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パーティ会場にて

表彰が執り行われた午後、議場に隣接されている壮麗な大広間では、祝賀パーティが盛大に開かれていた。

会場は、色とりどりの花々で華やかに装飾され、楽師による優雅な生演奏が会場全体を心地よい音色で満たしていた。中央に美しく並べられたテーブルには、舌を巻くほど贅を凝らした料理の数々が惜しげもなく並べられ、食欲をそそる芳醇な香りが漂っている。給仕人たちは、銀のトレイに載せたクリスタルのグラスを手に、熟練された優雅な足取りでゲストの間を巡り、最高のタイミングで飲み物を運んでいた。

会場のあちこちで、人々は和やかな会話に花を咲かせ、楽しげな笑い声が響き渡る。アルフォンスは、ベルンハルトやジークムントと談笑し、終始にこやかな笑みを浮かべていた。彼らの顔には、ようやく訪れた平穏への安堵が色濃く表れている。ファビアンは、兵団の同僚たちとグラスを重ね、互いの労をねぎらっていた。どの兵士の顔にも、長年にわたって彼らを悩ませてきた「死肉喰らい」という脅威が去ったことへの深い安堵と、未来への希望が満ち溢れていた。


『お待たせいたしました。若い魔法士達の準備が整ったようです。広間入口をご注目ください』


案内の声が響くと広間内は一瞬にして暗転し、同時に広間の入口にスポットライトが集中した。

厳かな雰囲気が漂う中、お仕着せに身を包んだ使用人がゆっくりと扉を開くと、息をのむほど華やかな姿のブルーノとクラリッサが登場した。


――ほうっ


会場からは、思わず感嘆の息が漏れる声が響き渡った。

ブルーノは、金糸の刺繍が豪華な白いタキシードに身を包んでいた。その着こなしと、彼自身の端正な容姿が相まって、会場に集まった兵団や魔法兵団の若い女性たちは、皆うっとりとした表情を浮かべていた。まるで物語の中から現れた王子様のように、彼の存在は周囲の目を釘付けにしていた。

クラリッサは、深みのある臙脂色のドレスを優雅に着こなしていた。そのスカートのドレープには、無数の小花が繊細にあしらわれており、それが動くたびにきらめき、まるで星屑が舞い散るようだった。彼女の纏うオーラは、会場にいる誰もを魅了し、その美しさに言葉を失わせた。

ブルーノに優しくエスコートされながら、クラリッサは優美な足取りで会場内を進んでいく。一歩一歩がまるで舞踏のステップのようにしなやかで、その姿はまるで絵画のようだった。

その後、エルマーにエスコートされたマーヤと、彼女に続くようにアルマとモニカが会場へと足を踏み入れた。

エルマーは薄い青色のタキシードに身を包み、その姿は会場の華やかさに一層の輝きを添えている。マーヤとアルマ、モニカが着用しているのは、ダウデルト子爵家でも着用していたドレスだ。これらのドレスは、今日の祝宴のために丹念に手直しが加えられ、細部に至るまで華やかさが際立っていた。特にアルマのドレスは、以前の懸念を払拭するように胸元がしっかりとホールドされており、破廉恥さは微塵も感じさせなかった。

会場の魔法兵団の集まるエリアから、ひときわ華やいだ声が上がった。


「マーヤ、素敵!」


その声は、マーヤの同僚たちのものであろう。マーヤは照れくさそうに顔を赤く染めていた。その様子は、普段の彼女からは想像できないほど可愛らしく、周囲に穏やかな笑みを誘った。

会場全体が、彼女たちの登場によって一層和やかな雰囲気に包まれていくのだった。


「まぁっ!」


そして、最後にディアナがイリーナにエスコートされて登場すると、広間には感嘆の声が漏れ、うっとりするような吐息が広がった。

ディアナは表彰式で身につけていた探索服とは一転、鮮やかなオレンジ色のドレスを纏っていた。それはまるで陽光を閉じ込めたかのような輝きを放ち、彼女の若々しい美しさを際立たせていた。一歩ずつ歩を進めるごとに、スカートのドレープが優雅に揺れる。アップにまとめられた髪型は、彼女の特徴的な尖った耳を強調するが、頭を覆うマリアベールがそれを上品に隠し、神秘的な雰囲気を醸し出していた。


