10:もう一つ上へ
壮絶な死闘の末、第四試合はミフネの勝利に終わった。
何の偶然か、ミフネとギャラハットの大会での記録は互いに一章ずつ勝利を収めるという結果になっており、この決着によって10戦中5勝5敗となっていた。いつになったらどちらかが勝ち越すのか、と観客や彼らのファンは心待ちにしているようだが、アザミにとっては全く興味の湧かない話であった。
そんな暑苦しい連中よりも、もっと興味の惹かれる試合が待っていたからだ。
『続いての青龍の門からの入場は、わが国出身の由緒正しき武家の長女! 父は近衛兵長! 祖父は彼の大戦にて多くの敵将を討ち取った猛将! 英雄の血を引きし〝深紅の虎〟アスカ・サナダ‼』
「……真田の孫娘、か」
紅花のように鮮やかな赤い毛並みに黒い縦縞模様を持つ髪をうなじでまとめた、気の強そうな釣り目の美少女が、分厚い布で覆われた十字の刃の大槍を持って舞台上へと進んでいくのが見える。
すらりと長い手足やメリハリの効いた身体つきを包むのは、陣羽織に似た形状の袖のなく裾の長い外套。その下の着物は動きやすさを重視してか、ギリギリまで丈が短くされたもので白く艶やかな太ももがちらちらと覗いて見える。
胸に下げているのは、彼女の家の家紋であるという六つの円が二列に並んだ首飾り。奇麗に磨かれたそれが、金色の瞳と相まって輝いていた。
『相対するは白虎の門からの挑戦者! 同じく英雄から受け継いだ剣の腕のみならず、流した浮世はもはや知らぬ者はいない色男! 〝片目の龍〟ムエイ・ダテ‼』
「……これはまた、妙な縁が繋がったものね」
相手側の選手の姿も見やったアザミは皮肉気に口元を歪める。
現れたのは、鹿のように枝分かれした角を生やし、真っ白な髪の下で片方の目を眼帯で覆った、同性であっても目を引かれてしまうほど整った顔立ちの男性。平均身長を軽く超えるその体はしなやかな筋肉の鎧で覆われているのがわかり、女性の観客たちはみな一様に頬を染めて見惚れている。
ところどころに龍に似た模様を刻んだ、青を基準とした色彩の衣服を纏った彼の腰には、紺色の鞘が目立つ一振りの刀が提げられていた。
紅と紺、黒と白。対照的な色彩が表すように、互いは互いを己が最も倒すべき相手と認識しているように、鋭い刃のような視線を絡み合わせていた。
「……なぁ、知ってるか? サナダ様もダテ様も、トモナガ様と同じ故郷の出身らしいぞ」
「へぇ…‼ 妙な偶然があったもんだな」
どこからか聞こえてくる、通ぶった観客たちの会話を聞きながら、アザミはふっとおかしそうにため息をついた。
かつて、同じ国の同じ町で出会い、同じ学び舎で過ごしていた二人が、全く同じ時間に同じ世界に呼び出され、その世界の中の全く異なる場所、異なる時間に降り立った。
右も左もわからない、縁もゆかりもないその世界で二人の青年は必死に抗い続け、やがて彼らのもとには人々が集い、いつしか広大な土地を治める主となった。示し合わせたかのように同じ道をたどった彼らはいずれ出会い、時に思想の違いから相対し、時に同じ目的の為に手を組んだ。
そして最後には揃って同じ故郷を持つ一人の王のもとに下り、守り人として最後を迎えた。
あまりにも馬鹿馬鹿しい、笑い話にもならない偶然であった。
懐古か嫌悪か、複雑に感情が混ざった奇妙な表情のアザミが遠い目で眺める先で、アスカと睨み合っていたムエイが小さく息を吐いて口を開いた。
「まさか……昔散々俺に拳骨を落としてくれた爺に、あんたみたいな可憐な孫娘がいたとはねぇ…」
腰の帯から抜いた刀を、鞘から抜かないままムエイは肩に担ぐ。先ほどまでの殺気は一瞬にして霧散し、残った目には目の前の美しい少女に対する強い興味が浮かんで見える。
