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銀の伝承  作者: 銀の伝承
終章「春の光」
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第177話「英雄の凱旋」

草原での再会から数日後。

世界は静けさを取り戻し、空はどこまでも澄んでいた。


一行は、各国の王や軍勢と共に、ゆっくりとグランヘイム王国を目指した。

その道中、村という村、町という町で、人々が涙を流し、花びらを撒き、英雄たちを見送った。


そして、その日が来た。


視界に広がったのは、グランヘイム王都。千の尖塔と、万の旗が風に揺れる壮麗なる都。

純白の城壁は陽光を受けて輝き、天を貫く王城の塔には、黄金の王旗が翻っていた。

だが、その壮観をも凌駕する光景が今、王都を包んでいた。


歓声。

大地を震わせ、空を突き抜けるような轟き。


「ブリシンガー殿に栄光あれ!」

「英雄一行に祝福を!」


群衆の叫びが、波となって押し寄せる。

王都の大通りは、人、人、人。

民衆で埋め尽くされ、建物の窓や屋根にまで、老若男女がひしめき合っていた。


彼らの手には、花束と旗。

風に舞うのは、無数の花びらと、光の粒を散らす魔法の幻影。

鐘が鳴る。


王都中の鐘楼が一斉に鳴り響き、天空では音楽隊のファンファーレが高らかに奏でられる。

その旋律に合わせ、魔術師たちが空を虹色に染め、光の弓と星々の幻影が、空を舞った。


英雄の凱旋。

これ以上にふさわしい言葉はなかった。


先頭を進むのは、王族たち。

ロズベルクは青と金の甲冑を纏い、黄金の王旗を掲げた騎士団と共に堂々と進む。


その隣には、紅の外套を翻すヤシーン、そして、純白の馬に跨るアリュセール。

リゼルフェインは、白銀のローブを風に揺らし、無言のまま、王都の景色を見つめていた。


そしてその後方に、馬車に乗ったブリシンガーの姿。

質素な衣に、風に揺れる銀の髪。その姿に群衆の熱気は更に上がる。


誰もが知っていた。この男こそが、世界を救った英雄だと。


システィーンが彼の隣に並ぶ。

彼女は白いドレスを纏い、金の髪を陽光に輝かせていた。その微笑みは、すべてを赦し、抱きしめる女神のようだった。


馬車の上で、バルダーが両腕を組みながら照れ隠しのように顔を背け、「……すげぇな……」と呟く。


ドゥガルは無言で髭を撫でながら、何度も頷いていた。


フィリアは、魔術師と神官しての誇りを胸に、凛とした姿勢で馬に乗っていた。その表情には、仲間の帰還を見届けた者だけが持つ静かな安堵があった。


ゼルグは人の姿となり、竜としての威容を最小限に、ただ静かにその光景を馬車から見守っていた。


カリスは、恥ずかしそうに顔を伏せていた。


凱旋の行列が王都の中央広場に差しかかった時、人々の歓声が、最高潮に達した。

空を舞う花びらと光の雨が、まるで天空から降る祝福のように降り注ぐ。


ロズベルクが、馬上から振り返り、声を張り上げた。


「見よ!ここに、世界を救った英雄、ブリシンガー殿がおわす!」


世界が、轟いた。

歓声、太鼓、鐘、トランペット、大地と天空が鳴動する音の洪水が爆発した。

魔術師たちの紡ぐ光が、巨大な白銀の剣の幻影を空に描き、七色の光が都全体を包み込む。


「ブリシンガー!!」

「ブリシンガー!!」

「英雄一行!!万歳!!」

「英雄一行!!万歳!!」


その名を、何万という声が呼んだ。その響きが空を突き抜け、雲をも震わせるかのようだった。


ブリシンガーは、その声に微笑みながらただ一言だけ呟いた。


「……俺は、もう神の戦士じゃない。これからは、ただの人間として生きる」


その言葉は、歓声にかき消されるほど小さかったが、隣にいたシスティーンには、はっきりと届いていた。


彼女は、その手を握り、優しく囁く。


「じゃあ、その人生を……私と一緒に」


ブリシンガーは、静かに笑った。


「……ああ。今度こそ、約束する」


歓声と鐘の音、光と花の雨が、世界を包み込む。


英雄の物語はここで終わり、一人の男の人生が今、始まった。

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