22.熊さんカットの白狼
やっほーい! 待ちに待った使役契約の儀式を行う日がやってきたよ。昨日から浮かれすぎていて、ガーベラに「うざい」と辛辣な言葉を投げられているよ。
だがしかし、そんな言葉に負けるわたしではない。数日前から魔物図鑑と睨めっこし、どの子が来てくれるのかと胸を躍らせている。プカプカ浮いている気持ちが、石ころを投げられたくらいで沈むわけがない。
実際に何を言われても、「わたしはモフモフしている子がいいんだよねぇ」と何度も話しかけていた。白狼に言われたので鳳凰は諦めているが、第2希望としてモフモフしている子を熱望している。
今日の授業は、1限目に召喚の儀式と使役契約をし、2限目から5限目まで召喚した魔物と仲を深めるという内容だ。
もし使役した魔物についての知識がなかったり、魔物と使役契約できなかったりすると、担任の先生が助けてくれる。わたしのクラスで言うと、隠れ攻略対象のシオン先生だ。
使役契約に丸一日使うのだが、実は学園の半数の生徒は魔物を呼び出せない。魔力の量と言われているが、白狼の話を聞いた今では、魔物側の気分次第なんじゃないかと思っている。
ちなみに、王立ブルーム魔法学園は9時にホームルーム、9時15分から1限目が始まり、60分授業と15分休憩を繰り返す。3限終了後に1時間の昼休憩を挟み、4限と5限で終わりとなる。
女子寮からガーベラにウザがられながら一緒に登校し、Sクラス教室前で柔らかくて気持ちいい何かに巻き付かれた。横にいたガーベラの方が、仰け反るほど驚いている。
「なに?」
「真っ白な……犬やな」
つぶらな瞳をわたしに向け、短い尻尾を必死に振っている。
あまりの可愛さに頬が緩み、犬の頭を撫でようと手を伸ばした。
ふわふわの毛並みが、最高に気持ちいい。
「君は、どこからやって来たのかな?」
『僕はアマリリスとやって来たなり』
わしゃわしゃしていた手を止めてしまうほどの衝撃に、瞳をまん丸にしてしまった。
ってことは、この子がゲームではフリージアが助けた白狼だ。現実ではアマリリスと使役契約している。だからか、ゲームではアザラシカットだったのに、今は熊さんカットだ。
この姿も可愛い。スマホがあったら写真撮らせてもらってたな。
「マッシュちゃん、待って!」
アマリリスの慌てている声が、廊下の先から聞こえてきた。
『もう。僕はその名前イヤなりよ』
ぷくっと膨らませる頬が可愛すぎて、今度は両手で頭や顎を撫でる。気持ちよさそうに目を垂らす白狼と内緒話がしたくて、腰を落として顔を近付けた。
「殿下に話してみたらどうかな?」
『殿下って、誰なり?』
「イキシア王太子殿下だよ」
『イキシアは、僕と話せないなりよ』
「小声で話しかけてみて」
『分かったなり』
我儘なイメージがあったが、全くもって素直な可愛い白狼だ。今だって、寝転がってお腹を見せている。一度山に帰ってもらうなんて、二つ返事で了承してくれそうだ。
しかも、どうして嫌だという名前のままなのだろうか? 使役契約した魔物とは話せるはず。謎だ。
少し早足で歩いてきたアマリリスが、泣き出しそうに顔を歪めた。
わたしが撫でることを止めて立ち上がると、もっと撫でてほしいと強請るように白狼も体を起こして足に擦り寄ってくる。
「その子、私の使役魔物なの。返してくれる?」
2回目の放課後の密談の後から、アマリリスの様子がおかしい。
イキシア殿下がアセビと話す時、今まで会話に参加していたアマリリスだったが、あの日から話が終わるのを待つようになっている。わたしを視界に入れないように、会話に混ざらないようにしているんじゃないかと思う。
といっても、2人の会話は二言・三言くらいで終わるので、混ざらなくても特段おかしいわけじゃない。
ただアマリリスは積極的だったから、喉に魚の骨が刺さっているような違和感が拭えないのだ。
今だって、あえて強い言葉を使ったような気がする。
だって、密談の時は普通に会話できたんだよ。だからこの子は、誰かを虐げるような子じゃないと思うんだよね。
それにさ、この世界のヒロインになれている悪役令嬢なんだから、優しい性格の持ち主のはず。物語の相場はそう決まっている……はず。
「ほら、呼ばれているよ」
『ううー……』
白狼の背中をそっとアマリリスに方に押すと、白狼は前足で踏ん張っていた。だが、もう一度促すと、頭を垂らしてアマリリスに寄っていった。
わたしの唯一無二になるはずだった白狼だ。気にならない訳がない。だけど、これ以上アマリリスと絡むのもよくないと分かる。
きっとアマリリスの胸の内は「白狼を取られたらどうしよう」だろう。いや、家族が転生者だとしたら「取られるかもしれないから、気を付けて」と注意されているのかもしれない。
どちらにせよ、彼女は今、焦燥感でいっぱいいっぱいな気がする。
軽くアマリリスに頭を下げてから、ガーベラと共に教室に入った。
席に着くなり、横目で見てきたガーベラが大きく息を吐き出してから、わたしの頭を撫でてきた。わたしがさっき白狼を撫でた時と、何ら変わりない。
「わたし、犬じゃないよ」
「知ってる。でも、今は癒しが必要やろ」
そう、わたしの心もパンク状態だ。お互い関わらなければいいだけの話だ。
だけど、もう気になって仕方がない。両親を悲しませた憤りはあるのはあるけど、とうに昔のことだ。喉元過ぎればってやつだ。
まぁ、今、両親が笑って過ごしているから言えることだけどね。学園に来てからは、よりそう思うようになった。
アマリリスと白狼、どうにかしてあげられないものか。
「うん、ありがとう」
ガーベラに撫でられていると、登校してきたアセビに「私も参加したい」と言われ、右側頭部をガーベラに左側頭部をアセビに撫で回されはじめた。
始業時間少し前に教室に来たツワブキが「そろそろ止めてやれ」と2人を止めて、手櫛で髪の毛を整えてくれた。「7歳になる妹並みに手がかかる」と溢されたので、「お兄ちゃん、ありがとう」と返すと、ガーベラとアセビはお腹を抱えて笑っていた。
本当に何がどうなって、アマリリスと白狼は仲が良くないんだろう?
横目で何度確認しても、白狼はアマリリスと会話をしたくないのか、そっぽを向いてしまっている。
ただ単に、喧嘩している最中なだけ? それにしては……なんだよね。
それに、イキシア殿下も、白狼をどうするつもりなんだろう? あの様子じゃ、アマリリスにも伝えてないんだろうな。
そこまで考えて、思考を巡らせるのを止めた。
どうするかは、王族であるイキシア殿下が決めることだ。気になって仕方がないけど、気にしちゃいけないんだ。わたしが関与するのはしゃしゃり出すぎだし、話が今以上に拗れる可能性が高いんだから。
わたしは、山にいる白狼に魔力を提供するだけでいい。
うん、そうだ。めちゃくちゃ気になるけど、ダメだ。
イキシア殿下がローダンセと登校してきてからは、白狼はイキシア殿下の膝の上で気持ちよさそうに目を閉じていた。
来週は2話投稿します。
フリージアたちがどんな魔物と使役契約をするのかを、楽しみにお待ちいただければ幸いです。
リアクション・ブックマーク登録・読んでくださっている皆様、本当にありがとうございます。




