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【初期版】創世の賢者【連載凍結】  作者: 春風駘蕩
第Ⅱ章 忠犬剣士と東の魔王
35/69

9:青い蕾が開く

「………………ハァ」


 控室を兼ねている闘技場の舞台袖にて、まだ声に幼さを残した青年の深い深いため息が響く。

 肩口程度にかかる長さの青みがかった黒髪、その隙間から長い兎の耳を垂れ提げた若い青年剣士ナギサは、世の不条理をぼやきながら項垂れていた。

 あと数分で彼の出番だというのに、傍から見てもはっきりわかるほど彼のコンディションは最悪の一言に尽きる。舞台袖の暗さも目立たないほどに重く沈んだ雰囲気のために、彼の顔色はまるで病人のような蒼白に染め上げていた。

 なぜそんな状態に陥っているのかといえば、彼の性格そのものが要因であった。


「…何で僕、こんな大きな大会なんて出ちゃったんだよ……賞金が欲しいならもっと小さな目立たない大会に出ればよかったじゃないか……大体なんで僕程度の実力で勝てるなんて思い上がっちゃったんだ……師匠にちょっと褒められたぐらいで調子に乗るなんて……相変わらず僕は駄目駄目だよ……畜生…」


 舞台袖の端で一人ぼそぼそと呟き、己の不甲斐なさや浅慮を悔やみ咎め続けるナギサの周囲には、数メートル分の空間があいている。

 次の出番を待っているほかの参加者たちは、とにかく悲観的で自信を持てないようでいる、それどころか自分の存在そのものを否定し続けているナギサの気分が伝染しないよう、必死に関わりを絶とうとしていた。

 彼のぼやきを聞いているだけで、こちらの気分も滅入って体調が悪くなりそうであった。というかすでに、試合を終えた者たちは顔を青ざめさせて必死に目をそらしているような有様であった。


「いや、そもそも僕なんかが剣の道を志すこと自体が間違いだったんじゃないのか…? ケンカも勝てない、いじめっ子にも立ち向かえないできない事ばかりの僕が唯一剣術を褒められたからってつけあがったからこんなことになっちゃってるんだ。そうでなきゃ僕が今こんな場所にいられるはずがないよ……ああそうだそうに違いない今にきっと痛いしっぺ返しが待ってるんだ試合中に不慮の事故で死んじゃうとかどうしようもないくらい無様な姿をさらすとか末代まで食い続けるような悲惨な目に合うんだいやそもそもこんな情けない僕がモテるわけないし結婚自体できないに決まって―――」


 誰もいない虚空に向けてぶつぶつぶつぶつと呟き続けるナギサは、どう言いつくろっても不気味でしかなく、周囲の人との距離がさらに離れていく。

 ぐるぐると自虐的な思考の渦に呑まれていく気弱な青年剣士。その肩に不意に、大会の運営役員である兵士が声をかけた。


「ナギサ選手! そろそろ試合のご準備をお願いします‼」

「うぇあっ⁉ は、はひっ‼」


 完全に自分の殻の中に閉じこもっていたナギサは、後ろから背中を刺されたかのようにビクンッと体を震わせて立ち上がり、ブンブンと兵士に対して頭を下げた。

 とくに悪いことをしたわけでもないのに、ぺこぺこと委縮しきった様子で頭を下げる青年に、周囲の者は呆れた眼差しを、あるいはにやにやと意地の悪い笑みを浮かべる。この程度でここまで緊張するような相手なら、自分が当たったとしても簡単にあしらえるだろうとでも考えているようだ。

