その勧誘はお断りの方向で
ちょっとうちに婿養子として入ってくれないかなぁ? みたいなノリで言われた提案は勿論却下させていただくとして。
アレクセイさんもダメ元で言ったの八割本気二割くらいだったのか、断ったらそれ以上は食い下がられなかった。
いや、うん。
これでね、もっと食い下がられるような事になったとして、うちの娘一目見てから決めてくれ! とか言われたらさ、もうどうしようもないじゃん……
ご本人目の前にしてお断りしますってそれ、娘さん傷つける事になるじゃん。
いや、向こうからしたら結婚とかしたくない相手に断られたら結婚しなくてラッキー、とかなったかもしれないけど。政略結婚で同じく貴族の家に嫁ぐならまだしも、平民と結婚とか何の罰ゲームですの? とか言われる可能性あるよね。
まぁ貴族って言っても私の知ってる感じとはちょっと違う気がしてきたけれども。
いや、もしかしたら直接的な意味の娘じゃなくて親戚とかそっち系かもしれないからこの場に本人がいないだけの可能性もあるけど。
ともあれ、結婚の話は流れた。ここで粘られても困るのでそれはいい。
けれどもアレクセイさんは完全に引き下がったとは言えなかった。
ついでにリーゼロッテさんもだ。
なんでも私がギルドの手伝いに入った頃に一応私の事は調べたらしいんだけど、そこで無詠唱の使い手という事でかなり注目されていたのだとか。
無詠唱とはいえ私が使えるのは結界と治癒魔法だけなんですが。
でもまぁ無詠唱を使いこなせる人材って実のところそこまで多くないらしくて。
リースラント家は代々魔法の研究をしている家らしいんだけど、リースラント家だけがそう、ってわけでもなくてこの街の貴族の大半は割とそんな感じなのだとか。
あぁ、成程、だから私が思う貴族とはちょっと違う感じがしたのか……と納得した部分もあれど、ついでにだから前にいきなり養子にならんか、みたいな事言ってきた貴族の人がいたわけかとも理解する。
魔法の研究っていうのが具体的にどういうものかまでは言われなかったけど、それは当然だ。研究内容をそう簡単に明かすはずがない。情報漏洩した結果研究内容と結果まるっと別の所に奪われたらって考えたらそりゃあ大惨事の予感しかしないものね。
考えられるのはまぁ、生活をもっと楽にするだとか、失われた古代の魔法を復活させるだとかだろうか。よくある展開から想像すると。生活を楽に、というのを貴族がわざわざ研究するか? と言われると確かにちょっと疑問に思うかもしれないけど、庶民の暮らしを楽にする知識をもたらしたのはあの家の貴族なのです、みたいになれば後世にまで名を語り継がれる事になるかもしれないし、ましてや国の偉い人が普段何してるかわからないような平民からすると身近に伝え聞こえる貴族の方が凄いと思う可能性もある。
民衆の支持って場合によっては諸刃の剣な気もするけどね。国民の人気をとって王家を乗っ取る算段立ててるんじゃないか、とか疑われる可能性も出てこないとも限らないし。
でも同時に国のために役に立ちましたよ、って感じで国のトップとかそれに近い立場の人に取り入る事もできるからなぁ……そこら辺はまぁ私も知らんけど。
失われた古代の魔法に関しては復活させられるものにもよるけど、場合によっては戦争とかそういう物騒な事になりかねない。
流石にそこまでやるつもりがなくても、どこかの敵対とまではいかなくても対立してる派閥への牽制とか……うーん、政治的要素の絡むあれこれは私には難しいので他にも色々考えられる事はあるよ、って言われても想像がつかないな。
ちなみにその話の流れでルーウェンさんとディットさんがギルドに所属しているのは単純に魔法の研究に必要な素材を集めたりしてもらうためである、とも言われた。
まぁ、ギルダーなら確かにあちこち移動するにしてもおかしくはない。依頼で、となればよくある話だし。
貴族の大半が騎士団に所属している、とか言われてた割にこの二人がギルダーなのはなんでだろうと思ってたけどどうやら家の都合であるらしい。
この街の貴族の大半が魔法の研究とかしてる、ってさっき言われたけど、だったら騎士団ってもっと数が少なくてもおかしくないのでは……? と思ったけれど、そこについても言われた。
確かに研究してるのは大半の家だけど、その度合いがそこまででもない家の貴族が騎士団に所属しているのだとか。
あー、一応研究とかしてるけど、急ぎでもなくまたあくまでも小規模ってところは普通に騎士団、って事でいいのかな……?
