第9話 動き出す善意という名の悪意
町屋太郎が再度、シュマから逃走を図り民家の壁に激突。
新しいスキルとして「パン調理」を手に入れた頃。
「報告します! 先ほど、大天使の管理している国で一人の男が死亡しました」
「いちいちその程度の事を報告しなくて良い」
「報告は最後まで聞けよ馬鹿上司」
「……今なんと?」
「簡単にまとめます。不審な事象が確認されたので報告に伺いました」
白で統一された部屋。
その部屋の主が、報告に来た部下を睨めつける。
「我々、天使は世界の運行を管理する者。人が生きたり死んだりするのは必然。それに何の不審があるというのだ」
「生き返りました」
「……今、何と」
「悪いのは頭だけにしてください。耳まで悪くなったら引退ですよ」
「減給1割」
「すでに今月も0円なので、言いたい放題言って良いってことですよね。ばーかばーか! 無駄にひげ伸ばしてるせいで、タバコ吸ったときに燃やしたアホ天使っ!!」
部屋の主は部下を鉄拳制裁する。
「おいぃ!? 令和の時代になって、暴力ですか!? 労働基準監督署に言いつけてやる!!」
「天使は管轄外だそうだ。そんなことよりも、報告を続けよ」
「あー、堕天したい。まぁいいや。報告っすね」
「……そろそろ仕事モードに切り換えろ」
部下の天使は咳払いをひとつし、上司へ報告を始める。
「大天使シャフリーヴァル様が統治している世界の中にあるひとつの国で、一人の人間が死亡しました。しかし、間を置かずに蘇生した模様です」
「計測器の誤りでは無いか」
「あり得ません。最新型に交換してまだ3日です。また、始業前点検は行われています。記録簿もきちんと記されています」
「となると、本当に死んで生き返ったと」
「そう考えるのが妥当かと思われます」
上司の天使はあごひげを撫でる。
少し燃えたので、やや不格好になっているが。
「世界の運行上、死んだ者は生き返ってはならない。そうだな」
「その通りです。ですが、今回は生き返っている」
「まぁ、1度くらいであれば『仮死状態』と言うこともあるか」
「それが、1度ではありません」
「というと?」
「計測器が誤っていなければ13回か14回かと思われます」
「何だとっ!?」
机の上に置かれていたコーヒーの入った紙コップが落ち、黒いシミを白い床に広げていく。
「だから変なので報告に来たって訳ですよ、馬鹿上司」
「……お前の言いたいことは分かった。――そろそろ馬鹿上司っていうの辞めないか? 馬鹿って言った奴が馬鹿なんだぞ」
口げんかをしながら、上司の天使は机の引き出しにしまってあった一冊の本を取り出す。
ページをめくり、ひとつの項目を探し当てる。
「あった。『死んだ者が生き返った場合は経過を観察せよ。複数回繰り返される場合、天使長に報告の上対応を協議すること』と作業標準書に記されているな」
「……もうすぐ定時なんで、明日にしません? 可愛い子、呼んでるんですよ」
「ダメだ。給料を100倍出すから残業を頼むぞ」
「0を何倍しても0でしょうが。――女の子達に断りの電話入れてきます」
部下の天使が退出する。
閉じられた扉を見て、上司の天使はため息を漏らした。
「世界の運行を乱す者は処分しなければならない。それが世界を公正に運行するということ」
机に置かれた書類を確認する。
そこには
明確な異常事態。単一人物による複数回の死亡、及び蘇生が行われたことの確認。対象名「町屋太郎」
と記されていた。




