24 計画のほんのスタートライン
かつての自分の意識。
それは、ある思い出。
今の自分の心の中にあるものではなく、海に溶け込んでいた記憶データ。
懐かしい思い出。
初めてその思い出をオットセイのような肉体が感じ取ったときは、コンマ一秒も留まることなく、電光のように流れ去っていった。
しかし数日後、次に自分の声が聞こえたときには、ほんの少しの間だけその記憶を弄ぶことができた。
そしてまた数日後、自分が始めて人を愛したときの感情や感覚に触れたときには、それを楽しむことができた。
やがて、JP01は海に溶け込んだ自分の記憶を自由に手繰り寄せることができるようになり、他の特定人物の記憶をも手元に呼び寄せることができるようになった。
宇宙船の着水から約一ヶ月が経過していた。
JP01は急いでいた。
時間がない。
準備がまだ整っていない。
JP01は当初の予定を変更し、回れ右をした。
ホーン岬を回り込み、大西洋に出よう。
目指すカリブ海は遠い。
早く彼女に会わねば。
そのこと自体、JP01の計画のほんのスタートラインにすぎない。
休むことも眠ることもせず、全速力で泳ぎ続けた。
エネルギーは、意識せずともこの肉体自身が海水から自動的に摂取してくれる。
永い宇宙生活で得た肉体は、空気も光もない空間においてさえ活動できるほど、超高効率のエネルギーシステムを備えている。
宇宙線であろうが熱であろうが、光であろうが、皮膚がエネルギーに変えてくれる。
様々なものが溶け込み、プランクトンの豊富な海水なら、そこからエネルギーを取り出すことは容易なことだった。
大気中を飛べば、格段に速く進むことができる。
というより、ほんの数分で目的地上空まで達することができるだろう。
しかしそれでは、いくら技術革新が停滞している人類とはいえ、こちらの動きを地球政府に捕捉されてしまう恐れがある。
しかも、これからやろうとしていることに必要な情報が入手できない。
大気中には人々の記憶は浮かんではいなかったからだ。