 もっとも、次の試合を生き残れるということが前提の話だが。


「……あれはまず違うわね。人を斬ろうっていう意志が見受けられないわ」


 アザミもまた、舞台袖の影から青年剣士の様子をうかがい、興味を失ったように目をそらす。

 件の刀を持っているかどうかはともかく、どう見ても相手と真正面から勝負できるような性格ではない。

 他者より優れた力を持った者ならば誰しもが少しは有するような、他と比較したがる優越感を抱いている様子も感じられないため、アザミの中の容疑者からは完全に外された。


「……となると、問題は」


 アザミの視線は、青龍の門の側から相手側の白虎の門の方へと移される。

 そこでは一足早く舞台に顔を出している、自身の身の丈をも軽く超える大剣を担ぐ大男が、いかにも残虐な笑みを浮かべて対戦相手の登場を待っているのが見えた。


(……得物の大きさが違うからまず違うだろうけど、あれがもし勝ち残ってあの子と当たるようなら、少し考えておく必要がありそうね)


 容疑者からすぐさま大男を外したが、また別の懸念を抱いたアザミはその視線を鋭く尖らせ、じっと大男の一挙一動を監視する。

 シオンの力でも対応しきれるかわからない、相応の実力者を備えた猛者だからではなく、かつてあるギルドに張り出されていた手配書に載っていた人物。高額な懸賞金がかけられているお尋ね者、超危険人物だったからだ。


(……バスクール、本名ガレス・アッバース。西の大国タイランで指名手配されてた殺人犯が、まさか大手を振ってこの大会に顔を出すなんてね……いや、これはあいつらが泳がせていると考えるべき?)


 ちらりと視線を向ければ、青龍の門にも白虎の門にも、先ほどの試合の時にはいなかった兵士たちがこっそりと控えている姿が見える。試合がどちらに傾くかは関係なく、バスクールが舞台袖にひっこんだタイミングで捕縛するつもりなのだろう。

 凶悪犯を相手にするためか、身を潜めている兵士の数も質もかなりのものに見え、海上には試合とは別の緊張感が漂っていた。


(……どちらにせよ、あの子は勝ち残れそうにないわね)


 アザミはどこか気の毒そうに、ガチガチに緊張したまま舞台上に上がる青年剣士の背中を見送る。

 同じ側の手足が同時に前に出て、まともに歩くこともできないでいる彼に、アザミはただただ彼の不運に嘆息してしまう。いくらなんでも、あんな凶悪犯と試合でぶつかるなど気の毒にしか感じなかった。

 舞台上で気だるげに待っていたバスクールは、やや青い顔で舞台に到着したナギサを見下ろし、小馬鹿にしたように汚れた歯を見せた。


「…へっ、予選じゃちっとばかりヒヤヒヤしたが、これなら後は楽に進めそうだな」

「ヒッ……ひぃぃ」


 完全に格下と思われているが、緊張と恐怖で硬直しているナギサには反論する余裕もない。ただただ情けない声を上げ、涙に潤む目で見つめ返すことしかできない。

 事実彼は自分の力など大したものではないと考えていて、二回戦にまで進んでしまったことなどまぐれでしかないと思っていた。

 プライドもクソもないが、ナギサは舞台の上に立つだけでも精一杯になっていた。


「おい小僧、まさか土壇場になって棄権しようとか降参しようとか考えちゃいねぇだろうな?」

「へ……あ、いや、その…」


 探るように尋ねてくるバスクールに、さすがにそこまで思い詰めていなかったナギサはどうこたえようかと悩む。考えてはいなかったが、バスクールに言われてようやく降参という選択肢があることを思い出していた。

 だが、相手に言われてからそれを選ぶというのは抵抗があるのか、曖昧に口を濁して目をそらすばかりだった。

 そんな青年に、バスクールは強面の顔を緩めて肩をすくめた。


「もったいねぇからやめておきなぁ……詰まらねぇ生き方だきゃぁしちゃいけねぇ」

「え…?」

「考えてもみろ。こんなでかい舞台に立てる機会なんざ今後あるかどうかわからねぇんだぜ? 偶然だろうが実力だろうが、この先に待っているイイものに手を伸ばすこともせずに逃げ出すなんざ、最高で最低に詰まらねぇ選択だろうが」


 大剣を一旦地面に突き立て、バスクールはナギサの目を見つめて語り掛ける。最初の印象で、暴力で他人を従わせるような残虐な相手だと思っていたナギサは困惑したように目を丸くし、バスクールの言葉に素直に耳を傾けた。