大掛かりな研究とかして騎士団に所属してる余裕がないところはギルドに所属したりしているのだとか。
まぁ研究に関係ない依頼とかもゴロゴロしてるけど、どこかに移動するにしてもギルドに所属していると移動の際の手続きが楽に終わる事もあるみたいだからね。
ただの旅人だと他の町や村に行くにしても、こっちには何をしに? とかあれこれ聞かれる場合があるらしいけどギルドだと依頼関係で、の一言で大体終了するみたいだし。
国内ならともかく国外とかその手の審査? それこそ国内事情によっては簡単に終わらない所とかありそうだよね。依頼内容もある程度確認される事もあるらしいけど、それだって場合によっては多少言葉を濁す事も可能なわけで。
そう考えるとギルド所属してると確かに都合がいいのかもしれない。
ちなみに素材集めを手伝ってもらっているという話だけど、毎日大量に素材が必要ってわけでもないみたいだからある程度のんびりできているのだとか。
私は薬草メインだけどルーウェンさんとかディットさんは魔物の牙とか爪とか皮とかそういうのも集める事があるから魔物退治の依頼もあるギルドはまさに丁度いいのだろう。
で、私が無詠唱の使い手って事で目を付けたって話に戻るけど。
無詠唱ができる人って基本的に魔力が高い傾向にあるのだとか。
まぁ、詠唱って基本的に魔法を発動させるためのキーではあるけど同時に補助みたいなものだしね。
慣れないうちは絶対に詠唱必須だし、魔力量が少ない人は詠唱しなくても発動するけどした方が魔力の消費量もおさえる事ができるとか、ってのはレーゼリナさんから聞いた気がする。
私の威力しょぼくて攻撃には到底使えない、すっかり生活の手伝いにしか使い道のない攻撃魔法に関しては詠唱してもしなくてももう大差ないから詠唱しないで発動させてるけど。
いちいち洗濯物を乾かすだけのために風をおこすにしても、仰々しい詠唱は流石にちょっと……なんかこう、前世の中二病時代を呼び起こされて心が瀕死の重傷になりそうなので……
だってめっちゃカッコイイ詠唱とかしておいてだよ?
結果がただ洗濯物乾かすだけとかさぁ、途中経過から結果に向かっての流れが圧倒的にしょぼすぎやしないか?
これが魔物たちを薙ぎ払うような威力の突風が、とかならまだしも。
カッコイイ詠唱にカッコイイ演出もしくは結果はつきものだと思う。
で、魔力の高い人に研究を手伝ってもらえないかな、というお誘いをアレクセイさんとリーゼロッテさんにされたわけだ。
つっても研究内容分からんからどんな手伝いかもわからんけど。
これ軽々しく了承したらとんでもなく面倒な案件だった、とかになっても気軽にやっぱやめまーす、とはならんよね。かといってバックレるにしてもな……明らかブラックバイトとかで辞めるにも辞めさせてもらえなさそうなとこなら平気でバックレも検討するけど仮にもここはリースラント家。
ルーウェンさんとディットさんという決して仲が悪いわけではない知り合いの家。
そこバックレとか流石に今後ギルドで顔合わせるの超絶気まずくなるわ。
平気な顔していられる程私の神経図太くないんだわ。
なので申し訳ないけど研究内容もわからないし、かといって教えてもらったら引き返せるかもわからないのでやめておきます、とお断りさせていただく事にした。
私が魔法の研究とかに興味があって将来そういうの仕事にしたい、とかそういうタイプの人間であったならここで頷いたかもしれないけれど、私としてはまったりと薬屋やりつつ生活できてればもうそれでいいかな、って気がしてるからなぁ。
この年からもう人生決め打つってのもどうかと思わんでもないけど。
残念だが仕方ないな……と案外話の分かる感じに諦めてくれたので一安心。
…………と思っていたのだけれど。
ほんの今までしょんぼりした様子だったはずなのに、アレクセイさんのテンションは一転していきなりフィーバー状態になったのである。テンションのブレ幅についていけねぇ……