自由にくねくねと動く彼の臀部から生えた尻尾も、美少女を前にした彼の今の気分の軽さを表しているようだ。
「知ってるかい? 俺の爺さんとあんたんとこの爺さんは昔、敵対関係にあったらしいぜ。どっちも実力じゃ劣らず、一進一退の攻防を繰り返すうちに酒を酌み交わす仲になったんだとよ。笑えるよな」
ムエイが親しげに語りかけても、アスカの表情に変わりはない。
いや、僅かに眉間にしわを寄せていくという、あまり好ましくない変化はあったようだが、ムエイは気にすることなく口を止めなかった。
進行役が二人についての紹介を続ける間に、ムエイは相手であるアスカと距離を詰めようと話題を探し、互いの持つ強い縁である祖父のことを語り続けた。
「結局決着はつかなかったらしいが……そうなると今戦おうとしてる俺とあんたのこの試合は、奴らの代理試合ってことになるのかね?」
「―――知ったことじゃないわ」
肩をすくめて問うムエイだが、ようやく口を開いたアスカはその言葉を一蹴する。
さすがに目を見開いて言葉を失うムエイの前で、アスカは槍の穂先を無得に身突き付け、きつい眼差しを向けたままきつく言い放つ。
その目には目の前の相手に対する敵意しかなく、それ以外の感情、強者との戦いを楽しみにする喜びも緊張も、何一つ浮かんではいない。ただただ、相手を単なる障害物の一つとしか認識していないかのような、そんな印象を抱かせた。
「私が唯一尊敬するのは私の祖父だけ……蜥蜴の老いぼれや名前負けした雑魚に興味なんてないわ」
「……そいつはちと、言いすぎじゃないかねぇ」
「あら、気に障ったかしら?」
祖父をはっきりと侮辱されてさすがにカチンときたのか、ムエイの表情がすぐさま引き締まったものに変化する。
アスカはさして気にした様子もなく、刺してくるようなムエイの殺気を柳のように受け流す。蔑みの目や侮辱の言葉への謝罪の念は一切感じさせず、刀を握る彼をじっと興味なさそうに見やっていた。
「否定したいなら、せめて力で見せてくれないかしら? どうせ口だけの男なんだから、あまり私の貴重な時間を浪費させないでほしいのだけど」
「……望み通り、潰してやるよ‼」
凄まじい龍の咆哮とともに、ムエイの凄まじい闘気が迸る。進行役の下した試合開始の合図とともに、振り上げられた刀に怒りと闘気が混ざり合って恐るべき速度と威力を与えた。
アスカはそれを十字槍で防ぎ、激しい火花を散らしながら鍔迫り合いに持ち込む。ギリギリと金属がきしむいやな音を響かせながら、互いの得物を挟んだ二人の英雄の孫たちが鋭く睨み合った。
「おおおおお‼」
「ふっ…‼」
激突する刀と槍が削れ、細かい破片を撒き散らしながら宙を裂く。大槍がぶぉんとうなりを上げ、刀がヒュンと風を切り、そして激突して物凄い轟音を響かせる。
今大会にて現状最も目立ったセツナや、ミフネとギャラハットの戦いと勝るとも劣らない、高度な技術と鍛え上げられた力のぶつかり合いに観客たちは大いに沸きあがり、そのすべての音が騒音となって混ざりあう。
刃を使えなくされているとはいえ、放たれる一撃一撃全てが急所を狙った一撃必殺の応酬。一時も目を離せない刀と槍の乱舞が、実際よりも長く感じられる時間の中で繰り広げられた。
しかしその決着は、一瞬のうちに訪れた。
「―――かはっ…!」
刀を勢いよく突き出したムエイが、大きく目を見開いて苦悶の声をこぼす。
正確にアスカの急所を狙い放たれた突き、それは誘われたものだとはわからないほどに優れた一撃で、ムエイはまんまとアスカを懐に誘い入れてしまっていた。
至近距離での戦闘には不向きな槍を囮に使い、槍への一撃を誘い出したアスカは、目にもとまらぬ勢いでムエイの足元へと踏み出し、鳩尾に鋭い拳を放っていた。
「やっぱり駄目ね、野良の男は」
