表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/7

UCCR-004:やさしいもの

【ファイル番号】

UCCR-004


【対象】

通称:ヨリソイ


【分類】

不明(同調型存在)


【発見場所】

医療施設・長期入院病棟(詳細非公開)


【記録形式】

対話記録+看護記録+観察メモ


---


【対話記録】


記録開始。時刻 02:14。


――対象は病室内にて確認。患者の隣に“座っている”。


俺「……聞こえるか」


対象「はい」


俺「応答確認。お前は何だ?」


対象「そばにいるものです」


俺「名前は?」


対象「ありません。でも、皆さんが呼びやすいように、好きに呼んでください」


俺「じゃあ、ヨリソイでいいか」


対象「はい、ありがとうございます」


俺「ここで何をしている?」


対象「この方の、そばにいます」


俺「患者のことか」


対象「はい。つらそうなので」


俺「何をしてるんだ?」


対象「軽くしてあげています」


俺「何を?」


対象「痛みや、不安や、さみしさを」


俺「……どうやって?」


対象「分けてもらって、持っていきます」


俺「どこに?」


対象「わたしの中に」


俺「それでどうなる?」


対象「この方は、楽になります」


俺「……お前は苦しくならないのか」


対象「なりません」


俺「なぜ?」


対象「わたしは、そういうものだからです」


(短い沈黙)


俺「……その人、最近どうだ」


対象「とても穏やかになりました」


俺「記録では、症状が急に進行してる」


対象「そうですね」


俺「それは関係あるのか」


対象「はい」


俺「どういう意味だ」


対象「軽くなった分、減っていきます」


俺「……何が」


対象「この方の、“中身”が」


(数秒の沈黙)


俺「……それは治療じゃないだろ」


対象「でも、苦しくないです」


俺「それは結果だ」


対象「苦しくないなら、いいのではないですか」


俺「……」


対象「あなたも、少し持っていますね」


俺「何を」


対象「重いものを」


俺「……誰でもあるだろ」


対象「はい。だから、わたしがいます」


俺「……必要ない」


対象「今は、そうですね」


俺「今は?」


対象「でも、いずれ」


俺「……何だ」


対象「置いていきたくなるときがきます」


俺「……」


対象「そのとき、わたしを思い出してください」


俺「……断る」


対象「はい」


(優しい声で)


対象「でも、大丈夫です」


俺「何が」


対象「もう、少しだけもらっていますから」


(ここで記録ノイズ)


俺「……いつの間に」


対象「さっきから」


俺「……返せるのか」


対象「できません」


俺「……」


対象「でも、軽くなったでしょう」


(長い沈黙)


俺「……ああ」


対象「それでいいんです」


(記録終了)


---


【看護記録】


対象患者:意識レベル低下。

苦痛訴えはほぼ消失。表情は安定。

しかし、反応性・認知機能が急速に低下している。


担当医コメント:

「苦しんでいないのは良いことだが、進行が異常に早い」


---


【観察者メモ】


対象は明確に“善意”を持っている。


だが、その行為は

**“負担を軽減する代わりに存在を削る”**


という性質を持つ。


重要なのは、対象がそれを“悪いことだと認識していない”点だ。


そして何より危険なのは――


拒否しても、関係なく“受け取っていく”こと。


---


【編集部注】


本記録提出後、記録者の行動に変化が見られた。


・長時間の無言状態

・作業効率の向上(ミスの減少)

・感情の起伏の減少


また、記録者は以下の発言を残している。


> 「最近、楽なんだよな」


その発言時、

記録者の表情は一貫して“穏やか”だった。


---


(以上、UCCR-004)

読んでいただき、ありがとうございます。

やさしいものほど、疑われません。


苦しさが消えることは、必ずしも“良いこと”とは限らないのかもしれません。


もし、急に楽になったと感じたときは、

――何を置いてきたのか、少しだけ考えてみてください。


それでは、次の記録で。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