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第16話 俺の、過去

「あ!? 何見てんだよ、ぶん殴るぞ」


 コンビニでダチと屯(たむろ)し、バカ話をする。

 なんの価値も理由もない。

 そんな無駄な時間。

 無意味な俺にはちょうど良い。


「おい、おっさんさ。メーワク料って奴だよ。金寄越せや。そうだな、3万で許してやるわ」


 親がよくわかんない新型の感染症で死んだ。

 死に目に会うことも許されず、再会できたときは燃やされて骨になった後だった。

 そのとき、俺は悟った。

 ――人生に、生きることに、何の意味も無いのだと。


「おい、太郎……。お前、何してんだ」

「あ? 何だ田中か……。テメーにはカンケーネーだろ、黙ってろや」


 俺は田中に殴りかかる。

 そんな俺の腕を掴み、一本背負いの要領で地面に叩きつけようとしてくる。

 俺は気合いで足から着地する。


「……コンクリに叩きつけたら死ぬだろ。ザケてんのか、田中ぁ!!」

「あ? 親友の望みを叶えてやろうとして何が悪い。――お前、死にたいんだろ」


 心臓が跳ねた。


「自分より強そうなおっさんにオヤジ狩りを仕掛けて、反撃されたい。先輩の女に手を出して報復されたい。――俺にはお前が弱虫にしか見えねーんだよ」

「……俺が、弱虫? ざけんなよ」

「ふざけてなんかいねーよ。事実しか言ってねーよ。じゃあ逆に聞いてやる。なんで自殺しねーんだ!!」


 田中の拳が俺を襲う。

 俺は、それを避けずに受ける。

 ――痛い。

 ――いたい。


「……ここじゃ迷惑になる。場所変えるぞ。逃げんなよ、臆病者」

「……河川敷か?」

「あぁ」


 小学校の頃、一緒に遊んだ河川敷公園。

 俺たちはそこで殴り合う。

 いや、俺は田中に一方的に殴られる。


「おい、どうした? 殴り返して来いよ、ビビってんのか? 雑魚が」

「……」


 俺は口の中に溜まった血を吐き捨てる。

 そして、拳を握る。


「……やっと体が温まってきたとこだ。チョーシくれてんじゃねーぞ田中ぁ!!」


 俺の拳が田中を捉える。

 鳩尾を狙った一撃。

 田中はそれを受け止める。


「……一発で相手を戦えなくしようとするか。なんだお前、まだ生きたいんじゃねーか!!」


 田中に殴られる。

 ――いたい。

 ――居たい。

 ――まだ、死にたくない。


「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」


 俺は絶叫する。


「うるせぇ!!」


 そして田中に思いっきりぶん殴られて、意識を失った。

 気がついたときに目に入ってきたのは、白い天井。


「……知らない天井だ」

「いや、お前。俺んちが病院なの知ってんだろ」


 田中の家。

 親が経営している病院のベッドに俺は寝かされているようだ。


「お前さ、俺が何人ここで人の死を見てきたと思ってんだ」

「……」

「お前が死ぬのは勝手だ。好きにしろ。だけど、無意味に死ぬな」

「……意味があれば良いのかよ」

「さぁな。そもそも生きる意味なんて誰にもわかんねーだろ。それを探すのが人生だ。って、3日前までそのベッドに寝てたじーさんが言ってたわ」

「そのじーさんは?」

「死んだよ。満足そうな顔してた」


 俺の生きる意味は何だろう。

 親が死んだ時に無くなった。

 そう、思っていた。


「……俺、生きていて良いのかな?」

「しらね」

「冷たいんだな」

「まぁ、どうせいつか死ぬんだ。それまで生きれば良いだろ」


 田中の言葉が、心の氷を溶かしていくように感じた。


「……死ぬまで生きるか」


 生きる意味は分からない。

 生きる理由も分からない。

 でも、死ぬまで生きてみるか。

 ――それから2年が過ぎた。


「あぶねぇ!!」


 通学のためにバスを待っていたとき。

 居眠り運転の車に小学生の女の子が轢かれそうになっていた。

 俺は咄嗟に走り出し、その子を突き飛ばす。

 宙に舞う俺の体。

 まだ朝だというのに、太陽光でめっちゃ熱くなったアスファルトに叩きつけられる。


(……あの娘は助かったのか?)


 薄れていく意識。

 俺が突き飛ばした女の子が泣いている。


(よかった……)


 そして俺の意識は闇に落ちていった。


<すみませんでしたー!!>

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