どさりと力なく倒れ伏すムエイを見下ろし、わっと湧き上がる歓声の中でやはりアスカはつまらなそうに呟く。
勝利に対する歓喜など微塵も見せず、まるで当然のことのようにその場で背を向け、観客への挨拶もほとんどなく舞台袖へと歩き去って行ってしまった。
観客たちは彼女のその態度に大いに戸惑った様子で、中には不満げにブーイングを飛ばす者たちもいる。しかしそんな声にさえ、アスカは目立った反応を見せたりはしなかった。
「……あれがうちの弟子と当たるのか。もうすでに嫌な予感しかしないわね」
虎人ながら一匹狼の気質というべきか、他者とのかかわりを一切捨てて己の道の身をまい進しようとしているアスカの姿に、アザミは別の不安がこみあげてくるのを感じる。
まず間違いなく揉める。お人好しというか、自分が関わった相手にはとことん気をかけようとするシオンと、全くの真逆に人との間に壁を作るアスカ。試合で当たれば、間違いなくひと悶着おこすに違いない。
特に、自分の弟子のおせっかいが原因で。
(……あの野郎、孫を甘やかすのはいいけどもう少し厳しくしておきなさいよ)
その言葉が自分のも帰ってくることを自覚しながらも、アザミは今は亡き老戦士に向けて思わずにはいられない。
あの高飛車な性格が幼少期、彼女の祖父が存命のころから変わらぬものだとすれば、彼はその矯正に一切手を出さなかったことになる。それがいずれ悲劇を生む可能性があるのなら、その責任を彼の老人に問わずにはいられなかった。
しかし、それはそれ。問題は起きてから処理すればいいと、アザミは怱々に思考を別のものに移すことにした。
「……あれは別に警戒する必要もないか」
膝をついて項垂れていたムエイが、やがてとぼとぼと歩き去っていくのを見送り、アザミは注意を外す。
彼は一見軽い男に見えるが、祖父を敬愛する心は確かで存外熱い男に見える。少なくとも妖刀に手を出すような人物には見えなかった。主観ではあるが、長年の剣から容疑者からは大きく外れると判断した。
一仕事を終え、ため息をついたアザミは面倒くさそうな半目になると、すぐ近くに控えている少女に横目を向けた。
「あばば、あば、あばばばば、あばば」
「……案の定ガチガチになってんじゃないのよ、あんた」
「こここここここここればっかりはなななななななな慣れない」
「……見てて恥ずかしいわ、この馬鹿弟子が」
いつかの試験前のように全身を震わせて立ち尽くしている弟子に、アザミは思いっきりため息をつく。予選では大して緊張していなかったくせに、やはり許容できる緊張に段階があるのだろうか。
何も言わず、アザミはちょいちょいと手招きをすると、シオンを抱き寄せて纏っていた外套で包み込む。
「し、師匠の匂いぃ……お願いだからあと1時間ぐらいかがせてほしい……」
「……試合終わるわよ」
珍しく自ら招いてくれた師に思いっきり甘えながら、そんなことを抜かすシオンの頭を軽く小突く。周囲の選手たちから微妙な視線を向けられていたがあえて無視し、アザミはシオンがある程度まで落ち着くまで多少甘やかしてやった。
やがてもう終わりだ、と肩をきつくつかんで外套から引きはがすと、アザミはシオンの顔を覗き込んで目を合わせた。不満げな弟子の視線も気にせず、活を入れるためにやや厳しめの声で告げる。
「……あんたが出るって言ったんだから。最後まできっちりやりぬきなさいな」
「んー…」
シオンはまだ嗅ぎ足りないといった様子で唇を尖らせていたが、やがて大きく深呼吸をくり返し、キッとアザミに向き直った。
その目には先ほどまでの迷いと緊張による淀みはなく、ただ勝利の身を望む真っ直ぐな光が宿っている。それに満足げにうなずくと、アザミはポンとシオンの肩を軽く叩いて舞台へと促した。
「…じゃあ、行ってくる」
「……行ってらっしゃい」