 バスクールは相手を安心させるような穏やかな笑みを浮かべ、ナギサに優しく告げる。人生の先輩風を吹かせる少し気取った態度に、ナギサの警戒心は少しずつ下がっていった。


「男に生まれたんならよ、デカい夢を追いかけていこうぜ」

「バスクールさん…!」


 先ほどまでの緊張と恐怖も忘れ、ナギサはキラキラと輝く眼差しでバスクールを見つめる。

 彼は今まさに学んだ、相手を見た目だけで判断してはならないと。誤解されやすそうな外見の相手だからこそ、その人の積み重ねてきた苦労の経験や記憶は、他の誰かのためになるものなのだと。

 青年が見る見るうちに戦意を失くしていく中、バスクールは地面に突き立てた体験を抜いて頭上に向けて掲げていく。

 その口元が、三日月のように細く怪しく歪められていった。


「そして…………その夢と希望にあふれたガキの顔を、恐怖と絶望で彩る俺様の趣味の邪魔だけは、しないでくれよ」

「…………は?」

『試合、開始ぃぃぃぃぃ‼』


 何か恐ろしい一言を聞き洩らしたのではないか、とナギサが思わず真顔で硬直した瞬間、進行役からの開始の合図が響き渡る。

 わっ、と観客たちの歓声が爆発し、双方の意思に関わらず試合が開始されてしまう。何の準備もできていない青年が呆然と立ち尽くしていると、大剣の大男は一切気遣うことなく駆け出し、分厚く巨大な刃を振り下ろした。

 ナギサは突っ立ったまま、嗜虐的な喜びに満ちた笑みを浮かべて向かってくるバスクールを見上げる事しかできなかった。


「じゃ、あばよクソガキぃ‼」

(あ、僕これ死んだ)


 ナギサはここでようやく、目の前の大男に乗せられたことに気付く。親切さを装って油断を誘い、無防備になった相手を一方的に甚振るという卑劣な手段をとられたことに。

 しかし今さら気づいたところで、バスクールの刃はもうナギサの寸前にまで迫り来ている。いかなる達人であろうとも容易には躱せない間合いにまで接近され、ナギサの命は一瞬のうちに詰みを迎えてしまった。そう思われた。


「おらぁぁぁ‼」


 バスクールが力任せの一撃を振り落とし、大剣を地面に叩きつける。分厚く重い一撃はたやすく地面を叩き割り、無数の破片を撒き散らして凄まじい粉塵を巻き上げる。一瞬遅れて生じた轟音が衝撃波とともに周囲に四散し、観客席にまで震動を伝えていった。

 誰もが、粉塵の中で起きているであろう凄惨な光景に表情を青く染め、あちこちから悲鳴が響き渡る。青年のたどった恐ろしい末路を想像してしまい、吐き気を催す人も続出する。

 だが、その予想は全くの大外れであった。

 振り下ろされたバスクールの大剣の下には、青年の憐れな姿どころか僅かな血痕さえも残されてはいなかったのだから。


「な―――」

「う…うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ‼」


 目を見開き、驚愕をあらわにするバスクールの耳に、悲鳴と気合いが半々となったような叫び声が届く。

 ハッと我に返った時には、バスクールの顎に強烈な衝撃が走り、頭蓋の中の脳が激しく揺さぶられていた。全く予想だにしない激痛に襲われ、卑劣で残虐な巨漢は白目をむいてゆっくりと倒れこんでいった。


「―――かっ、は……何…だ、そりゃ……」


 最後まで何が起こったのかわからないまま、バスクールはズシンと音を立てて崩れ落ちる。脳を揺らされた気持ち悪さからか口の端から泡を吹き、大剣を取り落としてだらしなく大の字に両手両足を投げ出してしまう。

