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お互いの連絡先を交換したその日の夜、里桜はスマートフォンの画面を見つめながら、深く息を吐いた
(あー、連絡していいのかなぁ……ってか何書けばいいの?……でもなぁ……)
里桜は慎重に言葉を選びながら、入力しては消して、目を閉じて考えてから、また入力しては消すことを繰り返していた。
その時、ピコンと通知音が鳴った。
画面に表示された文字は「瀬田智哉」。
「ええー!!」
里桜は咄嗟に声を上げて、驚いてスマートフォンを落としてしまった。
急いでメッセージを見ると
『大宮さん、今日はありがとう。』の文字が光る。
里桜はその文字を見つめたまま嬉しくて自然と声が溢れた。
「やーった!!」
そして、はっと気づく。
(返事!……どうしよう……えー?!……どうしよう!)
里桜は緊張で指先が震えてしまう。
『こちらこそ、ありがとう』
迷いに迷いながら、とても無難な言葉に落ち着き、送信した。
里桜ははぁーっと深いため息をつく。
(違う言葉の方が良かったかも……えー、でも送っちゃったよ……)
里桜はスマートフォンを胸に抱えながら、小さく肩の力を抜いた。
次の日の朝、教室に入ると智哉は既に自分の席に座って友達と話をしていた。
里桜は自分の席に向かいながら、智哉に声をかけるか迷った。
その時、
「おはよう、大宮さん」
智哉がいつもの穏やかな笑顔を浮かべながら、声をかけてきた。
里桜の心がすぐに温かくなっていく。
つられて、笑顔を浮かべながら里桜が答える。
「おはよう、瀬田くん」
ふたりで顔を見合せ小さく笑い合う。
昨日のささやかなメッセージのやり取りが、思った以上に2人の距離を近づけていた。
ある日の放課後、この日はテスト期間でほとんどの部活動が休みだった。
里桜と智哉は夜になると他愛のないメッセージを送り合うようになっていた。
好きな食べ物や好きな色、今日見た動画で面白かったもの、授業の愚痴など。
会話の内容はありふれたものだけれど、里桜は智哉のメッセージを見る度に、少しずつ智哉のことを知っていく実感が湧いて、とても嬉しかった。
里桜は下駄箱に向かいながら、昨夜の智哉と交わしたメッセージを思い出し、少し俯いて小さくクスっとわらった。
隣でそれを見ていた紗希がニヤリと笑う。
「何思い出してるの??……ねえねえ?」
「……別に何も思い出してないよ!もう!」
紗希に自分の考えが読まれたような気がして、里桜は恥ずかしくなり、慌てて返事をし、足早に歩く。
「えー、待ってよ、里桜~」
ケラケラ笑いながら紗希が里桜を追いかけた。
下駄箱のところまで来ると、ちょうど智哉が友達と話しながら靴を履き替えているところだった。
智哉を見つけた途端、里桜は立ち止まる。
(瀬田くん……)
友達と穏やかに笑い合う智哉をみて、里桜は何となく安堵感を覚えた。
(いつもの瀬田くんだ……)
自然と里桜の口元に笑みが浮かぶ。
横で里桜の様子を見ていた紗希がふんふんと頷くと、智哉と話していた男子に視線を移し明るく声をかける。
「ねえ!吉田君!……一緒にたこ焼き食べに行こうよ!」
「は?!……なんで??」
「いいじゃん!たこ焼き奢るからさー、美味しいお店知ってるんだよ!」
「いや……そうゆう意味じゃなくて……」
戸惑い言い淀む吉田の腕を紗希が掴み引っ張った。
「立花さん???え???」
強引に腕を引かれながら、紗希に連れ去られる吉田を、残された里桜と智哉は唖然と眺めながら、そっと里桜が言った。
「……ドナドナ……」
「……」
智哉が里桜を見て、里桜も智哉をみる。
互いに顔を見合わせ吹き出した。
校門からいつものバス停まで、ゆっくりと二人で歩く。
心地よい落ち着いた声で話す智哉の横顔を、時折見つめながら、里桜は智哉の隣にいる幸せを噛み締めていた。
(あったかい……)
ふと、静かになり会話が止まったことに気がついた。
それと同時に智哉の足も止まった。
数歩前に歩いた里桜は、どうしたのだろうと振り返った。
「あの……大宮さん……あー……前から言いたかったんだけど……」
智哉が躊躇いがちに時折口をパクパクさせながら言った。
智哉の視線が少しずつ下がっていく。
「……どうしたの?」
里桜は智哉の顔を見ていたが、困った様子に気づき、少し目を逸らした。
何を言われるのか気になり、里桜の顔に不安が広がっていく。
智哉はぱっと視線を上げ里桜の顔を見て、意を決して口を開く。
「お、俺と、付き合ってください!」
里桜は弾かれたように顔を上げ智哉を見た。
「はい!ぜひ!!」
そして智哉の声に被せる勢いで、少し上擦った声で返事をした。
(今、付き合ってって……言ってくれた……よね……ドキドキが止まらない……心臓が壊れそうだよ!!!)
里桜は一気に頬が熱くなるのを感じていた。
そして、嬉しくて自然と口元が綻ぶ。
恥ずかしくて里桜は俯き、智哉の足元を見ていた。
驚くのと同時に焦っていた里桜からは次々と言葉が溢れてきた。
「あの!私も好きだったの!えっと、夜、メッセージ来るの楽しみにしてて!えっと、今みたいに一緒に帰るのも嬉しくて!それから……」
「ストップ!ストップ!大宮さん!……ちょっと止まろう!」
里桜がハッとし顔をあげると、目の前には真っ赤な顔で口元を右手で隠した智哉がいた。
(耳も赤い……)
ふと見つけた智哉の形のいい耳は耳たぶを中心に赤く色づいていた。
「…………えっと、帰ろうか」
しばらく間を置いて智哉が言い歩き出した。
智哉に負けないくらいに頬を赤く染めた里桜は小さく頷き、それについて行く。
恥ずかしくて沈黙が続くのに、それが不思議と心地よく、2人ともふわふわした気持ちで歩いた。
大人しくて控えめな里桜の初恋はこうして実を結んだ。
これからふたりで歩く未来を祝福するように、美しく澄んだ風がくるりと舞った。
ここまで読んでいただきありがとうございました。