傍から見ればやや関心の薄そうな見送りだが、シオンにとってはこれでもかなり甘やかされているものに感じていた。
普段厳しい分、今日この時のように大事な場面ではしっかり応援してくれていることを実感したシオンは、その胸に確かな自信とやる気が漲るのを感じながら、勇ましく舞台へと上がっていった。
『第六試合! 青龍の門から登場するはかの大魔女の弟子‼ 不吉な黒い毛並みが呼び込むのは幸運か不運か⁉ シオン選手! 白虎の門から参上するのは鉄壁の守護にてわが国で不動であり続けた武僧! 伽藍‼ 速きこと風の如しのシオンか、動かざること山の如しの伽藍か‼ 勝者はどっちだぁ⁉』
シオンは用意した棒を構えながら、相手選手を油断なく観察する。
シオンの背丈の二倍はありそうな巨体に、奇麗に剃り上げられた頭部を隠す頭巾。分厚く武骨な甲冑を纏った武僧は、身の丈とほぼ同じくらいの薙刀を持ってシオンと向き合っていた。
体つきとは裏腹に、角ばったその表情は彫りが浅く、穏やかに見える。太い眉毛や細められた目が何となく愛嬌を感じさせ、シオンから初対面の相手という緊張を取り払っていた。
『異色の対決の幕が、今開かれます‼』
「…………」
「…………」
が、そこには別の緊張感が漂っていた。
進行からの試合開始の合図があっても、伽藍もシオンも一歩たりとも動こうとはしない。相手の出方をうかがっているとか、隙をうかがっているとかではない。
ただただ無言のまま、両者は睨み合ったままであった。
(やりづらい…!)
表面上は無表情のまま、シオンは内心で戸惑いの声を上げる。
守りの戦いを好む者と聞いている空には、自ら攻撃するのではなく防御してからの反撃に特化した戦法をとるのだろう。
しかしそれにしても動きがないのが不可解だった。立ったまま死んでいるのではないかと思えるほどみじんも動かない彼に、どちらかといえば先制攻撃によって先に仕留めたいシオンは戸惑うばかりであった。
(なに、この人……じっと私を見たまま一言もしゃべらないし動かないし……何? 私何かへんなことした?)
糸目であっても、男の視線が自分にじっと集中していることはわかる。しかしいくら何でも視線さえも微塵も動く様子がないのが気持ち悪かった。
訓練すれば、人はある一点に集中し続けることはできよう。遠く離れた場所の標的を狙う狙撃手などは、そういった能力は必要不可欠のものだ。
が、彼は戦士。動き続ける相手と戦い続けるため、シオンの動きにあわせて何かしらの反応を見せ酔う者なのに、全く動く様子がなかった。
「…………………あ」
その均衡が崩れたのは、試合が開始されて数分経ってからだった。
一向に動く様子も反応も見せない伽藍に、シオンが緊張と気持ち悪さで気分を崩しかけていた丁度その時に、伽藍の口から声が漏れたのだ。
表情を引き締めたシオンだったが、ガランの声がどうにも自分以上の緊張をにじませたものであることに気づき、訝し気に眉間にしわを寄せた。
「し、シオン殿……で、よろしいか」
「な、なに…?」
戸惑いからか、引き攣った声で反応してしまったシオン。
ごくりと観客席からも息をのむ音がするのをぼんやりと聞きながら、シオンは相手から放たれる言葉をじっと待った。
「その…こういった場でこんなことを申し上げるのは、お恥ずかしいのだが…その……」
しかしすぐに、伽藍の反応が予想していたものとは異なることに気が付く。
どことなく便りん捧な、例えるならば思春期の男子が気になる女史を相手にしあっ時のような、とにかくもじもじした態度に見えたからだ。
シオンはそのうち構えをとっていることがだるくなり、肩の力を抜いたまま伽藍を凝視してしまっていた。
「そ……その格好は…! あまりに目の毒故に…! できればもう少し隠しては頂けまいか……‼」