 その横に危なげなく降り立ったナギサは、鞘を納めたままの自分の武器と倒れたバスクールを交互に見やり、困惑した様子で首を傾げた。


「か…勝てた…! けど………なんで? あれ…?」


 自分で何をしたのかも、何が起こったのかもわからないように、所在なさげに立ち尽くす青年の姿に、会場中がしんと静まり返る。

 しかしやがて、一瞬のうちに決着がついたということを理解した観客から歓声が沸き、徐々に会場中に伝わっていった。それでも呆然としているナギサに、同じく我を忘れていた進行役の男性から惜しみない称賛の声が送られた。


『こ………これはすごぃいいい‼ ナギサ選手! あの強烈無慈悲な一撃を見事に躱し、一瞬の好機を手に入れ勝利さえもその手に掴んでみせたぁぁ‼ 素晴らしい番狂わせ(ジャイアントキリング)だぁぁぁぁぁぁぁ‼』

「……嘘でしょ」


 進行の台詞によって、歓声はナギサの健闘を称賛する大きな拍手に変化していく。それでもまだ理解できていないナギサの腕を進行役の男性が無理矢理掴み、天に向かって突き出させて観客たちに見せつける。

 それによってさらに大きく広がっていく歓声の中で、アザミもまた信じられないといった様子で目を見開き、立ち尽くしていた。


 バスクールが先制してからの攻防は、アザミもしっかりと観察できていた。

 脳天に向けて振り落とされた巨大な鉄の塊を、ナギサは半身をずらすことにより回避し、刃が地面に突き刺さった瞬間相手の懐に入り姿勢を低くする。バスクールは丸太のように太い自分の両腕と大剣が邪魔になり、自分の足元に入り込んだナギサの姿を見失ったのだ。

 あとは、兎が飛び跳ねるように跳躍したナギサが、同時に鞘付きの刀を思い切り振り上げ、バスクールのあごを正確にとらえる一撃を繰り出した、ただそれだけのこと。

 臆することなく相手の動きを正確にとらえ、危険な敵の至近距離にまで接近し、渾身の一撃を叩き込む。そうそううまくやれる人物もいないであろう攻撃の流れを、気弱で自信なさげな青年がやってのけたのだという驚愕が、アザミからあらゆる反応を奪い去っていた。


「……無自覚、いや、自分の実力をはっきり認識できていないのか。どこのどいつかしら……あんなセツナとは別の方向性の化物を育て上げたのは」


 正確無慈悲な剣技を披露してみせたセツナと、恐怖による体の硬直を見せることなく流れるような反撃を放ったナギサ。

 系統は別方向ながら、同等の天賦の才を有している二人の剣士たちに、アザミは内心で戦慄の表情を浮かべる。同時に、あれだけの成長を見せる目を育てる土台を作り上げた師が何者なのか、という純粋な疑問も湧き上がっていた。

 はたして己の弟子は、あの規格外の化物を相手に生き残る事が出来るだろうか。おそらくは……相当苦労することだろう。


「……まぁ、いいか」


 とはいえ、アザミがこの場で最も重要視しているのは、凄まじい才能を見せる天才たちではなく忌々しいあの男の遺産を所持している存在。ぶっちゃけこの大会で誰が勝ちぬいて誰が優勝するのかなどどうでもよかった。

 弟子が妙に張り切っていたが、勝てば多少は褒めてやるし敗ければ相応に慰めてやろうていどにしか考えていなかった。

 気を失ったままのバスクールが、過剰ともいえるほどの人数の兵士たちに運び出されていくのを見ながら、アザミは懐から対戦カードを書き記した表を取り出した。


「……で、次の組み合わせは、と」


 そこに描かれていた二つの名前から、アザミは次に監視すべき挑戦者に注意を向けた。


 ◇ ◆ ◇


 興奮冷めやらぬ会場の中心、修繕された舞台の上で、一人の侍と一人の騎士が互いの得物を構えながら相対していた。

 侍、ミフネは口にくわえた笹の葉を揺らし、巨大な槍と盾を備えて佇む白い鎧の騎士に残念そうな眼差しを送っていた。同じく騎士も、身の丈に近い長さを有する太刀を下げた侍を惜しむような目で見つめている。


