26話 古いボードゲーム2
➖病院➖
タクシーを使って病院内に入った。よく来ている場所だから……特に何も言われずに進むことが出来るけど、流石にこれ以上は病室を一つ一つ探すのは難しいかな? 母さんも気が付いてこっちに向かっているだろうから。
「あら? 雨歌くん?」
「羽生さん。僕の母の病室ってどこですか?」
「母? 涼音さ__あ~仕方ないか。案内してあげるよ」
「本当ですか!? ありがとうございます」
「いいよ。君には恩があるしね」
羽生さんは僕と同じ実験対象だった人だ。一度も研究所から出たことがなかったらしいけど、今は医師として誰かを救っている。立派な人だと僕は思うけど、その恩って一体なんなのかを知りたい。まぁ教えてくれないから分からないんだけどね。
「ここだよ。雨歌くん、覚悟はできているかい?」
「はい」
「君には残酷な現実だよ?」
「知りたいんです」
「・・・分かったよ。彼女が君の産みの母だ」
僕は羽生さんが開けたドアの中を見た。よく僕に暴力を与えては泣きながら謝罪していた人が今は……ひたすら何かをずっと探している。洗脳されていたって誰かは分からないけど母さんと話していた人が言っていたけど、一体どんな洗脳されていたんだろう。
「彼女は妊娠中に呪いを受けてね。赤ん坊を流産してしまったんだ」
羽生さんは病室に入れずにいる僕に言い聞かせるように話始めた。母が何故、父さんたちを見捨てあの男の下に行ったのかを。羽生さんは母が来るずっと前から居る筈なのにどうしてそんなことを知っているんだろう?
少しだけ警戒しておかないと。羽生さんじゃないかもしれないから護身用も準備しておいて何かをされてもすぐに対応できるようにしないと。流石に改造された人間って言っていたから大丈夫だよね? あまりに力差があったら泣くから。
「この話は研究員から又聞きしただけだよ。だから力を抜いた方がいいよ」
「・・・母は騙されたんですね」
「というよりは……心の傷に付け込まれたかな?」
「最悪だったんですね。僕の元父は」
「あぁ、だが良かったのは君が誕生したことだ」
「そうですかね?」
「少なくとも此処に一人そう思っている人物がいる」
羽生さんは自身を指さして言い放った。僕は深呼吸して病室に入る。流石にここで話し続けるわけにはいかないと思った。僕はカバンから自作したボードゲームを出してゆっくりと母に忍び寄る。驚かせないように慎重にゆっくりと。
「・・・」
ドアから四歩くらいの所で母がこっちを振り返って来た。久しぶりに見る顔は酷く痩せていたし、こちらを見る目は……僕を捉えていない。分かっていたつもりだったけど、母が視ているのは僕じゃなくて別の何かなんだろう。
このボードゲームで遊んだ時も僕を通して何かを視ていたんだ。あの時は初めて母にしっかりと遊んでもらって嬉しかった。けど心のどこかで分かっていたのかもしれない。この人は僕を”子”として認識していないんだって。
「・・・私の子供?」
「お、母さん?」
「あぁぁ私の子供じゃぁあないぃ」
「ウっ!?」
一瞬だけ期待したらコレだ。僕に向かって母は花瓶を投げて来た。額に当たって血が流れてくるのが分かるくらい痛いけど、それよりも虚しさが勝ってしまった。こうなる可能性の方が高いと思っていたし、虚しくなるだけだとも思っていた。
それでも期待したかった。もう洗脳されていたとしても僕は母とはやって行けそうにない。自分勝手だとは分かっているけど……このボードゲームはここでさよならだ。僕は手作りした思い出をその場で破りゴミ箱に入れた。
「お母さん、ごめんなさい。僕はここに捨てていきます」
「雨歌くん……」
「羽生さん、コレで過去と区切りをつけることが出来ました」
「そっか。ハッピーエンドを期待していたんだけど、君がソレでいいならいいよ」
「ありがとうございます」
「手当てしようか? 涼音さんも来るだろうし、それまでは一緒にいるよ」
羽生さんに再度、お礼を言って母の病室を後にした。
―???視点―
二人が出て行くのを見送ってから……ワタクシは彼女に目を向ける。雨歌と言う名前をワタクシの娘に付けられたキメラによくも情が出来たモノですわ。みっともなく捨てられたゴミをかき集めながら泣いている彼女を蹴る。
「もう使い物にならないでしょうに」
全くもってワタクシ達のボスがコレを生かしているのでしょうか? ワタクシには分かりませんわ。この世界が出来る前から存在しているワタクシ達よりも優れたモノを作るのを目的としている組織を作るだなんて、イカレているに決まっているでしょう。
まぁワタクシ達はボスが言った「この間違った世界を正そう」に賛同したのですからお互い様ですわね。ふふっ、優れているモノは”原点種”と呼ばれているのしかありませんがよろしいのでしょうかね? ボスが望むのが何かは分かりませんが……
「コレを放置するのは望みませんわね」
ワタクシが折角、洗脳と精神の壊す薬漬けにしてあげたのですが……仕方ありませんね。ボスの命令は絶対ですから。コレならワタクシの娘をバラバラにしてキメラにしなくても良かったかもしれませんね。娘が反対したのが悪いので仕方ありませんか。
さてさてまずは解毒薬を無理やり飲ませて、次に洗脳を解除しないとですが洗脳されていた時の記憶が残ってしまいますが、それは耐えてもらわないといけないですわ。さぁ!! いきますわよ。ここからが楽しんです。
「あ゛ぁぁぁぁあ゛!!!!」
「すごいですわね。耐えていますわ」
「不澤さん、どうし___」
「うるさいですわよ? 少しお黙りなさい」
看護師が来ましたので、すぐに薬を注射して肉塊にしましたが……他にも来るでしょうから、ここは帰りましょう。あのキメラの雨歌……ですが次の機会に遊ぶとしましょう。・・・彼女は苦しんでいますがワタクシを殺すような目をしておりますわね。
「怖いですわね。貴女が望んだことでしょうに」
「ぜっだいにゆるざない」
「ふふっ、貴女は家族に許されないでしょうね?」
子供を利用されているとも知れずに子を産み、そして知ったら逆上するとはなんとも愚かなのでしょうね。あの転生者が何を言ったのかは知りませんがお望み通りにしてあげ__集まって来ましたわね。
「それではごきげんよう」
ワタクシは霧のように病室を去りました。




