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銀の伝承  作者: 銀の伝承
第八章「神域決戦編」
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第163話「心正しき魔族カリス」

焚き火の名残がまだほのかに残る広場に、二人の影が並んでいた。


転送ゲートの奥に続く光は、遠くでゆらめくように存在している。


その手前で、カリスは寡黙に立ち尽くしていた。


「……時間か?」

カリスの低く、落ち着いた声。


「……ああ。残るはお前と、システィーンだけだ」


ブリシンガーは隣に並び、カリスと同じように空を見上げた。星が、やけに遠く感じる。


しばらく、二人は何も言葉を交わさなかった。

ただ、戦士同士の沈黙がそこにあった。


やがて、ブリシンガーがゆっくりと口を開いた。

「……カリス」


「ああ」


「お前がグロイと戦った時、そしてアイゼンヘイムの器に立ち向かった時、バルダーを守ってくれたこと、感謝している」


その言葉に、カリスは少しだけ表情を崩した。

「……グロイの時、あいつが勝手に飛び込んできただけだ。俺も死にかけてたし、助けてくれた連中に死なれても後味が悪い」


ブリシンガーは彼を見据える。

「それでも、結果としてお前がいたから、生き延びられた」


カリスは顔を伏せてフッと笑う。けれど、それ以上何も否定はしなかった。


ブリシンガーは続ける。

「バルダーは、お前にとっても……特別なんだな」


「……そうかもしれんな。あいつは、俺の“選択”の証だ」


カリスのその言葉に、ブリシンガーは目を細めた。

「選択?」


「俺がザラハートの避難民として生活していた時は、まだ人間なんて完全に信用しちゃいなかった。だが、グロイ戦で初めてあいつを見た時、直感で感じたんだ。こいつなら、信用してもいいと」

「お前は俺がバルダーを救った礼をしてくれているが……俺もあいつには何度も救われている。心も身体もだ」


ブリシンガーは静かにうなずく。

「……俺もだ。だからこそ、言っておきたいことがある」


「聞こう」


ブリシンガーの声が、ほんの少しだけ低く、重くなった。


「……万が一、俺がいなくなったら……バルダーのことを、頼む」


その一言に、カリスは黙って目を伏せた。そして、ゆっくりと拳を握る。


「あいつは、お前に憧れてる。だからこそ、あんたの死は、何よりも重くなる。……でも」


カリスは、まっすぐブリシンガーを見た。

「わかった、任せろ。あいつも、俺自身も。……お前の代わりなんて到底できやしないが、それでも背中を見せる者として、俺なりに立ってみせる」


その言葉に、ブリシンガーはわずかに目を細め、深く頷いた。


「……感謝する」


二人は握手を交わした。


火花のような熱はなかった。けれどその手の中に、確かにあったのは信頼だった。


「カリス。……また、どこかで会おう」


「お前が戻ってくる時にな」

カリスは言い捨てるように言って、踵を返した。


ゲートの前で一瞬立ち止まると、振り返らずにひと言、呟くように残した。


「……生きて帰れ。バルダーに、泣かせんなよ」


そして、そのまま彼の姿は光に包まれ、ゲートの中へと消えていった。

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