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24 記憶 雪原

 記憶は、その前日に遡っていく。




 車窓には単調な白い景色が広がっていた。

 ここ数年、日本に雪が積もることはなくなっていたが、今年は例外で、関西でも時折雪が舞った。


 この雪景色が隠しているもの。

 大地の様子を、生駒は知っていた。

 生駒だけではない。日本中の誰もが知っていること。


 かつての豊かな田園地帯と陽光溢れる街々。多くの観光客を集めた著名な温泉地。

 そんな郷愁を生む風土だけではなく、道路も信号機も、家々も、そして人々の姿も、何もかも、雪が覆っていた。


 つるぎ号は、特急列車とはお世辞にもいえないギクシャクした動きで、ノロノロと雪を掻き分けつつ北陸の地を進んでいた。




 生駒は、前に座った綾の顎の辺りを見つめていた。

 横顔に夕陽が当たっている。

 痩せた頬。

 美しい顔立ちに似合わない、がさついた肌。

 長い髪は健在だが、少女の頃の艶やかさはもうすでにない。


「雪よね」


 大阪から列車に乗り込んでから、はじめて口を開いた綾は、目の前に広げた食べかけの弁当に蓋をした。


「ああ、珍しいね」

「おじさんとの旅行も、これが最後になるのかな」


 生駒はなにも応えることができなかった。

 最後……。

 そう、かもしれない……。


「死にやしないよ」

「うん」

「何しろ相手は、女神なんだから」


 女神という言い方に、綾は久しぶりに目を合わせて、少し笑った。




 もう、どれだけ話し合ったことだろう。

 この旅は、自分が行かなくては。いや、自分のための旅なのだから、と主張し続けた生駒。

 私の出した結論に、自分で決着をつけたい、だから私が、という綾……。


 三ヵ月間、準備の傍ら、その議論は膠着し、こうして二人して日本海に沿って北上している。



 列車は加賀を過ぎた。

 もう何年も前に無人化された列車に、到着駅のアナウンスはない。

 そもそも、このあたりになると、乗客は数えるほどしかいない。二人が乗る車両にも他の人影はない。


 窓の外の景色が、微妙に変化し始めていた。


「ほら、見て」

 綾が声をあげた。

「雪が」


 深く降り積もり、白一色だった雪原に変化が起き始めていた。

 家屋の残骸が垣間見える。時折、かつては田園であったと思しき地形が見えたりする。

 雪解け……。

 山の緑が濃くなったようにも感じる。

 陽の光が少し強くなったようにも感じた。


「こっちは暖かいんだ」


 終着駅、金沢まで後四十キロほどだろうか。

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