第2話
「いや〜それで、なんか気が付いたらアイツのことどうでも良くなっててさ〜」
「マジで?千鶴、アンタ凄いね。私だったら半年は引きずるよ?」
「光穂は気にしすぎなんだよ。フラれたんならそこまでじゃん。相手と関わる機会は一切無くなると思っとけばどうでも良くなると思うんだけど」
「やっぱアンタには敵わないわ。尊敬する。女として見習うわ」
帰宅後。
電車で他の人から主に顔をチラチラ見られていた私はすぐに洗面所に行った。
そこには涙で化粧が崩れ目の辺りが黒ずんでいる見たこともない妖怪……メイクの下手などっかのオバハンが写っていた。
あれは一体誰だったのだろうか。
さっさとシャワーをビールとポテチを取り出した私は、同じ職場で親友の光穂と電話をしていた。
「あ〜っ、ビール最高〜!!」
光穂こと立花光穂は、私と同じ大学出身ということで仲良くなった同僚だ。
学舎で会ったことは無かったが、共通の教授の話題で盛り上がって仲が深まった。
「千鶴、また飲んでんの?」
「いいじゃんいいじゃん!今日は特別〜」
「一昨日あった飲み会でもたくさん飲んでなかった?」
バリボリとポテチを噛み締めて椅子に深く腰掛ける。
ちなみに私は断固として、うすしお派だ。
これだけは譲れない。
完全に閉まりきっていないカーテンの隙間から、星の少ない夜空を見つめる。
何となく夜風に当たりたくてベランダに出ると、ビールを飲んでるのに少し肌寒かった。
冬が近づいているのだろう。
「はぁ〜、でもどうしよう。これから相手なんて見つかる?」
「確かにウチらもう27だもんね。そろそろ結婚して子供の一人や二人は欲しい」
「ねぇ待って。ホントにわかんの。カッコよくて優しくて誠実で紳士な人いないかなぁ?」
ちなみに、大智みたいな男はゴメンだ。
甘い言葉をかけてきたくせに他の女を選んだ男。
アレはもう願い下げである。
「光穂は気になる人とかいないの?」
「いやぁ、それがいないんだよ。ウチらは社内恋愛禁止じゃん?ていうかそれ以前にタイプの男がいない」
「まぁね、それはそう。誰か紹介してくれたらな〜」
私はそう言って伸びをした。
今日も疲れた。
デスクワークは元々酷い肩凝りがさらに酷くなるからあまり好きじゃない。
気持ちいー!と調子に乗ってさらに伸びてると、右手で握りしめていたスマホを落としてしまった。
「あ!」
「え?どした?」
光穂の声が聞こえたが、それどころでは無い。
私はベランダを超えて一階へ落下していくスマホを見逃すことなんて出来なかった。
スマホは私の第2のお友達。
大好きなゲームが入ってる。
今日はこれからログインして念願の25連ガチャを引く予定なのに!!
URの新キャラを引けぬままスマホが死亡なんて、私には耐えられない。
そう思うと私の体は考える前に動いていた。
「待って、私のスマホッ……!!いやっ逝かないで!!」
思い切り腕を伸ばすが届かない。
これ以上伸ばせば私も一緒に落ちてしまう。
その時だった。
手すりを掴んで身を支えていた手がツルッと滑り、私の体は前に傾いた。
「あっ!!」
終わった。
スマホと一緒に私も終わった。
数秒後、私は地面に勢いよく身を打ちつけられた。
あまりの痛みに体を動かせない。
スマホ、とひたすらスマホの無事を祈る事しか出来なかった。
これ、骨何本折れたんだろ。
最悪の場合、明日から仕事なんて行けないかもしれない。
色々なところが熱くなっている。
あれ、もしかして思ったよりたくさん血が出てるのかな。
そっかーと思っても、もう遅かった。
光穂との電話、まだ終わってないのにな。
明日も仕事行かなきゃいけないのに体が動かない。
それに、ゲームだってログインすらできてない。
25連ガチャの為に今日まで頑張ってきたのに。
これならスマホのために腕を伸ばすなんてことしなきゃ良かった。
また新しいのに買い換えれば良かった。
意識が朦朧としてくる。
誰かのキャー!!と悲鳴が聞こえたのを最後に、私の意識は完全に途切れた。