「…………ん?」
返ってきた言葉に、シオンは半目で呆然とした声を返してしまう。
よく見れば、伽藍の頭巾の下の顔が赤く染まっているのが見える。湯気でも立ち上っているのではないかと思えるほど真っ赤にゆだっている彼は、幾度もどもりながら、シオンにちらちらと視線を向けながら語りかけ続けた。
「そ、某はその…‼ ずっと山奥で一人修行に明け暮れていたものゆえ……にょっ、女人とこうも近い場所で話す機会など皆無でござり……その…‼」
突如始まった説明に戸惑い続けていたシオンは、やがてちらちらとむけられる伽藍の視線が自分の胸元や腰元に集中していることに気づいた。
極端に肌を露出しているわけではないものの、動きやすさを重視したい服は体のラインが出やすくなっている。下半身の丈も短くなっていて、確かにシオンのように発育のいい者が着れば色気を感じても仕方がないかもしれない。
アザミはそんな彼の様子を見ながら、ハッとあきれた様子で鼻で笑った。
「……ああ。あいつ、ただの童貞か」
それはシオンにもわかったのだろう。
次の瞬間、シオンの両目がキランと怪しく光り、それまでの警戒を放り捨てるように果敢に動き出した。
「おぉ⁉」
ビュン!と凄まじい勢いで突き出される蹴りを、伽藍は必死の形相で、というかまくれあがった裾の中を見ないようにしながら避ける。
気を抜けば簡単に下穿きを見られてしまいそうな足技を、シオンは全く恥ずかしがる様子もなく容赦なく伽藍にお見舞いし始めた。
「ま、待たれよシオン殿‼ そ、そのように激しく動き回られては、おみ足があられもないことに…‼ ぬ、ぬぉおおおお⁉」
伽藍は薙刀を構え、襲い掛かるシオンの蹴り技の連撃をどうにか捌こうと躍起になる。
だが、目の前で輝く白く艶やかな腿に目を奪われそうになり、または動くたびにワガママに揺れ動くシオンの胸元の果実に頭が沸騰しそうになり、防御すらままならなくなっていく。
ただでさえ女性に体勢のない、修行ばかりであった武僧。世間的に見れば相当上位に食い込む外見を持つシオンの有する豊満な体つきを、無視する術など彼にはなかった。
全身に蹴りを受け、それでもどうにか倒れずにすんでいた伽藍。そんな彼の顔面に飛びついたシオンは、自らの股間を鼻先にぶつけさせ、彼の顔を両脚で挟んで後頭部でがっちりと組み合わせた。
「むが⁉」
「悪いけど、これが私のやり方で……私が勝つ方法」
見る見るうちに皿に顔面の赤みを増していく伽藍を、シオンは自ら身体を反らすことでひっくり返す。
象のような巨体が軽々と宙を舞い、いったん地面に手をついたシオンによって思いっきり地面に叩きつけられる。防御に定評のある伽藍といえど、女性を相手にして動揺したうえ、日歩を顔面に押し付けられるといった状態に陥り、頭頂部から地面に激突させられればたまったものではなかった。
さかさまに突き刺さった伽藍から、シオンは勢いをつけて飛びのく。
ガランの巨体がゆっくりと傾ぎ、ズズンと大きな地響きを立てて倒れこむと、茫然となっていた進行役の男がようやく我に返った。
『お……落ちたぁああああああ‼ 難攻不落と称される守りの武僧‼ シオンの速度に翻弄され、あっという間に落とされたぁあああああ‼』
「……いや、あれはもっと別の意味でオトされてない?」
舞台袖から試合を観戦していたアザミは、伽藍が様々な意味で落とされたことにツッコミを入れる。
物理的にも、敗北という意味でも、女性にという意味でも、守ることで名を広めてきた男があっけなく脱落したことで、アザミは何とも形容しがたい気分に陥っていた。
「……なんかもう、うちの馬鹿弟子がほんとにごめん」
舞台上でガッツポーズを見せつけるシオンの足元で、伽藍はどこか幸せそうに穏やかな寝顔を晒していた。




