21話 重たい愛1
➖保健室➖
僕が目を覚ますとそこは見知らぬ天井であの研究所を思い出させるようなものだったけど、伊月と緋華さんの声が聞こえるから違うと分かった。二人がいるってことが分かったので起き上がろうとするけども力が入らない。
「あら、目覚めたのねぇ」
「貴女は……」
「ヴァルよ。ここの先生ね」
「二人は?」
「緋華ちゃんは、担任を呼びに。あの男の子は……罰を受けているところよ」
伊月は一体何をしたのさ。まぁ二人とも無事ってことが分かったからよかった。安心してあの時何があったのかを思い返す。僕が誰かに捕まった後、伊月の妖力が消された。体に力が入らなくなって、何かを僕の口に彼女は無理やりねじ込んでそれを飲み込むしかなかった。
僕が飲み込んだのを見た後、嬉しそうな声を出した。このまま攫われる可能性もあるから逃げる隙を伺いながら彼女に体を触られるのを我慢する。時間の流れが普通ではなかったのかは僕では判断できないけど、我慢するのは数秒だった。
彼女の右肩に刀が刺さっていた。痛みで拘束が緩んだから申し訳ないと思いつつも彼女を蹴って出口へと吸い込まれた。そしたら伊月と緋華さんに会ったということをヴァル先生に話した。
「記憶も問題なさそうだし、まぁ安静しておかないとね」
「そうしますが……伊月は?」
「幻術にかかっている状態ね。あと10分くらいはあのままよ」
「大丈夫なんですか?」
「えぇ何も問題はないわ。子供にお灸をすえるだけだもの」
ってことは普通に危ないものあるってことですね。怖い。まぁ先生ってことだし僕らが問題を起こさなければ、幻術はかけてこないと思う。一体何を見せられているのかは想像したくないけど、伊月がここまで唸っているのは珍しい。
格上の幻術はかかるって言っていたから先生は伊月よりも上ということは分かった。僕では絶対に太刀打ちなんて出来ないからこの人には逆らわないでおこう。笑顔がなんだか怖いし、惹きこまれそうだから油断しないようにしないと。
「魅了が効かないのね」
「チャームってアレですよね。うんざりするほど受けましたから」
「そこにいる彼も緋華ちゃんも効かなかったのよねぇ」
「伊月は幻術を喰らっていますよね?」
「ソレはまた別よ。動揺させれば一発ね」
やっぱりこの人は油断ならないじゃん。どうゆう内容で動揺させられたかは知らないけど散々僕に注意しておいてこのざまとはねぇ。少しだけイタズラしたくなるけど体が動かないから出来ない。そういえばコレってなんでだろ?
「あの……体が動かない理由って分かりますか?」
「簡単よ。君の中にあった彼の妖力が無くなったからよ」
「それだけでこうなるんですね」
「長い期間、注がれればそうなるわね。君の場合は身体も作り変えられているみたいだし」
「動けるようになるのには伊月の妖力がいるって訳ですね」
「そうねぇ。本来ならリハビリしてもらうんだけど……」
ヴァル先生は続きを言わなかった。いくら僕が頭が悪いと言ってもその続きくらいは予想は出来る。僕は伊月無しでは生きられない体になったのだろう。伊月がどこまで考えてそれをやったのかは僕は分からないけど、それでもいいと思った。
伊月がもしあの時、助けてくれなければ僕は一生……考えるのはやめよう。今は休むことに集中しておかないと。あとで緋華さんにぐちぐち言われそうだなぁ。それもうれしいからいいんだけど___
―津堂伊月視点―
「はぁ、坊や。目を覚ましているのでしょう?」
「よくわかったな。演技出来ていると思ったのだが」
「坊や達よりも長生きだからねぇ」
「年寄りって奴は面倒だな」
「それで坊やは依存させてどうしたいのかな?」
このサキュバスの幻術はかかったと同時に無効化はしたが念の為に演技していた。流石にバレていたみたいだが、そんなことはどうでもいいか。雨歌を依存させてどうしたいって俺から離れないようにする為に決まっているだろ。
雨歌が俺から離れていくと言われてしまったら依存させて囲い込むしかないだろ? そんなことは常識の範疇だろうに。悪魔の常識は知らないが原点種では当たり前になっている。そのせいで街や村が消えるなんてよくある話だ。
過去にやらかした奴らと同じだとは思われたくはないから俺はそんなことはしない。それに雨歌が悲しむからしない。あの研究所にいたバケモノを俺の術で殺した時にアイツは悲しんでいた。自分が襲われそうになっていたのにだ。
雨歌に仕込んで自動で発動するタイプだったから俺は状況を知らなかったが、目の前で苦しんで死んだのを悔やんでいた。だから殺すというよりかは、気絶させる方向に切り替えた。必要とあれば殺すが……必要とあればの話だ。
「アンタらは別にいいかもしれ___」
「雨歌は受け入れてくれるさ。俺無しではもう生きれないんだろ?」
「専門家じゃないけど、私が見る限りではね」
「それだけで十分だ。俺と緋華で、雨歌を囲い込む」
「コレだから原点種は嫌いなのよ」
「俺は素であればアンタのことは好きだな」
そういうとババァは睨んできた。このババァからしたら屈辱だろうなぁ。嫌いな原点種の一体にそんなことを言われたらな。まぁそんなことは俺としてはどうでもいいから無視だな。殺すには手間取るが何時でも殺れる相手だからな。そういえば殺す前に聞いておかないとな。
「背後に忍ばせようとしている眷属は殺してもいいのか?」
「ちっ、気が付いていたのね」
「もうお前らには背後を取られたりしねぇよ」
「はぁ……坊やには何を言っても聞かなさそうだしいいわ」
「そうだな。邪魔するのは排除されるからその方がいいだろうな」
「・・・」
全く悪魔って奴は気配も音も無く背後を取るのが上手いらしいな。まぁタネが分かってしまえば簡単だから取られることはないだろう。・・・雨歌はよく寝ているな。今の会話を聞かれたら、嫌われるかな?
その時は催眠術を掛けるなり、すればいいか。雨歌は薬が一部は無効化するし、魅了も効かない。極まれに瘴気を出す者がいるがそれも無効化してしまうのだから困る。まぁ全部あの研究所で受けた実験のせいではあるがな。
逆に催眠術や暗示などには弱い。言霊も試してみたがすぐにかかった。俺は持っていないし、希少だが魔眼にも弱いだろう。だから妖力で守る必要があるんだがコイツらは分かっていないな。
「原点種の重たい愛はどうにかならないの」
俺は愛しい雨歌を撫でていたらヴァルにそんなことを言われた。まぁ無理だな。