「よもや、貴殿とまたこんなにも早く相対することになろうとはな」

「これが神の思し召しというのなら、少しばかり意地が悪いと評するほかにありませんね」

「違いない…」


 以前に進行役の男性から紹介されたように、この二人が大会でぶつかることは非常に多かった。

 しかしいずれも予選であったり二回戦であったりと、早い段階で決着をつけねばならない場合が多く、決勝や準決勝のような最高の場で雌雄を決したいと考えていた二人にはかなり不満を抱いていた。

 これはもう、誰かが対戦相手をいじっているのではないかと思えるほど、二人の中には疑惑と不満が募っていた。


「なぁ、ギャラハット殿。拙者は勝手ながら、貴殿を生涯の好敵手と見定めている。できる事なら最後の最後に貴殿と刃を交わし、健闘を称え合いたかった。……貴殿は、違っただろうか」

「……これまで私とあなたは、幾度となく相対してきました。答えなど、聞くまでもないでしょう」

「ああ……これは失敬。野暮なことを聞いてしまったな」


 人から見れば、さっさと戦えるのだから別にいいのではないかと思えるようなくだらない願い。

 しかし、数々の猛者たちと戦ったうえで最後に相対し戦う、最後まで勝ち残った互いこそが己の求める最強の好敵手とわかったうえで全力でぶつかりたい。そういう他の者にはわからない、わかる必要のない同じ思いが、二人の間にはあったのだ。

 しかし今二人は、何度かこの大会を経験するたびに、その願いが遠のいていくのを感じていた。


「ここ最近は初顔の猛者たちも集いつつある……もはや予選さえ超えてくることも難しくなって来るやもしれぬ。そうなる前に、こうして機電と舞台上で顔を合わせられた幸運を喜ぶべきかもしれんな…」

「…………そうですね」


 時間がたつほどに、世代は変わっていくもの。〝無敵〟〝無敗〟と称される二人であっても、いずれはその腕も衰え、その二つ名を名乗ることも難しくなっていく。

 若き剣士たちが力をつけ、自分たちのいる域にたどり着き始めていることも、願いが遠のく要因の一つとなっている。いつまでも自分たちが勝ち残れる保証など、どこにもありはしないのである。

 それに寂しさを感じながらも、ミフネもギャラハットも仕方のない事だと受け入れ、それでも強い闘志をその目に灯し、睨み合う。


「ならば、やることはこれまでと変わりませぬな…‼」

「是非もないです…‼」


 長い太刀を鞘から抜いてミフネが上段に構え、マントを翻してギャラハットが槍と盾を握りなおす。一瞬にして高まっていく殺気が空気をピンと張りつめさせ、観客たちの歓声をあっという間に途切れさせた。

 ここから先は言葉は不要、この戦いの先にある栄光へと挑むために、全力をもって相手に挑むだけだ。それが、互いに好敵手だと認め合った男たちの、互いへの最大の礼儀であった。


「ぬうおおおおおおおおおおお‼」

「はぁあああああああああああ‼」


 死を目前にした(つわもの)たちのような咆哮を放ち、侍と騎士が雌雄を決するために激突する。刀と槍がぶつかり、凄まじい衝撃が振動となって会場中に伝道していった。


「……あれも違う、と」


 が、アザミはそんな熱い男たちの決戦に目もくれず、脳内の容疑者リストから二人の名前をかき消して視線を外す。そして次の試合に出場する名簿に目を通し、深い深いため息をついて肩を落としていた。

 ミフネとギャラハットの二人が容疑者から外れた時点で、アザミはその勝負の結末など一切興味を抱く必要はなかった。


「ぅおおおおお‼」

「はぁああああ‼」


 血も涙もない眼帯の魔女の視界の端で、猛者たちが織り成す激闘が引き起こした爆発と、血反吐を吐きそうな咆哮が響き渡っていた。

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