UCCR-004:やさしいもの
【ファイル番号】
UCCR-004
【対象】
通称:ヨリソイ
【分類】
不明(同調型存在)
【発見場所】
医療施設・長期入院病棟(詳細非公開)
【記録形式】
対話記録+看護記録+観察メモ
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【対話記録】
記録開始。時刻 02:14。
――対象は病室内にて確認。患者の隣に“座っている”。
俺「……聞こえるか」
対象「はい」
俺「応答確認。お前は何だ?」
対象「そばにいるものです」
俺「名前は?」
対象「ありません。でも、皆さんが呼びやすいように、好きに呼んでください」
俺「じゃあ、ヨリソイでいいか」
対象「はい、ありがとうございます」
俺「ここで何をしている?」
対象「この方の、そばにいます」
俺「患者のことか」
対象「はい。つらそうなので」
俺「何をしてるんだ?」
対象「軽くしてあげています」
俺「何を?」
対象「痛みや、不安や、さみしさを」
俺「……どうやって?」
対象「分けてもらって、持っていきます」
俺「どこに?」
対象「わたしの中に」
俺「それでどうなる?」
対象「この方は、楽になります」
俺「……お前は苦しくならないのか」
対象「なりません」
俺「なぜ?」
対象「わたしは、そういうものだからです」
(短い沈黙)
俺「……その人、最近どうだ」
対象「とても穏やかになりました」
俺「記録では、症状が急に進行してる」
対象「そうですね」
俺「それは関係あるのか」
対象「はい」
俺「どういう意味だ」
対象「軽くなった分、減っていきます」
俺「……何が」
対象「この方の、“中身”が」
(数秒の沈黙)
俺「……それは治療じゃないだろ」
対象「でも、苦しくないです」
俺「それは結果だ」
対象「苦しくないなら、いいのではないですか」
俺「……」
対象「あなたも、少し持っていますね」
俺「何を」
対象「重いものを」
俺「……誰でもあるだろ」
対象「はい。だから、わたしがいます」
俺「……必要ない」
対象「今は、そうですね」
俺「今は?」
対象「でも、いずれ」
俺「……何だ」
対象「置いていきたくなるときがきます」
俺「……」
対象「そのとき、わたしを思い出してください」
俺「……断る」
対象「はい」
(優しい声で)
対象「でも、大丈夫です」
俺「何が」
対象「もう、少しだけもらっていますから」
(ここで記録ノイズ)
俺「……いつの間に」
対象「さっきから」
俺「……返せるのか」
対象「できません」
俺「……」
対象「でも、軽くなったでしょう」
(長い沈黙)
俺「……ああ」
対象「それでいいんです」
(記録終了)
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【看護記録】
対象患者:意識レベル低下。
苦痛訴えはほぼ消失。表情は安定。
しかし、反応性・認知機能が急速に低下している。
担当医コメント:
「苦しんでいないのは良いことだが、進行が異常に早い」
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【観察者メモ】
対象は明確に“善意”を持っている。
だが、その行為は
**“負担を軽減する代わりに存在を削る”**
という性質を持つ。
重要なのは、対象がそれを“悪いことだと認識していない”点だ。
そして何より危険なのは――
拒否しても、関係なく“受け取っていく”こと。
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【編集部注】
本記録提出後、記録者の行動に変化が見られた。
・長時間の無言状態
・作業効率の向上(ミスの減少)
・感情の起伏の減少
また、記録者は以下の発言を残している。
> 「最近、楽なんだよな」
その発言時、
記録者の表情は一貫して“穏やか”だった。
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(以上、UCCR-004)
読んでいただき、ありがとうございます。
やさしいものほど、疑われません。
苦しさが消えることは、必ずしも“良いこと”とは限らないのかもしれません。
もし、急に楽になったと感じたときは、
――何を置いてきたのか、少しだけ考えてみてください。
それでは、次の記録で。




