24.白きモノの頂点
「オカポエエアイイコイマナアリロイポエハハイナウ! エホイケマイイムアオウ!」
宣言するように声高々と詠唱し、全魔力を自分から魔法陣に流し込む。手を突いていられないほど体から力が抜け、倒れるように尻餅をついた。
魔法陣から昇るように上がる緑色の煙や、突如曇ってきた空を見上げながら、息を整えるように呼吸を繰り返す。
額にかいた脂汗を拭えぬまま、一箇所に集まり大きく丸まった緑色の煙を眺めていると、分厚い雲から雷が落ちた。電気を帯びた煙の球体が勢いよく回り始め、風が吹き荒れる。
転がり飛んでしまいそうだったが、横に来たシオン先生が肩を掴んで支えてくれた。目を閉じてしまうほどの暴風が駆け抜けると同時に、強い揺れを感じた。
恐る恐る目を開けると、ひび割れた地面の上で、愉しげに瞳を細めている白竜と視線がぶつかった。
「……本当に?」
無意識に漏れ出た声で我に返った。
どう見ても白い竜だ。白竜が目の前に居る。
『ほほう。この澄んだ魔力は小娘のものか。愉快で来てしもたぞ』
体全部を使って音を鳴らしているような五月蝿い心臓を、唾を飲み込むことで抑えつけ、白竜に手を伸ばす。
「ねぇ、白竜。わたしの相棒になってくれる?」
『我と対等を望むのか?』
「うん。どっちが上じゃ、やがて歪んでしまうと思うの。言いたいことを言い合える、喧嘩しても仲直りできる、そんな関係でいたいの」
白竜が、声を上げて笑い出した。笑い声で強風を巻き起こしている。
『主の度胸に免じて受け入れてやろう。小娘の生の時間など、我には一瞬のことよ』
白竜が爪が尖っている指を上下に揺らすと、体が浮き上がった。
わたしが自分の手から離れたことでシオン先生の意識が戻ってきたのか、シオン先生にうっすらと手を伸ばされたような気がする。
白竜の顔の前に移動し、白竜の鼻先に触れて、やっと実感が湧いてきた。
わたしは、白竜を喚べたのだ。わたしの喚びかけに、白竜が応えてくれたのだ。
小躍りしたいくらい喜びが溢れてきて、白竜の顔に抱きついた。小さく笑った白竜が、頬と手を舐めてくれる。
「ねぇ、あなたの名前は何?」
『我に名前はあらぬ』
「じゃ、アサギはどう? 候補として、コウセツかショウブもあるよ」
『うむ……アサギでよかろう』
「決定ね。嬉しい。わたしはフリージア。これから宜しくね、アサギ」
もう一度顔に抱きつくと、白竜ことアサギからは頬擦りをしてくれる。
モフモフじゃないし大きすぎるが、御伽噺のような存在と相棒になれて、この上なく幸せだ。
それに、キュルンとしている瞳が可愛らしい。わたしのハートは、すでに射抜かれている。
「ねぇ、アサギは、体の大きさ変えられたりする?」
『どうしてだ?』
「わたし、学校に通ってるのよ。アサギの大きさじゃ、学園にも住んでいる部屋にも入られないの。ずっと一緒に居たいのに、緊急の時にしか会えないなんて寂しいでしょ」
『うむ……よかろう。可能な限り小さくなってやろう。しかし、我は時々住処に帰るぞ。よいか?』
「うん。帰る前に教えてくれたらいいよ。急に居なくなると心配になるから」
『我を心配する者がおるとはな』
可笑しそうに笑った白竜に頬を舐められ、くすぐったくて笑い声が漏れた。
地面にふんわりと下ろしてもらうと、シオン先生が慌てた様子で駆け寄ってくる。
白竜が淡く緑色に光り、しゅるるるるという音とともに縮んでいき、ポンっと音が鳴った。目の前には、手乗りサイズの白竜が飛んでいる。
『どうだ?』
「かっわいい!」
『そ、そうか。照れるな』
「本当に可愛いよ! もう大好き!」
アサギを手に乗せて頬擦りしていると、シオン先生に遠慮がちに声をかけられる。
「フリージア……成功したんだな?」
「はい。仲良くしてくれるそうです」
緊張から解放されたかのように、息をこれでもかと吐いたシオン先生に手を差し伸べられるが、魔力が枯渇していて立ち上がることができない。
「そりゃそうなるか」と笑ったシオン先生に、お姫様抱っこをされた。
なに? 何が起こっているの? シオン先生の柔らかく笑った顔も貴重なのに、笑顔なんてぶっ飛んでしまうほどのスチルイベントが起こっていいの?
乙女ゲームの攻略者だから危なげもなく、スマートにお姫様抱っこができる、という実証なんていらないよ? キュンキュンしたら、どうしてくれるの?
まぁ、現実は恥ずかしくて、ときめくどころじゃないんだけどね。
アサギがわたしのお腹の上に座ったのを見てからシオン先生は、距離をとって固唾を飲んで見ていただろうイキシア殿下達に呼びかけた。
「おーい! 一旦移動するぞ! 地面割れてるから、気を付けろよ!」
待って! シオン先生! 確かにわたしの癒しはイキシア殿下の声だけど、先生も非常にいい声をしているの! それを間近で筋肉と共に味わわせてくれるなんて……ときめいちゃったよ。ありがとうございます。噛みしめます。
シオン先生を堪能していると、ガーベラとツワブキ、アセビが駆けてきてくれ、共に運ばれているアサギを見て高速瞬きをした。3人同じ顔をするから、可笑しくて笑ってしまう。
「え? ちっこすぎひん? めっちゃおっきかったやん」
「お願いして、小さくなってもらったの。いつでも一緒にいられるでしょ」
「そんなことができるのか。私もお願いしてみよう」
「サンスベリア伯爵令息。お願いは移動先でしてくれ」
「はい。少しだけ我慢します」
地面がひび割れていない場所まで移動すると、ゆっくりと地面に下ろしてくれた。
シオン先生は召喚した魔物達が平常心かどうかを確認してから、職員室に報告をしてくると一瞬で消えた。ワープの魔法を使えるシオン先生が羨ましい。
『白きモノではないが、鳳凰がおるとはな。あの者の魔力も味わってみたいものだ。しかし、あの白狼……うむ……まぁ、よいか。我には関係のないことよ』
アサギは、独り言を声に出すタイプなのね。可愛いから大歓迎だけど、内容がちょーっと気になるかな。
白狼がどうしたの? 何かあるの?
って、ダメだダメ。気にしない・関わらないって決めたじゃない。
あー、でも、気になるよー。ここは、膝の上にちょこんと座って可愛いアサギを、いっぱい撫でて気持ちを落ち着けておこう。
本当に可愛い奴よのう。もっと近う寄れ。
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