6話 入学 2
入学式が終わった後、十五分の休憩をもらったのでもう少し寝ようとしたら伊月から頭を叩かれた。伊月と休憩時間は過ごさないといけないんだった。じゃないと引き込まれるんだった。
「明日は予定ないか?」
「いつも通りないけど、どうして?」
「頑張ったご褒美あげてなかったからな」
「もしかしてイチゴパフェ!!」
「あぁ俺の奢りでな」
「やったぁ! 伊月、大好き」
伊月がこの学校に受かっていたらイチゴパフェを奢ってくれると言っていたのを忘れていたがくれるなら全力で貰いに行く。そういえばテンションが上がりすぎて伊月に抱きついたけど、怒ってないかな? よく注意してくるから顔色を伺うと固まっていた。
照れているって訳では無さそうだな。顔が赤くなっていないから恥ずかしがっているのはないのか。まぁ僕に抱き付かれたってだけで恥ずかしくなるようなタイプじゃないよね伊月は。緋華さんならそうかも知れないけどね。そろそろ離れないと何を言われるのかが分からないな。ん? あれ?
「あの〜伊月さん?」
「誘ってきたのはそっちだろ」
「それは君の方じゃないかな。パフェを食べに行くって」
「・・・そうだったな」
「大丈夫?」
「いや……ダメそうだ。もう少しこのままでもいいか?」
「もちろん」
伊月の息遣いが少し荒いような気がするんだけど気のせいだよね。この状況は昔に経験したことがあるなぁ。捕食する対象が自分から近寄ってきた際に見せる生物特有の興奮だ。伊月は存在的には圧倒的に上で僕は最下位に位置するだろうから。
このままでは喰われるのがオチだね。よだれを垂らしていないから捕食の心配はないけど別の意味で捕食されそうで怖い。ここは教室だから絶対にしないって分かってはいるけど、こうゆう場面では身体が強張って仕方がないかな。まぁ伊月ならそんな事をしないって分かってはいるけどね。
「ほら充分満足できた」
「それはよかった。いやぁ食べられるかと思ったよ」
「そういう事を簡単に言うとそのうち喰われるぞ」
「伊月なら大丈夫でしょ」
正直に言えば喰われるとは思っていたけど、そこは信用しているってことなんだ。おそらく緋華さんなら僕を迷わずに喰べにくるからそんなことは言わない。二人は保育園からの付き合いだけども長くいた時間は伊月の方が多い。緋華さんも信用はしているけど……自分のストーカーをしている人に完全な信頼を置けるかと言われたら無理だ。
だって怖いもん。ストーカーを好きになった僕が言えることではないだろうけど普通は相当怖いよ。あの人、気配なんて一切感じさせずに僕の背後に立っていた時もあるもん。それを考えたらよく僕は緋華さんを受け入れたなぁ。あの時に助けられたってのが大きいのかな。
「雨歌、トイレとかは大丈夫か?」
「うん問題ないよ。伊月は?」
「俺もないな」
なら何も問題ないね。放してもらった訳だし自分の席で寝よう。自己紹介なんて適当でも何も問題はないし、誰も僕のことなんて見てないし興味なんてないだろうからね。高校生になったわけだし伊月と恋バナとかするのもアリかな?
普通に考えて伊月は緋華さんが好きな事だろうからね。二人で僕抜きで出掛けていたところを何度も見ているから……伊月や緋華さんのどちらかと二人っきりで出掛けたことなんてほとんどないのに……羨ましいな。仕方ないか二人は婚約者同士なんだしね。
「忘れてた。今日は俺の両親と緋華の家族も集まるからな」
「なんで!!」
「そりゃ俺らの入学式なんだぞ? 当たり前だろ」
「いやいや……中学生の時なかったよね?」
「あ〜それはな。俺のせいなんだよ」
伊月は一体何をやらかしたのかを問いただしたいけど、それをするのはやめておこう。伊月とご両親は仲が良いので無理やり聞き出すのはそれは違うだろうからね。冷静になってから考えると僕らはここが教室のど真ん中だということをすっかり忘れていた。
「あ〜仲が睦まじいのはいいことだぞ?」
「狗谷くん……これは違うんだよ」
「分かっているから安心しろ。二人は付き合っているんだろ?」
「それは勘ち_」
「狗谷……正解だ。だから他の奴らにも広めておけ」
勘違いを正そうとしたら伊月に口を塞がれた。勘違いを加速させる事を言うんじゃありません。それは伊月が困る筈でしょうが!! 僕は……違うけどもぉ、困らせたい訳ではないからちゃんと訂正しなさい。直接言っても伊月は絶対に訂正なんてしないよね。
「お前ら、席につけ」
(また後でな)
最後に耳元で囁いてこられたのでゾクっとした。くそぉこのままやられたままでいれるかよ。ただ先生が来たから仕方なく僕は席で大人しく座るしかない。この時間を使って伊月への仕返しを考えてやるからな。覚えておけよ。時間はたっぷりとあるわけだからね。
「言っていた通り自己紹介からだ。そこのお前からな」
「え?」
一発目で僕が指を指されてしまった。自己紹介なんてのは一切考えてなかったからここは勢いだけでやってやる。僕は立ち上がり無難に名前や趣味を言ったがここで名案が思い付いた僕は天才だと思う。僕は伊月の方を指差し「そこにいる津堂伊月とは婚約者です」と間違えて言った。
・・・勢いで言うのは良くはないね。
恋人ってことを言ってやろうかと思ったのに勢い余ってとんでもないことを口走るとは思ってもみなかったよ。教室中は怖いくらい静寂に包まれてしまったよ。誰か助けてくれないですか? 入学早々にやらかすなんて……明日から引きこもろうかな。登校拒否でもすればみんな忘れるだろう。
「不澤は座れ」
「はぃ」
「津堂、自己紹介をしろ」
「はい! 先ほどご紹介にあがりました。津堂伊月です。婚約者がいますのでそこのところお願いします。以上です」
「・・・次のやつ」
そのあとは何事もなく終わった。




