23 海は知っている
声だけではない。
地球上のありとあらゆるシーンの断片が水に溶け込んでいた。
はるか昔の活気ある中国の街並み、農民が手にする米の一粒、シャワーを浴びる時の爽快感に至るまで、地球上の出来事のすべてがここにあった。
遠い過去のことだけではない。
地球という星に生きるものすべてが失われるかとも思われたあの大戦争も、その後の細々とした人類の記憶も。
そして自分たちが巡礼の旅に出るため、宇宙空間に飛び立ったときの様子も。
そしてそれらは特定の個人と紐づいていた。
意識、感覚、感情をもった誰かの記憶。
海水に溶け込んで漂っていた。
目には見えないが、あたかもスライドショーを見るように、様々なシーンがJP01の脳裏を次々と掠めては消えていった。
断片的な、意味ある言葉が聞こえることもあった。
言葉と共に、幸福感が心に広がることもあったし、悲しみが落ちてくることもあった。
過去から現在に至る数百年に渡る何百億人もの人類の、すべての人々の一人ひとりの記憶……。
それらがすべて、海という大きな器に盛られているのだと気づくまで、多くの時間は必要なかった。
泳ぎ始めて数日。
JP01は、日本列島が見えてくる頃になって、巨大な記憶装置としての海の機能の成り立ちを理解し始めた。
無限ともいえる膨大な記憶が、微細なデータの断片となって、海水を組成する粒子の粒に載せられていることに気づいたのだ。
そしてそれらが何らかの法則によって瞬時に並べ替わり、まとまりのある記憶となって連なっていくことにも気づいた。
JP01は泳ぐことをやめ、その法則を見つけ、自分のものにしようとした。
そしてついに、かつての自分の意識に触れた。