「まるでお人形のよう……」


先ほどのマーヤの同僚が、うっとりした表情で呟いた。その言葉は、その場にいた多くの人々の心情を代弁していた。しかし、それ以上に他の貴族達は、イリーナがエスコートしていることに衝撃を受けている様子だった。

若くして海賊を壊滅させるほどの卓越した魔法士であるディアナは、今回叙爵(じょしゃく)されたことで、貴族達が目の色を変えて彼女を取り込もうとすることが予測されていた。

そのような状況下で、ディアナをイリーナがエスコートするという行為は、彼女が辺境伯家の庇護下にあることを明確に知らしめるものであった。それは、ディアナに手出しをするなという辺境伯家からの無言の警告であり、貴族たちの間で静かな波紋を広げたのである。


「やあ、久しぶりだな」


声の主は、会場に集う貴族や富豪とは一線を画す、壮年の大男。

白髪交じりの短い髪、日に焼けた褐色の肌、左頬から耳元まで走る生々しい古傷。鍛え抜かれた肉体は、仕立ての良いスーツをはち切れんばかりにパンパンに膨らませていた。

その男の顔を認めた途端、ディアナは露骨に嫌悪感を露わにし、すぐにクラリッサの影に隠れた。


「ご無沙汰しておりますわ。支部長」


ディアナに代わり、クラリッサが前に出て応じる。にこやかな笑顔を浮かべてはいるが、その瞳には警戒の色がはっきりと見て取れた。

クラリッサが不信感を隠そうともしないこの男こそ、探索士協会ヴィンデルシュタット支部の支部長、その人だった。彼の傍には、いつも受付嬢を務めるマヌエラが、まるで秘書のように寄り添っていた。

探索士協会とディアナ達は、一度揉めたことがあった。

彼女達が探索士に登録したての頃、ディアナの納める回復薬がたちまち評判となり、協会から多量の納品ノルマを課されたのだ。その理不尽さに憤慨したディアナは、ビッテラウフ商会からの指名依頼をきっかけに専属契約を結び、それ以降、協会へは回復薬を卸さなくなっていた。その経緯もあって、マヌエラはともかく、支部長に対しては良い感情をもっていなかったのだ。


「……そう警戒しないでくれ、あのときは悪いことをしたと思ってるんだ」


厳めしい顔立ちの支部長が、見るからにしょぼくれた態度を見せる。しかし、その態度はまったく信用できるものではなかった。彼はこの芝居がかった態度で、これまで何度もディアナ達から納入量を吊り上げてきた前科があるのだ。


「話が進まないので、支部長はもう黙っててください」


なおも警戒を解かないディアナ達に、傍に控えていたマヌエラが業を煮やしたように支部長の前に出る。ディアナのみならずマヌエラにまで邪険に扱われ、支部長は大きな身体をしょんぼりと丸め、すごすごとマヌエラの後ろに下がった。


「まずは、『死肉喰らい』の討伐おめでとう。彼らは探索士協会でも、莫大な懸賞金を賭けて追っていたお尋ね者なの。ただ、人数が人数だけに誰も手出しできなかったのよ」


探索士協会としても、ヴィンデルシュタットの治安を揺るがす海賊を放置するわけにはいかなかった。そのため、莫大な懸賞金を賭けて討伐依頼を出していたのだが、百名を優に超える規模を持ち、船によって神出鬼没な彼らに誰もが尻込みし、引き受ける者はいなかったらしい。


