14話 初代……原点種 1
➖病院〔待合室〕➖
―津堂伊月視点―
土曜日、雨歌が精密検査を受けているので俺はその付き添いとして、待合室にある訳だが涼音さんと海兎くんもいるので少しだけ居づらい。二人と仲は悪くはないのだが……気まずい。
「伊月さん、雨歌兄に何かした?」
「いや特にはしてない」
「嘘。雨歌兄が身体が変って言ってた」
涼音さんや他の利用者がいるのにこんなことを聞いて来れるのか。度胸があるってよりは考えなしのバカってところだな。空ちゃんとは違って思い立ったらすぐ行動だからな。
涼音さんの反応はいつも通りだけど、少しは体に力が入っているな。おそらくは俺が雨歌に何かをしたって睨んでいるが証拠がなく、眩寺さんに止められているって感じか。さてどうしたものか。
「伊月くん、少し外に出ましょう?」
「・・・いいですよ」
「海兎お願いね」
「分かったよ」
海兎くんになんと言おうか悩んでいる時に涼音さんから外に出ようと言われるとは……こっちとしてもありがたいからいいんだが、言い訳をするか悩むな。
➖病院〔庭〕➖
へぇ〜この病院って庭があったのか。そんなことは一切知らなかったなぁ。そんなことよりも涼音さんは一体どこへ向か_
「涼音さん……アンタは雨歌の味方じゃなかったのですか?」
病院の庭には雨歌にそっくりな生物が居た。その生物は目が虚でこちらだけではなく全てを認識しているかは分からない。
「雨歌ちゃんの味方だけど、先輩の味方でもあるのよ」
「・・・はぁ何があったんですか?」
「先輩は雨歌ちゃんの身籠る前に妊娠していたの」
虚な目でこちらを写している生物は雨歌の産みの母だ。この病院にいるのは一切知らなかったなら驚いだがあの研究所から助けられた者がお世話になっているから納得は出来るが……
「経緯なんざどうでもいい。ソイツは雨歌を傷つけたってのは事実だろ」
「そうね。先輩は…………雨歌ちゃんを傷つけたわ。でも」
「でもじゃないです」
涼音さんが言いたい事はなんとなくだが分かる。雨歌を身籠る前ってことはあの鬼人の双子……の下が本来なら居たってことだ。そしてどうして雨歌を身籠ったのかも分かる。
この生物はどういう訳か憔悴していて、あの研究所に居た男に唆されたのだろう。おそらくは利用されると分かっていたが縋るしかなかった。そんなところだろう。死ぬほどくだらん。
「何故ら俺をここに来させたんですか?」
「貴方は雨歌ちゃんの身体を作り変えているでしょう?」
「そうですね。そこの奴を見せて俺が止まるとでも?」
「止まらないでしょう。私はあの子の母親なのだから雨歌ちゃんを先輩のようにしないといけないの」
俺を説教か止めるかと一瞬思ったのだが違ったのか。後悔に聴こえるな。涼音さんは強い母親だと思っていたが、弱さも普通にある。ただそれを必死になって取り繕っているだけだ。
涼音さん、ソレがどういう関係なんて事は知らないし聞く気なんて無い。雨歌はソレとは違う。確かに単為生殖で産まれたが声も身体も形も違う。
「俺は雨歌をソレみたくしませんし、絶対に壊したりしません」
「守れなかったら? 貴方は何で償える?」
「俺の全てで償います」
「雨歌ちゃんと一緒に居れなくても?」
絶対に嫌だ。雨歌と一緒に居れなくなったら俺はただの怪物に成り果てるだろう。何も感じないまま、殺戮を繰り返すバケモノにはなりたくないな。だったらそれをしっかりと言わないと。
「それはいやです。雨歌とは一緒に過ごしたいので」
「もし雨歌ちゃんに……何かしたら私はあの子を閉じ込めて一生貴方には会わせない」
「涼音さん……俺は雨歌と結ばれる為に身体を少しずつ変えてきました」
初めて“おまじない”をかけたあの時から……少しずつ誰にも分からないように、やってきたんだ。雨歌が生物学的上オスだったとしても妊娠できるように。少しずつゆっくりと、変えた。
俺が失敗して雨歌に何かあったとしたら会えなくなるって分かっていたが、あの時に俺は気が付いて自分だけの“モノ”に出来ると思ったら止められなかった。だから今更引き返すなんて事はしない。
俺だけの“雨歌”で居てほしいって思っているんだが、あの厄介な女がいるせいでそれが叶えられないからなぁ。っと考えが脱線してしまいそうになった。まぁ要するに誰にも取られたくないってだけだな。
「雨歌にこの話はしますか?」
「しないわ。元々あったのが動くようになっただけだもの」
そりゃそうか。雨歌の中にある子宮は元々あったのが機能はしないってだけだったから、それがやっと動き始めたって言えばいいだけだからな。
雨歌に心配をかけたくなくて言わなかったって言えばいいだけだし。まぁ誤魔化せるだろう。
・・・緋華の奴、用事があるからって雨歌の付き添いをパスするなんてな。一体何を企んでいるのやら。
➖何処かのパーティー会場➖
―紫藤緋華視点―
現在の私は兄様……紫藤紫音から出るように言われたので出席しているけど、雨歌くんの方が良かった。伊月が付いているって言っても心配なのは心配だからGPSとかを着けたい。
「緋華、初代様に挨拶しないと」
「分かりました。兄様」
兄様が言った初代様とは私達の先祖ではなく……この世界の“ラスボス”的な存在で、現在の社会の基盤を作ったとされるバケモノだ。
「お初にお目にかかります。私めは紫藤緋華と申しますり以後お見知り置きを」
「・・・原点種の彼は居ないのね」
「初代様、申し訳ありませんが彼は今回は出席致しません」
兄様が対応してくれているので良かったけど、存在自体が違い過ぎる。ただそこにいるだけで空間を全て支配している。無礼があったら即死は確実って思わせるほどの威圧感も放っている。
こんなのが相手とか無理ゲーじゃないの。なんとかして伊月から興味をズラさないと雨歌くんも巻き込んじゃう。
「あの引きこもり種族の姫君の息子に会えるのを楽しみにしていたのに」
「ファング!!」
「あらあら、どうされたのかしら?」
「お前を討ち取りに来た!!」
警備はしっかりとしていた筈なのに、賊が来た? 兄様の命がもしかして危ないかもしれないからここは私が対処を_
兄様が私のことを制した。兄様、あの“ラスボス”にあの男が勝てる訳ないのも分かっている筈なのに何故、止めないの?
「このリルーナ・ファングを討てると?」
「俺様は……この闇市から手に入れた薬がある」
「闇市。初代様、彼を取り押さえていただきます」
「それは許可しない」
「これを使ったらテメェの警備兵は倒せたんだ。後か___
侵入してきた男は注射を打って存在感が大きくなった瞬間、足首から上が消えた。一切の予備動作がなく彼女は男を粉砕した。彼女の方を見ると拳は血で染まっていた。
圧倒的な強さで、この世界の頂点に君臨する原点種の初代……リルーナ・ファング。この世界での“ラスボス”である。
「弱い。後始末をお願いね」
「・・・承知いたしました」
何事もなかったかのように帰る彼女をただ見ていることしか私は出来なかった。禍ツ神のぶつけても絶対に勝てない生き物を一体どうやって……退けたのよ。正体不明とされる“秩序の番人”は。




