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隣にいる君へ  作者: 8
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文化祭が終わって、一週間ほどが過ぎた。

文化祭の飾りも片付けられ、校内はすっかりいつもの空気を取り戻し、教室では授業や部活動の話が飛び交う。

けれど、里桜の胸の中だけは違っていた。

文化祭の日、智哉と二人で校内を歩いた思い出は、今でも鮮明に残っていて、 楽しかった時間を思い返すたびに、自然と頬がゆるんでしまう。

でも、その一方で――

(連絡先……聞けなかったな……)

昼休みにお弁当を食べ終えた里桜は、向かいに座る紗希を何度も見ては口を開き、また閉じた。

「ねぇ、紗希……?」

「ん? どした?」

「あの……その……」

言葉が続かない。

紗希は箸を置き、いつものようにからっと笑った。

「何? そんな改まって。」

里桜は意を決して、小さな声で尋ねた。

「……連絡先って……教えてもらうのって、できるかな?」

「連絡先?」

紗希は首をかしげる。

「え?普通に私と繋がってるやん?」

「あの……違うの……その……」

目を泳がせる里桜を見て、紗希はすぐに察した。

「あー、なるほど。」

にやり、と意味ありげな笑みを浮かべる。

「誰の連絡先知りたいのかな? 里桜。」

その一言で、里桜の顔は耳まで真っ赤になった。

「え、えっと……」

「……ていうかさ。」

紗希は楽しそうに身を乗り出す。

「文化祭の日、一緒に回ってたよね? あの時聞かなかったの?」

「……聞けなかった。」

「向こうからも聞かれなかった?」

里桜は小さく頷く。

「……うん。」

(あのへたれーーっ!!)

紗希は心の中で思い切り叫んだ。

「うーん……でも連絡先って、きっかけがないとなかなか聞けないよね。」

「……うん。」

しょんぼりと肩を落とす里桜。

その姿を見た紗希は、小さくため息をついた。

(まぁ、この二人らしいけど……)

そんなことを思いながら、苦笑するしかなかった。

その日の放課後、美術部の活動が思ったより長引き、里桜は慌てていた。

「急がなきゃ……!」

小走りで昇降口へ向かい、下駄箱の前まで来た、その時だった。

「あれ? 大宮さん?」

聞き慣れた優しい声が里桜の耳に入ってきた。

声のした方へ顔を向けると、そこには靴を履き替えている智哉がいた。

「今帰り?」

突然のことに、里桜は思わず固まってしまう。

(瀬田くん……!?)

頭が真っ白になる。

「……大宮さん?」

もう一度名前を呼ばれて、ようやく我に返った。

「あっ! せ、瀬田くん!」

「珍しいね。この時間。」

「えっと……部活が長引いちゃって。」

慌てながら答える里桜は、落ち着かない様子で何度も髪に触れてしまう。

そんな仕草を見て、智哉は少し微笑んだ。

「俺はいつもこのくらいなんだ。」

靴を履き替えると、自然と二人は並んで歩き始めた。

夕暮れの校門へ向かう道に少し冷たくなり始めた秋風が舞い、二人の制服の裾を揺らす。

「大宮さんって、いつも何で帰るの?」

「私はバスだよ。」

「ほんと? 俺も。」

思わず二人とも顔を見合わせる。

「え、同じ方面?」

「うん。」

それだけで、なんだか嬉しくなった。

校門を出て、そのまま並んでバス停へ向かう。

「今日は何を描いてたの?」

「文化祭で展示した絵の片付けとかかな。」

「そっか、お疲れさま。」

他愛もない会話をしながら歩くだけなのに、里桜の胸は幸せでいっぱいだった。

自然と笑顔がこぼれる。

そんな里桜を見て、智哉もつられるように笑った。

(……かわいい)

ふと、そんな言葉が胸に浮かぶ。

(今なら……聞けるかな)

文化祭の日に聞けなくて、その後も何度もタイミングを逃して聞けていなかった連絡先。

智哉は胸の鼓動を押さえるように、小さく息を吸った。

(……今、聞こう)

そう決めても、口が開かない。

「……。」

開きかけては閉じて、また迷う。

(……いや、今しかない!)

ぐっと拳を握りしめ、覚悟を決めた。

「あの!大宮さん!」

少し俯いて歩いていた里桜が、はっと顔を上げる。

「なに?瀬田くん。」

真っすぐ見つめられて、一瞬だけ智哉は言葉を失った。

それでも、勇気を振り絞る。

「あの……よかったら……」

一呼吸置いて、最後まで言った。

「連絡先、交換してくれないかな。」

「……えっ?」

里桜の時間が止まる。

(今……連絡先って言った?言ったよね?!)

鼓動が一気に速くなり、頭の中で智哉の言葉がぐるぐるとまわっていた。

智哉は返事がないことに焦って、

「あ、もちろん、よかったらだから!」

慌てて言葉を重ねる。

その必死そうな声に、里桜の口から思わず本音が飛び出した。

「私も知りたかったの!」

言った瞬間、二人とも目を丸くした。

「あっ……」

里桜は自分が何を口走ったのか気づき、耳まで真っ赤になる。

「……。」

恥ずかしさに耐えきれず、里桜は俯いてしまった。

一方の智哉も、驚いたように目を丸くしたあと、ふっと嬉しそうに笑う。

「よかった。」

その一言だけで、里桜の心はじんわり温かくなった。

バスが来るまでの短い時間で、二人は少し照れながらスマートフォンを取り出し、ぎこちなく連絡先を交換した。

画面に表示された互いの名前を見つめるだけで、思わず笑みがこぼれる。

文化祭の日には踏み出せなかった一歩。

一週間遅れで踏み出した勇気が、二人の距離をまた少しだけ近づけてくれた。

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