんだから、そりゃ来るよね。


「ちょっと飛んでみたかったんじゃないかな」


「鳥ですものね。綺麗で可愛いですね」


見上げているのもしんどいなと姿勢を正そうとした時、アマリリスが微笑みながら鳳凰を撫でようとした。


アマリリスのその指を嘴で突いた鳳凰は、イキシア殿下の指から飛び立ち、わたしの太ももの上にある手首に留まってきた。


『馴れ馴れしく触ろうとしないでほ』


『うむ。小娘は我のものだが、今のは仕方あるまい。許そう』


一羽と一頭の会話を聞いて、もしかして使役魔物は許可がでないと触ってはいけないのかと、少し不安が過ぎった。


白狼を触ってしまったことは、犬と勘違いしてだから許してもらおう。そもそも嫌がっていなかったから、気にしなくていいのか。うん、そう思おう。


「私は嫌われているのかしら」


泣きそうな顔で頬に手を当てているアマリリスの顔を二度見しそうになったが、体に力を入れることで何とか堪えた。可愛いアサギと鳳凰を見て、気持ちを落ち着けよう。


わたしは「馴れ馴れしく」を許可が要ると解釈したが、アマリリスは仲良くないからと理解したのかもしれない。アサギの受け答えからするとと思わなくないが、はっきりと口に出していたわけではないから、受け取り方の違いは出てくる。


「鳳凰は人見知りなのかもしれないね」


「いつか撫でさせてもらえるように頑張りますわ」


イキシア殿下も、そっちで捉えていたのか。だったら、自分の解釈が間違っていたんだなと、余計に踏みとどまってよかったと胸を撫で下ろした。


「鳳凰、戻ろう。おいで」


突然、わたしにだけ影がかかった。髪の毛に何か触れている気がする。


というか、目の前に制服のジャケットの袖が見える。視界が明るくなるにつれ、上に消えていく手の指には鳳凰が留まっている。


「アセビ、その子は今度紹介してね」


「……はい」


「イキシア様、皆待っていますわ。早く戻りましょう」


みんな、何か話しているんだろうか? 壁を隔てているみたいに声が遠い上に、疾走感があるドラム音が邪魔をしてよく聞こえない。


「フリージア、起きてる?」


ガーベラに肩を叩かれて、なんとか声が耳に届くようになった。


「放心しとったから、寝てるんかと思ったわ」


「あ、うん。寝てたかも」


「どうせ今日が楽しみで、昨日の夜寝てへんのやろ」


「そうなんだよね。ベッドに入っても目が冴えちゃて、大変だったよ」


ガーベラと会話しながらも、頭の中も心の中も台風だ。嵐だ。竜巻だ。穏やかでいられる訳がない。


あんなモテ男のような行動をする人だったか……いいや、いつでも適切な距離を保つ人だった。それなのに、あの距離感は正解なのだろうか?


あ! そうだ、びっくりしたんだ。


激しく動いている心臓は、突然あんなことをされたから、驚いてバクバクしているだけだ。ツワブキやアセビにされても、きっと同じように五月蝿くなるはず。イキシア殿下だからでは断じてない……はずだ……。


きっとガーベラには、わたしの動揺がバレているんだろう。だからか、変な空気にならないように、ガーベラがわざとどうでもいい話で盛り上げてくれている。


心優しいガーベラに抱きついて、背中を撫でてほしい気分だった。






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