「たまたま」


ディアナは簡潔にそう言い放った。

もともとディアナ達は、半日ほどの遊覧を楽しむ予定で、海賊討伐などまったく念頭になかった。たまたま嵐に遭い、避難した先があの無人島だったのだ。もし遭難してなければ、島を探索することもなかっただろうし、ましてや海賊の拠点を見付けることもなかったはずだ。ディアナの言うように、まさに偶然が重なって「たまたま」発見しただけのことだ。


「それでも、長年塩漬けになっていた討伐依頼の達成は、探索士協会としても喜ばしいことなのよ」


マヌエラはそう言うと、にっこりと微笑んだ。

長年掲示していたものの、誰も引き受けようとしなかった依頼だ。マヌエラは冗談めかして「塩漬け依頼」と表現したが、彼女自身も、この厄介な依頼が解決したことに安堵しているに違いなかった。


「今回は、残念だけど依頼を受けたわけじゃないから懸賞金は出ないんだけど……」


そう言ってマヌエラが、深紅のビロード生地を三人の目の前に差し出した。


「これは?」


アルマが疑問の声を上げると、マヌエラはにやりと笑い、「これよ」と言いながら覆っていた生地をめくった。

次の瞬間、彼女らの視線を釘付けにしたのは、鈍色(にびいろ)の光を放つ三つの認識票だった。一つは黄金に輝き、残りの二つは銀色をしていた。それらはビロード生地の上に静かに置かれ、その存在感を際立たせていた。

マヌエラは、その認識票を眺めながら話し始めた。


「依頼を受けたわけじゃなくても、あなた達の活躍で解決したことは嬉しいのよ。だから懸賞金が出せない代わりに、実績ポイントはキチンと上乗せすることにしたの。その結果、あなた達は今日から昇級になるわ」


彼女の言葉に、アルマとクラリッサは思わず顔を見合わせた。昇級。その言葉が、実感を伴って二人の胸にじんわりと喜びが広がっていく。

一等級を示す黄金に輝く認識票には、ディアナの名が刻まれていた。そして銀色の認識票には、クラリッサとアルマの名が。共に三等級と記されていた。

一等級の探索士――それは、国外はもちろん、人類の生活圏の外側、魔物領域への探索にも行くことができる、名実共にトップクラスの探索士として認められた証であった。


「一等級なんて凄いわ、ディアナちゃん! 本当におめでとう!」


アルマは、ディアナの手を握りしめ、自分のことのように喜びを爆発させ、クラリッサもまた、淑やかながらも熱のこもった声で祝辞を述べた。


「ディアナさん、おめでとうございます。わたくし、ディアナさんならいつかは一等級になると信じていましたわ!」


クラリッサの言葉には、ディアナへの揺るぎない信頼と、共に歩んできた道のりへの感慨が込められていた。

彼女の言葉にアルマも深く頷き、「わたしもそう思ってた!」と続けた。二人は顔を見合わせ、満面の笑みを浮かべた。その笑顔は、ディアナの快挙を心から祝福している証だった。


「あ、ありがと」


ディアナは照れくさそうに俯いたが、その表情には友人への深い感謝がにじみ出ていた。そして、二人に促されるまま、彼女はそっと金色の認識票を手に取った。


「ほら、付けてみて?」


アルマの声に、ディアナは一度認識票を戻すと、首から古い銀色の認識票をゆっくりと外した。そして、再び新しい認識票を手に取り、丁寧な手付きで取り付けた。真新しい金色の輝きが、柔らかな光を放つ。


「……どう?」


頬を赤く染めたディアナが、上目遣いにクラリッサとアルマを見上げた。はにかむようなその表情は、普段の彼女からは想像もつかないほど愛らしく、アルマが思わず抱きしめそうになる。クラリッサに制止されなければ、その豊かな胸にディアナを埋めていただろう。

真新しい認識票は、彼女の着るドレスに負けないほどの存在感を放っている。しかし、決して主張しすぎることはなく、上品に首元でキラリと光りを放っていた。


「似合いますわ」

「似合うわよ」


笑顔を浮かべた二人の声が重なった。

その声には、ディアナへの心からの祝福と、変わらぬ友情が込められていた。

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